ー特別編ーカウントアップ
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禅は見たところごく普通の男だ。アクセサリーなし、化粧なし、ピアスなし、タトゥーなし。違っているのは二点だけ。やつの髪は常に片方の目を隠している。誰も見たことないらしいが本人いわく普通の目だといっている。もう一点は食べるもの、やつのテーブルには糖分のある甘いものしか並ばない。誰ひとりとしてやつが肉魚野菜米を食ってるところを見たことがない。よくて煎餅とか菓子化したものだ。体内でどういう風に栄養を補ってるのか不思議で仕方ない。
それでもおれの中でもっと印象的なのはやつの目だった。ものすごく淡い灰色のガラスを一メートルも積み上げたような目。どこまでも澄んでいて見るほうが不安になる湖みたいだ。第二次大戦中友軍の捕虜を救うため、 収容所で身代わりになって死んだという牧師はきっとこんな目をしていたんじゃないだろうか。恐ろしく宗教的な情報屋。
禅はひどくやせた身体を、XLのスポーツウエアのなかで泳がせながら、いつもその店で座っている。指定席のテーブルがやつの仕事場なのだ。電波状態のいい窓際にはスマホが五台並べられ、正面にはノートブックパソコンが二台。そうして、やつは情報を求めて客がくるのを待つ。禅は聖なるパンを分けるように、迷える客に情報を与えてやるのだ。
ぼんやりと見ていると、携帯のひとつを取り上げ、やつは短縮番号を押した。おれの携帯が、一瞬遅れて鳴り出した。取るまえから、なぜかおれには禅だとわかった。
『悠…さん…』
なんだといった。禅の唇は話すときでも、ほとんど動かなかった。
『俺の……テー……ブルに…こな……いです…か』
「連れがいるんだ」
禅は広いフロアの反対側にいるおれを見つめたままいった。
『知……って……ます。多…田…三樹夫……の息子……ですよ…ね。いいで…から……ひと…りで…俺の…ところに……来…てくだ……さい』
ちょっと知り合いに挨拶してくるといって、おれはヒロキがなにかをカチカチと数えているテーブルを離れた。
やつの仕事場にむかって歩いていくあいだ、禅はじっとおれを見ていた。ホルマリン標本にでもなった気がする。
「どう…ぞ…座って……くださ…い。」
ガス漏れみたいな声。やつの正面のビニールシートに滑り込んだ。コンピューターの電源は壁のコンセントに伸びている。
「店長に…了解は…取って……ます。俺は……上客…ですから」
一日二十時間近くをこのファミレスですごし、切れ目なくなにか注文しているんだから当然かも知れない。やつの目を見た。
それでもおれの中でもっと印象的なのはやつの目だった。ものすごく淡い灰色のガラスを一メートルも積み上げたような目。どこまでも澄んでいて見るほうが不安になる湖みたいだ。第二次大戦中友軍の捕虜を救うため、 収容所で身代わりになって死んだという牧師はきっとこんな目をしていたんじゃないだろうか。恐ろしく宗教的な情報屋。
禅はひどくやせた身体を、XLのスポーツウエアのなかで泳がせながら、いつもその店で座っている。指定席のテーブルがやつの仕事場なのだ。電波状態のいい窓際にはスマホが五台並べられ、正面にはノートブックパソコンが二台。そうして、やつは情報を求めて客がくるのを待つ。禅は聖なるパンを分けるように、迷える客に情報を与えてやるのだ。
ぼんやりと見ていると、携帯のひとつを取り上げ、やつは短縮番号を押した。おれの携帯が、一瞬遅れて鳴り出した。取るまえから、なぜかおれには禅だとわかった。
『悠…さん…』
なんだといった。禅の唇は話すときでも、ほとんど動かなかった。
『俺の……テー……ブルに…こな……いです…か』
「連れがいるんだ」
禅は広いフロアの反対側にいるおれを見つめたままいった。
『知……って……ます。多…田…三樹夫……の息子……ですよ…ね。いいで…から……ひと…りで…俺の…ところに……来…てくだ……さい』
ちょっと知り合いに挨拶してくるといって、おれはヒロキがなにかをカチカチと数えているテーブルを離れた。
やつの仕事場にむかって歩いていくあいだ、禅はじっとおれを見ていた。ホルマリン標本にでもなった気がする。
「どう…ぞ…座って……くださ…い。」
ガス漏れみたいな声。やつの正面のビニールシートに滑り込んだ。コンピューターの電源は壁のコンセントに伸びている。
「店長に…了解は…取って……ます。俺は……上客…ですから」
一日二十時間近くをこのファミレスですごし、切れ目なくなにか注文しているんだから当然かも知れない。やつの目を見た。