ー特別編ーカウントアップ
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その夜、さらに一時間シャロン吉村の話を聞いた。彼女が帰ってから必死に考える。BGMはスティーヴ・ライヒの「十八人の音楽家のための音楽」。カチカチと鳴り続けるヒロキの計数機を思い出す。ライヒはアメリカの作曲家。まだ生きてる。現代音楽なんていうとむずかしそうだが、ぜんぜんそんなことない。テレビのCFなんかでも、すごくパクられてる。ピアノやマリンバの単純なメロディを、ほんのわずかな時間ずらして延々と繰り返していく。すると音と音が干渉を起こし、厚いところと薄いところが縞模様のように浮き上がってくる。聴覚的モワレ現象。メロディではなく音のずれを聴く音楽だ。おれの話しによく似ている。ストーリーではなくストーリーのずれと言葉の弾みで聞かせる話。
ヒロキ、エリト、シャロン吉村、多田三樹男、禅……プレーヤーの名を紙に書き、何度も線を引いたり、潰したりする。おれの知っている情報をすべて一枚の紙に、細かな文字で書き込んでいく。鍋のなかにすべての材料をぶちこんで火にかけるようだった。頭のなかがしだいにどろどろに煮詰まっていく。すぐにこたえなどでるわけがない。だが、いつだってこの過程を踏まないと、最初の一歩さえだせないのだった。苦しいけれど、苦しむしかない時間だ。
おれはその夜、「十八人の音楽家のための音楽」を七回繰り返し聴き、ただひたすら考え続けた。四百七十四分間。街にカラスの鳴き声が響き、窓の外の夜が青くなるころ、倒れるように眠りについた。
つぎの日は店開きだけ手伝うと、すぐに池袋の街に飛び出した。取りあえずエリトの店と自宅だけでも見ておこうと思ったのだ。
フィジカル・エリートはシャロン吉村のいう通り、東急ハンズの裏手の川越街道沿いにあった。一階がサイクルショップになった古びた雑居ビルの三階だ。かび臭いエレベーターでのぼると、鋼線いりのガラス扉にはCLOSEDの札がさがっていた。ドアの取っ手にはほこりが溜まっている。店のなかをのぞきこんでみた。
スケートボード、BMX、フリスビー、競技用ヨーヨー。西海岸のカラフルなスポーツグッズが狭い店内にびっしりと並べられていた。あちこちにさげられた手書きのPOPで派手好きな店主の趣味がよくわかる。もちろん誰もいなかった。一階に戻り、キャノンデールのマウンテンバイクを組んでいる店の兄ちゃんにきいてみる。
「フィジカル・エリートっていつからしまっちゃったのかな。おれあそこでBMXのサドル頼んでいたんだけど」
「もう金払ったの?」
しゃがみこんだまま兄ちゃんがいった。おれは首を横に振った。
「ならいいじゃん。先月の終わりからずっと閉まってるよ。うちの店のまえにも借金取りがうろうろしてて、商売になんないよ」
エリトの自宅にもいった。東池袋の隣の文京区大塚。護国寺の東側の緑の多い街並みに建っている高級そうなマンションだった。
ヒロキ、エリト、シャロン吉村、多田三樹男、禅……プレーヤーの名を紙に書き、何度も線を引いたり、潰したりする。おれの知っている情報をすべて一枚の紙に、細かな文字で書き込んでいく。鍋のなかにすべての材料をぶちこんで火にかけるようだった。頭のなかがしだいにどろどろに煮詰まっていく。すぐにこたえなどでるわけがない。だが、いつだってこの過程を踏まないと、最初の一歩さえだせないのだった。苦しいけれど、苦しむしかない時間だ。
おれはその夜、「十八人の音楽家のための音楽」を七回繰り返し聴き、ただひたすら考え続けた。四百七十四分間。街にカラスの鳴き声が響き、窓の外の夜が青くなるころ、倒れるように眠りについた。
つぎの日は店開きだけ手伝うと、すぐに池袋の街に飛び出した。取りあえずエリトの店と自宅だけでも見ておこうと思ったのだ。
フィジカル・エリートはシャロン吉村のいう通り、東急ハンズの裏手の川越街道沿いにあった。一階がサイクルショップになった古びた雑居ビルの三階だ。かび臭いエレベーターでのぼると、鋼線いりのガラス扉にはCLOSEDの札がさがっていた。ドアの取っ手にはほこりが溜まっている。店のなかをのぞきこんでみた。
スケートボード、BMX、フリスビー、競技用ヨーヨー。西海岸のカラフルなスポーツグッズが狭い店内にびっしりと並べられていた。あちこちにさげられた手書きのPOPで派手好きな店主の趣味がよくわかる。もちろん誰もいなかった。一階に戻り、キャノンデールのマウンテンバイクを組んでいる店の兄ちゃんにきいてみる。
「フィジカル・エリートっていつからしまっちゃったのかな。おれあそこでBMXのサドル頼んでいたんだけど」
「もう金払ったの?」
しゃがみこんだまま兄ちゃんがいった。おれは首を横に振った。
「ならいいじゃん。先月の終わりからずっと閉まってるよ。うちの店のまえにも借金取りがうろうろしてて、商売になんないよ」
エリトの自宅にもいった。東池袋の隣の文京区大塚。護国寺の東側の緑の多い街並みに建っている高級そうなマンションだった。