ー特別編ーカウントアップ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ワインはだいじょうぶね」
にこにこと笑ってそういうと、シャロン吉村(純粋な日本人なのにばかみたいな名前)は長々とカタカナでワインを注文する。
「小鳥遊さんは、なにをしているの」
シャロン吉村はサングラスをとった。ヒロキに似たおおきなひと重の目。美しさより、疲労感と激しさを感じさせる目だった。目のまわりの深いしわのせいかもしれない。
「新宿で茶屋の店番と、ときどきファッション誌のコラムを書いてます」
わざとらしいほど感心した表情が返ってくる。テレビの癖かな。コラムニストなんていうと格好いいけど、新鮮なストリートのネタを放り出すように書いているだけ。文章だってぜんぜんだめ。おれは池袋のなんでもトラブル相談屋のことは話さなかった。
「ヒロキくんは学校にはいっていないんですか?」
「ええ、カウンセラーには無理していかせるのはよくないっていわれているの。ときどきひどく心配になるけど」
おおきく息を吐いた。陣内孝則みたいなオーバーリアクション。理解のある親の役か。
「でもヒロキくんには、どこか人を引き付けるところがありますよ。放っておけないというか」
それは年齢には関係ない力だった。あるやつは二歳か三歳であるし、ないやつは一生ない。あの不思議な魅力。シャロン吉村の表情が明るくなった。
「どうもありがとう。ねえ、ちょっと小鳥遊さんのことを聞かせてもらっていいかしら」
それからはおれの身の上調査になった。
ヒロキの母は、おれの経歴を根掘り葉掘りきいてくる。生まれは、家族は、学歴は、友達は、将来の夢は?料理のメインコースが済んで、デザートのユズのシャーベットと紅茶のシフォンケーキがでるころには、履歴書が書けるくらいの情報をしぼり取られていた。話してみるとよくわかるが、経歴はその人間についてあまり核心を語らないとが多い。おれのようにどの場にいても、自然に流れをはずれているような場合は特に。
それでもシャロン吉村は、おれの話で安心したようだった。白いパンツのひざに広げたナプキンで唇を軽く押さえると、椅子の背にかけたバーキンから御祝儀袋を取り出した。立派な金と銀の水引。筆文字でおれの名前が書いてある。
「気を悪くしないでもらいたいんだけど、小鳥遊さんにお願いしたいことがあるの」
そういって、おれのまえに中央が高くふくらんだ和紙の包みをおく。
「うちの人がちける人間にはヒロキは心を開かない。小鳥遊さんもお忙しいでしょうけれど、ときどきでいいからヒロキの様子を気にかけてあげてほしいの。食事に誘ったり、このまえみたいに雨になったら傘を渡したり。あの子はあとで熱をだすくせに、平気でずぶ濡れになるような子なの私も仕事で手が離せないし、お願いします。」
「ヒロキくんのお父さんはどういう人なんですか?」
シャロン吉村の顔から表情が消えた。肌が何倍も厚くなり、ゴムの仮面でもかぶったように見える。
にこにこと笑ってそういうと、シャロン吉村(純粋な日本人なのにばかみたいな名前)は長々とカタカナでワインを注文する。
「小鳥遊さんは、なにをしているの」
シャロン吉村はサングラスをとった。ヒロキに似たおおきなひと重の目。美しさより、疲労感と激しさを感じさせる目だった。目のまわりの深いしわのせいかもしれない。
「新宿で茶屋の店番と、ときどきファッション誌のコラムを書いてます」
わざとらしいほど感心した表情が返ってくる。テレビの癖かな。コラムニストなんていうと格好いいけど、新鮮なストリートのネタを放り出すように書いているだけ。文章だってぜんぜんだめ。おれは池袋のなんでもトラブル相談屋のことは話さなかった。
「ヒロキくんは学校にはいっていないんですか?」
「ええ、カウンセラーには無理していかせるのはよくないっていわれているの。ときどきひどく心配になるけど」
おおきく息を吐いた。陣内孝則みたいなオーバーリアクション。理解のある親の役か。
「でもヒロキくんには、どこか人を引き付けるところがありますよ。放っておけないというか」
それは年齢には関係ない力だった。あるやつは二歳か三歳であるし、ないやつは一生ない。あの不思議な魅力。シャロン吉村の表情が明るくなった。
「どうもありがとう。ねえ、ちょっと小鳥遊さんのことを聞かせてもらっていいかしら」
それからはおれの身の上調査になった。
ヒロキの母は、おれの経歴を根掘り葉掘りきいてくる。生まれは、家族は、学歴は、友達は、将来の夢は?料理のメインコースが済んで、デザートのユズのシャーベットと紅茶のシフォンケーキがでるころには、履歴書が書けるくらいの情報をしぼり取られていた。話してみるとよくわかるが、経歴はその人間についてあまり核心を語らないとが多い。おれのようにどの場にいても、自然に流れをはずれているような場合は特に。
それでもシャロン吉村は、おれの話で安心したようだった。白いパンツのひざに広げたナプキンで唇を軽く押さえると、椅子の背にかけたバーキンから御祝儀袋を取り出した。立派な金と銀の水引。筆文字でおれの名前が書いてある。
「気を悪くしないでもらいたいんだけど、小鳥遊さんにお願いしたいことがあるの」
そういって、おれのまえに中央が高くふくらんだ和紙の包みをおく。
「うちの人がちける人間にはヒロキは心を開かない。小鳥遊さんもお忙しいでしょうけれど、ときどきでいいからヒロキの様子を気にかけてあげてほしいの。食事に誘ったり、このまえみたいに雨になったら傘を渡したり。あの子はあとで熱をだすくせに、平気でずぶ濡れになるような子なの私も仕事で手が離せないし、お願いします。」
「ヒロキくんのお父さんはどういう人なんですか?」
シャロン吉村の顔から表情が消えた。肌が何倍も厚くなり、ゴムの仮面でもかぶったように見える。