ー特別編ーカウントアップ
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シャロン吉村はバッグから一枚の写真を取り出した。二十代後半の長髪の男とヒロキと彼女が、三人でどこかのレストランのテーブルを囲んでいる写真だった。淡くあたたかなキャンドルの光。笑顔を浮かべたときの唇の端のしわがみなよく似ている。
「これが長男の吉村秀人(エリト)です。まえの夫とのあいだにできた子で、離婚後は別々に暮らしていました。今は東京ハンズの裏でスポーツショップをやっているんだけど、それがうまくいかなくて借金取りに終われているの」
そういうと名刺を出す。店の名はフィジカル・エリートだった。
「以前も飲食店をやって潰していて、そのときの借金は私が肩代わりしました。今回もまた泣きついてきて……私が断るとこんなことになって」
どうなっているんだろうか、狂言誘拐なのか。茫然と正面に座るおれを見つめたまま、涙をこらえているシャロン吉村にきいた。
「連絡はあるんですか?」
「ええ、私に心配をかけないように一度だけ電話がありました。ヒロキは無事で元気だ。多田にはこのことは黙っていてくれ。それでおしい。こちらからかけても通じないの。お店も閉めたままだし、自宅にいっても誰もいない」
ヒロキの身に危険がおよばないのなら、なんとかなるかもしれない。考え込んだおれに、シャロン吉村はたたみかける。
「心配なのはヒロキよりエリトなの。あの子は多田が警察には届けないだろうし、仮に自分の仕業だとばれても、私の息子だからだいじょうぶとたかをくくっている。でも、多田はそんな甘い人間じゃない。エリトは一生残る傷を見せしめに受けるし、いっしょに動いている人は殺されるかもしれない。多田は切れたら人ではなくなるわ」
そんなやつを相手にどうすればいいんだ。おれの嫌いなヤクザの、さらに嫌いなお偉いさん。お近づきになりたくない。それにどう考えても、ヒロキの兄貴の自業自得だろう。だが、殺されるやつはかわいそうでは済まなかった。薄くなった涙が灰色の跡を残し、シャロン吉村の頬を滑り落ちる。
「警察にもいえない。あの人にも、あの人の部下にもいえない。芸能人のお友達は頼りにならない。昨日からひとりきりで考え続けて、おかしくなりそうだった。もう、あなたしかいないの。お願いします。エリトとヒロキを助けてください。お願いします。」
テレビでは簡単に夫婦を別れさせているのに、自分の家庭のことはうまくいかないようだった。誰の人生だってそんなものだろう。泣いている母親を見ながら、おれは自分が追いつめられたことを知った。誰にもいえない言葉のバトンを渡される。そうしたら、あとは全力で走るしかない。レースの最中に地面にバトンをおいて立ち去れるだろうか。おれは渋々いった。
「わかりました。できる限りのことはやってみます」
ミス3。
「これが長男の吉村秀人(エリト)です。まえの夫とのあいだにできた子で、離婚後は別々に暮らしていました。今は東京ハンズの裏でスポーツショップをやっているんだけど、それがうまくいかなくて借金取りに終われているの」
そういうと名刺を出す。店の名はフィジカル・エリートだった。
「以前も飲食店をやって潰していて、そのときの借金は私が肩代わりしました。今回もまた泣きついてきて……私が断るとこんなことになって」
どうなっているんだろうか、狂言誘拐なのか。茫然と正面に座るおれを見つめたまま、涙をこらえているシャロン吉村にきいた。
「連絡はあるんですか?」
「ええ、私に心配をかけないように一度だけ電話がありました。ヒロキは無事で元気だ。多田にはこのことは黙っていてくれ。それでおしい。こちらからかけても通じないの。お店も閉めたままだし、自宅にいっても誰もいない」
ヒロキの身に危険がおよばないのなら、なんとかなるかもしれない。考え込んだおれに、シャロン吉村はたたみかける。
「心配なのはヒロキよりエリトなの。あの子は多田が警察には届けないだろうし、仮に自分の仕業だとばれても、私の息子だからだいじょうぶとたかをくくっている。でも、多田はそんな甘い人間じゃない。エリトは一生残る傷を見せしめに受けるし、いっしょに動いている人は殺されるかもしれない。多田は切れたら人ではなくなるわ」
そんなやつを相手にどうすればいいんだ。おれの嫌いなヤクザの、さらに嫌いなお偉いさん。お近づきになりたくない。それにどう考えても、ヒロキの兄貴の自業自得だろう。だが、殺されるやつはかわいそうでは済まなかった。薄くなった涙が灰色の跡を残し、シャロン吉村の頬を滑り落ちる。
「警察にもいえない。あの人にも、あの人の部下にもいえない。芸能人のお友達は頼りにならない。昨日からひとりきりで考え続けて、おかしくなりそうだった。もう、あなたしかいないの。お願いします。エリトとヒロキを助けてください。お願いします。」
テレビでは簡単に夫婦を別れさせているのに、自分の家庭のことはうまくいかないようだった。誰の人生だってそんなものだろう。泣いている母親を見ながら、おれは自分が追いつめられたことを知った。誰にもいえない言葉のバトンを渡される。そうしたら、あとは全力で走るしかない。レースの最中に地面にバトンをおいて立ち去れるだろうか。おれは渋々いった。
「わかりました。できる限りのことはやってみます」
ミス3。