ー特別編ーカウントアップ
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その夜、店番をしていると、シャロン吉村が新宿の人波を分けて歩いてきた。海が割れるように酔っぱらいが道をあける。スポットライトを浴びてるみたいに、彼女の周囲が明るく感じられた。元々やせている顔がさらにやつれ、厳しい表情は氷山のような美しさ。彼女はすがる目でおれを見ていった。
「収録が済んで化粧も落とさずにきちゃった。小鳥遊さん、話をできるところはある?」
はなちゃんを見た。おれと同様、シャロン吉村の様子に異常を感じ取たようだ。はなちゃんは黙っておれにうなずいた。
「きてくれ」
おれは店の奥の木の扉を開けた。入るとすぐに住居スペースになっている。ものが落ちていないところに適当に座らせる。
「ヒロキくんがいなくなったんですね」
「知っていたんですか」
おれは猟犬のような運転手がわざわざ知らせにきてくれたことを話した。シャロン吉村は困惑した顔をする。
「うちの人がやりそうなことね。ヒロキは月曜日の朝、西口公園にいくといって家を出たまま帰らないの。誘拐されました」
確かに心配そうではある。だが、「誘拐されました」はちょっと冷静すぎだ。なにか事情があるのだろうか。シャロン吉村は怒ったようにいう。
「うちの人はメンツもあって警察には届けていません。他の組関係の仕業かもしれないと疑っているようです。小鳥遊さんはこの街では有名なトラブル解決屋さんで、ストリートギャングにも顔がきくそうね。一ノ瀬組の方にも気に入られているそうじゃないの。」
調べはついてるようだった。だが、一ノ瀬組の組長とはほとんど顔合わせがないのとヤクザが嫌いな事まで知っているのだろうか。シャロン吉村は
正座したまま、やわらかそうなオーストリッチのショルダーバッグから、なにか取り出した。ビニールケースにはいった通帳と黒革の印鑑いれだった。古畳を滑らせ、おれのまえにおく。スヌーピーの通帳を開いた。ヒロキが生まれてから、毎月欠かさず五万円振り込まれていた。百二十回を超える記帳の列が、びっしりと続いている。一行ずつ印字されている数の列に、おれはなにかすごい力を感じた。総額はすでに六百万を突破している。
「学費保険の代わりに私のギャラから、毎月積み立てたお金です。全部、差し上げますから、私の息子を助けてください」
そんなことをいわれても、おれには誘拐なんてどうにもできない。営利誘拐なんて守備外だし、他の組織が絡んでいたら手をだすだけで危険だった。もちろんおれのせいでヒロキが死んだりしたり、取り返しがつかない。
「残念だけど、いくらもらってもどうしようもないです。おれにはヒロキくんを助けられるかわからない」
「ヒロキだけじゃないの。もうひとりの息子も助けてほしいんです」
シャロン吉村は黒い涙を落としながらそういった。マスカラが溶けだし、ファウンデーションもぼろぼろでひどい顔。おれは意味がわからずに黙りこんだ。
「ヒロキを誘拐したのは、あの子の兄なんです」
「……あー?」
「収録が済んで化粧も落とさずにきちゃった。小鳥遊さん、話をできるところはある?」
はなちゃんを見た。おれと同様、シャロン吉村の様子に異常を感じ取たようだ。はなちゃんは黙っておれにうなずいた。
「きてくれ」
おれは店の奥の木の扉を開けた。入るとすぐに住居スペースになっている。ものが落ちていないところに適当に座らせる。
「ヒロキくんがいなくなったんですね」
「知っていたんですか」
おれは猟犬のような運転手がわざわざ知らせにきてくれたことを話した。シャロン吉村は困惑した顔をする。
「うちの人がやりそうなことね。ヒロキは月曜日の朝、西口公園にいくといって家を出たまま帰らないの。誘拐されました」
確かに心配そうではある。だが、「誘拐されました」はちょっと冷静すぎだ。なにか事情があるのだろうか。シャロン吉村は怒ったようにいう。
「うちの人はメンツもあって警察には届けていません。他の組関係の仕業かもしれないと疑っているようです。小鳥遊さんはこの街では有名なトラブル解決屋さんで、ストリートギャングにも顔がきくそうね。一ノ瀬組の方にも気に入られているそうじゃないの。」
調べはついてるようだった。だが、一ノ瀬組の組長とはほとんど顔合わせがないのとヤクザが嫌いな事まで知っているのだろうか。シャロン吉村は
正座したまま、やわらかそうなオーストリッチのショルダーバッグから、なにか取り出した。ビニールケースにはいった通帳と黒革の印鑑いれだった。古畳を滑らせ、おれのまえにおく。スヌーピーの通帳を開いた。ヒロキが生まれてから、毎月欠かさず五万円振り込まれていた。百二十回を超える記帳の列が、びっしりと続いている。一行ずつ印字されている数の列に、おれはなにかすごい力を感じた。総額はすでに六百万を突破している。
「学費保険の代わりに私のギャラから、毎月積み立てたお金です。全部、差し上げますから、私の息子を助けてください」
そんなことをいわれても、おれには誘拐なんてどうにもできない。営利誘拐なんて守備外だし、他の組織が絡んでいたら手をだすだけで危険だった。もちろんおれのせいでヒロキが死んだりしたり、取り返しがつかない。
「残念だけど、いくらもらってもどうしようもないです。おれにはヒロキくんを助けられるかわからない」
「ヒロキだけじゃないの。もうひとりの息子も助けてほしいんです」
シャロン吉村は黒い涙を落としながらそういった。マスカラが溶けだし、ファウンデーションもぼろぼろでひどい顔。おれは意味がわからずに黙りこんだ。
「ヒロキを誘拐したのは、あの子の兄なんです」
「……あー?」