ー特別編ーカウントアップ
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「そうかもしんない。成績悪いし。でも、おれがお前くらいのときは、まだLDってなかったんだ。」
びっくりした顔をする。ヒロキはなぜか椅子のうえで正座した。
「そうなんだ。うちのクラスには五人もいるのに、昔はいなかったんだ。」
たぶん、昔だってたくさんいたのだろうとおれは思う。ただ、そういう子どもを切り捨てて忘れていただけだ。今はいろいろな子どもを分類していれておける便利なファイルの数が増えたのだろう。
「なあ、なんでヒロキはいつも数かぞえてんの?」
超然とした笑いに得意な表情がプラスされた。カチカチ。
「それはね、数がほんとうで、残りのものはみんな見せかけだから」
「そんなもんかな」
「そう、なにもなくても生きられる人もいれば、生きていくのに数が必要な人もいる。世界を知るには、世界をかぞえなくちゃいけないんだ。この店のメニューは全部で二十六品目、全部頼むと七千八百六十円。さっき悠は公園をでるまでに、ぼくより二百十三歩すくなく済んでる。あの歩きかた教えてほしいな」
確かに知能に遅滞はないようだった。恐ろしく数には鋭いガキ。そんな暗算はおれにはとても無理。
それからおれたちは三十分ほど、あれこれと話をした。カップケーキを食い終わると、ヒロキはダウンジャケットのジッパーつきのポケットから、なにかちいさなものを取り出した。コンタクトレンズいれ?半透明の白いケースのふたを開ける。なかは細かに仕切られ、きれいな色の錠剤がきちんと分けておさめられていた。
ヒロキは慣れた手つきで、三種類の薬を取り分け、コップの水でのみこんでいく。おれはなんの薬か聞かなかった。それとなくヒロキから視線をはずしておく。
「これはね、頭のなかがどんどんスピードアップするのを防ぐ薬なんだ。のまないとぼくは一日中叫んでいたりする。こっちの楕円形のは薬じゃなくて、栄養食品……」
そういうとヒロキはピルケースの中身を見せる。おれのためらいや好奇心に敏感に反応する。でたらめに鋭い子どもだった。
「……頭が良くなるDHAだよ」
また遠い笑い。おれは精神安定剤と頭が良くなる栄養食品!をいっしょにのませる親の顔が見てみたかった。
「ねえ、悠。携帯もってるんでしょ。番号教えてよ」
「ああ、こう見えてもスマホとガラケーの二本持ちだ。ペンかなにかある?」
「ううん、口でいってくれればいいよ」
おれは不思議に思ったが、十二桁の番号を口にした。ヒロキの超然とした笑いがぴたりととまり、ひと重のおおきな目のなかで焦点がぼやけていくのがわかった。やつは目の奥へどんどん後退していくようだった。パチン、スイッチがはいると、あの笑顔が戻ってくる。
びっくりした顔をする。ヒロキはなぜか椅子のうえで正座した。
「そうなんだ。うちのクラスには五人もいるのに、昔はいなかったんだ。」
たぶん、昔だってたくさんいたのだろうとおれは思う。ただ、そういう子どもを切り捨てて忘れていただけだ。今はいろいろな子どもを分類していれておける便利なファイルの数が増えたのだろう。
「なあ、なんでヒロキはいつも数かぞえてんの?」
超然とした笑いに得意な表情がプラスされた。カチカチ。
「それはね、数がほんとうで、残りのものはみんな見せかけだから」
「そんなもんかな」
「そう、なにもなくても生きられる人もいれば、生きていくのに数が必要な人もいる。世界を知るには、世界をかぞえなくちゃいけないんだ。この店のメニューは全部で二十六品目、全部頼むと七千八百六十円。さっき悠は公園をでるまでに、ぼくより二百十三歩すくなく済んでる。あの歩きかた教えてほしいな」
確かに知能に遅滞はないようだった。恐ろしく数には鋭いガキ。そんな暗算はおれにはとても無理。
それからおれたちは三十分ほど、あれこれと話をした。カップケーキを食い終わると、ヒロキはダウンジャケットのジッパーつきのポケットから、なにかちいさなものを取り出した。コンタクトレンズいれ?半透明の白いケースのふたを開ける。なかは細かに仕切られ、きれいな色の錠剤がきちんと分けておさめられていた。
ヒロキは慣れた手つきで、三種類の薬を取り分け、コップの水でのみこんでいく。おれはなんの薬か聞かなかった。それとなくヒロキから視線をはずしておく。
「これはね、頭のなかがどんどんスピードアップするのを防ぐ薬なんだ。のまないとぼくは一日中叫んでいたりする。こっちの楕円形のは薬じゃなくて、栄養食品……」
そういうとヒロキはピルケースの中身を見せる。おれのためらいや好奇心に敏感に反応する。でたらめに鋭い子どもだった。
「……頭が良くなるDHAだよ」
また遠い笑い。おれは精神安定剤と頭が良くなる栄養食品!をいっしょにのませる親の顔が見てみたかった。
「ねえ、悠。携帯もってるんでしょ。番号教えてよ」
「ああ、こう見えてもスマホとガラケーの二本持ちだ。ペンかなにかある?」
「ううん、口でいってくれればいいよ」
おれは不思議に思ったが、十二桁の番号を口にした。ヒロキの超然とした笑いがぴたりととまり、ひと重のおおきな目のなかで焦点がぼやけていくのがわかった。やつは目の奥へどんどん後退していくようだった。パチン、スイッチがはいると、あの笑顔が戻ってくる。