ー特別編ーカウントアップ
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『ヒロキはとてもうれしそうでした。西口公園で初めてお友達ができたって。それで、一度小鳥遊さんにお会いしてお礼をいいたいの。いいかしら』
当然自分には便宜をはかるものだといいたげな話かただったが、別に会うのはかまわない。いつでも来てくれと待ち合わせ場所はうち(小鳥遊堂)じゃなく、六花の店の場所をいった。
『あら、西一番街ね、昔よく遊んだわ』
意外だった。西一番街あたりで遊ぶお嬢様はいない。用件だけ済むと、いつのまにか電話は切れた。店先で酔っ払いがおれを呼んでいる。
「おい、兄ちゃん、饅頭くれ、お饅頭」
ひとつ五百円ぼったくろうかなと、おれは思った。
そのクルマが西一番街の狭い通りにはいってきたのは、つぎの日の昼まえだった。冬の淡い日ざしのなか、リンゴやメロンや一体成型でつくったように粒のそろったミカンなんかを並べるリッカの太ももを眺めてると、静かにクルマのとまる音がする。顔をあげると、ばかでかいメルセデスだった。店の間口が楽に隠れてしまう黒いボディ。近所の店のやつらがあきれた顔をして、不動産みたいな値段のクルマを見つめていた。運転手がおりて、後席のドアを開ける。きどった白いパンプスのつま先が地上にふれた。
「小鳥遊悠さん、いらっしゃいますかしら」
顔の半分を隠すサングラス。真っ白なスーツに負けない白い肌。思ったより小柄だった。金で磨かれた女特有の匂いがする。おれは立ち上がると、自分だといった。黒いレンズのしたで視線がおれをうえからしたまでなでている。シャロン吉村はうなずいた。
「さあ、のって。お昼をごちそうするわ」
リッカは店先で、占領軍でも見るような厳しい視線を送っている。おれは金庫みたいなメルセデスにのりこんだ。それにしても、人におごるのが好きな親子。
クルマのなかは静かだった。
メルセデスにのる人間が、世のなかはいつもことはないと錯覚するのも無理はない。西口五差路を西池袋方面にゆっくりと曲がっていく。芸術劇場のむかい側、東方会館の駐車場にはいった。おれたちは駐車場に運転手を残し、自動ドアをくぐった。運転手がじっとおれを見つめる目が印象的だった。餌を待てといわれた猟犬のような目。かたぎっぽくない。
東方会館は池袋にはめずらしい高級そうな結婚式場で、チャペルや宴会場やレストランなんかがそろっている。いつもまえを通りすぎるだけで、なかにはいったのは初めてだった。
シャロン吉村は常連のようだ。レストランに入るとボーイがすぐに寄ってきて、 日本庭園の見える窓際の予約席におれたちを案内する。着古したパーカーと軍パン姿のおれは、その場の空気にまったくそぐわなかった。白いテーブルクロスのうえには脳腫瘍の手術ができそうな数のナイフとフォーク、グレープフルーツが丸々入るでかいワイングラスが並んでいた。食欲がなくなる。
当然自分には便宜をはかるものだといいたげな話かただったが、別に会うのはかまわない。いつでも来てくれと待ち合わせ場所はうち(小鳥遊堂)じゃなく、六花の店の場所をいった。
『あら、西一番街ね、昔よく遊んだわ』
意外だった。西一番街あたりで遊ぶお嬢様はいない。用件だけ済むと、いつのまにか電話は切れた。店先で酔っ払いがおれを呼んでいる。
「おい、兄ちゃん、饅頭くれ、お饅頭」
ひとつ五百円ぼったくろうかなと、おれは思った。
そのクルマが西一番街の狭い通りにはいってきたのは、つぎの日の昼まえだった。冬の淡い日ざしのなか、リンゴやメロンや一体成型でつくったように粒のそろったミカンなんかを並べるリッカの太ももを眺めてると、静かにクルマのとまる音がする。顔をあげると、ばかでかいメルセデスだった。店の間口が楽に隠れてしまう黒いボディ。近所の店のやつらがあきれた顔をして、不動産みたいな値段のクルマを見つめていた。運転手がおりて、後席のドアを開ける。きどった白いパンプスのつま先が地上にふれた。
「小鳥遊悠さん、いらっしゃいますかしら」
顔の半分を隠すサングラス。真っ白なスーツに負けない白い肌。思ったより小柄だった。金で磨かれた女特有の匂いがする。おれは立ち上がると、自分だといった。黒いレンズのしたで視線がおれをうえからしたまでなでている。シャロン吉村はうなずいた。
「さあ、のって。お昼をごちそうするわ」
リッカは店先で、占領軍でも見るような厳しい視線を送っている。おれは金庫みたいなメルセデスにのりこんだ。それにしても、人におごるのが好きな親子。
クルマのなかは静かだった。
メルセデスにのる人間が、世のなかはいつもことはないと錯覚するのも無理はない。西口五差路を西池袋方面にゆっくりと曲がっていく。芸術劇場のむかい側、東方会館の駐車場にはいった。おれたちは駐車場に運転手を残し、自動ドアをくぐった。運転手がじっとおれを見つめる目が印象的だった。餌を待てといわれた猟犬のような目。かたぎっぽくない。
東方会館は池袋にはめずらしい高級そうな結婚式場で、チャペルや宴会場やレストランなんかがそろっている。いつもまえを通りすぎるだけで、なかにはいったのは初めてだった。
シャロン吉村は常連のようだ。レストランに入るとボーイがすぐに寄ってきて、 日本庭園の見える窓際の予約席におれたちを案内する。着古したパーカーと軍パン姿のおれは、その場の空気にまったくそぐわなかった。白いテーブルクロスのうえには脳腫瘍の手術ができそうな数のナイフとフォーク、グレープフルーツが丸々入るでかいワイングラスが並んでいた。食欲がなくなる。