ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
イナミの撮影はその後、無事終了した。
スタジオからの帰り道、おれはマナブとアキオに質問した。
「なんで、スタジオのなかにはいってきたんだ。打ち合わせでは非常階段とエレベーターを張っているはずだっただろ」
おれの予定ではスタジオのなかをおろが警戒し、犯人が逃げるところをふたりにガードしてもらうつもりだった。小デブのマナブがいった。
「それはそうだけど、イナミちゃんが撮影してるのに非常階段にいるなんてつまらないだろ。だから、ちょっとのぞきにいったんだ」
でかいデブのアキオもいった。
「最終的におれたちがイナミちゃんを守ったんだから、もういいじゃないか。」
確かに結果よければすべてよしである。それにおれはファンというものを再評価していた。本気でなければ、あれほどの献身を示せるはずがない。人間が別な誰かをあこがれる力というのは、決してバカにならないものだ。
おれたちのうしろを、なにか考えながらついてくるイナミがいった。
「ファンのひとがわたしのために命を張れるなら、わたしがファンのためにできることがもっともっとあるはずだよね」
マナブとアキオの声がそろった。
「もちろん!」
あの太ったふたりのガードマンとはそれっきりだが、イナミとは西口公園でもう一度会った。あのとき撮影した写真がカバーになったCDができたという。
関東が梅雨にはいって、肌寒い風が吹く曇り空のした、おれたちはまた同じパイプベンチにすわった。おれはいった。
「なんだかちょっと残念な結末だったな。おれは水森のユニットがうまくいって、イナミがばんばん売れちゃえばおもしろいのにって期待してたんだ」
イナミは平然と笑った。劇薬にも負けそうにない強い笑顔だ。
「ううん、やっぱりあの話しは断ろうと思っていたから。メジャーになるのも素敵かもしれないけど、わたしは池袋の地下アイドルでいいんだよ。ずっと自分でつくった好きな歌をうたっていけるんだし、この街のファンのひとはマナブさんやアキオさんみたいに素晴らしいしね。この街のためにわたしにもできることがある。それがなんだかうれしいんだ」
湿った重い風が東部デパートのビルから吹き下ろしてきた。そろそろ今年の梅雨の最初の雨粒が落ちてくることだろう。
イナミの言葉はそのまま、おれが今回の事件で感じたことだった。
こうして人さまのトラブルに余計な頭を突っ込み、解決できたり、出来なかったりする。そんなふうにして、年をとっていくのもいいものだ。この街には、あまりにくだらなすぎて、おれにしかあつかえないようなマイナートラブルが無数に転がっている。
「じゃあ、わたしは今日もライヴがあるから。ひまだったら、見にきてね」
「わかった。おたくたちをしびれさせてやれよ」
おれたちは手を振って、円形広場を別れた。ぬるい雨がふりだすまえに、うちに帰らなければならない。
新宿のさびれた茶屋で、おれにはおれだけのアイドル業が今日も待っている。
ー北口アイドル@アンダーグラウンド・完ー
スタジオからの帰り道、おれはマナブとアキオに質問した。
「なんで、スタジオのなかにはいってきたんだ。打ち合わせでは非常階段とエレベーターを張っているはずだっただろ」
おれの予定ではスタジオのなかをおろが警戒し、犯人が逃げるところをふたりにガードしてもらうつもりだった。小デブのマナブがいった。
「それはそうだけど、イナミちゃんが撮影してるのに非常階段にいるなんてつまらないだろ。だから、ちょっとのぞきにいったんだ」
でかいデブのアキオもいった。
「最終的におれたちがイナミちゃんを守ったんだから、もういいじゃないか。」
確かに結果よければすべてよしである。それにおれはファンというものを再評価していた。本気でなければ、あれほどの献身を示せるはずがない。人間が別な誰かをあこがれる力というのは、決してバカにならないものだ。
おれたちのうしろを、なにか考えながらついてくるイナミがいった。
「ファンのひとがわたしのために命を張れるなら、わたしがファンのためにできることがもっともっとあるはずだよね」
マナブとアキオの声がそろった。
「もちろん!」
あの太ったふたりのガードマンとはそれっきりだが、イナミとは西口公園でもう一度会った。あのとき撮影した写真がカバーになったCDができたという。
関東が梅雨にはいって、肌寒い風が吹く曇り空のした、おれたちはまた同じパイプベンチにすわった。おれはいった。
「なんだかちょっと残念な結末だったな。おれは水森のユニットがうまくいって、イナミがばんばん売れちゃえばおもしろいのにって期待してたんだ」
イナミは平然と笑った。劇薬にも負けそうにない強い笑顔だ。
「ううん、やっぱりあの話しは断ろうと思っていたから。メジャーになるのも素敵かもしれないけど、わたしは池袋の地下アイドルでいいんだよ。ずっと自分でつくった好きな歌をうたっていけるんだし、この街のファンのひとはマナブさんやアキオさんみたいに素晴らしいしね。この街のためにわたしにもできることがある。それがなんだかうれしいんだ」
湿った重い風が東部デパートのビルから吹き下ろしてきた。そろそろ今年の梅雨の最初の雨粒が落ちてくることだろう。
イナミの言葉はそのまま、おれが今回の事件で感じたことだった。
こうして人さまのトラブルに余計な頭を突っ込み、解決できたり、出来なかったりする。そんなふうにして、年をとっていくのもいいものだ。この街には、あまりにくだらなすぎて、おれにしかあつかえないようなマイナートラブルが無数に転がっている。
「じゃあ、わたしは今日もライヴがあるから。ひまだったら、見にきてね」
「わかった。おたくたちをしびれさせてやれよ」
おれたちは手を振って、円形広場を別れた。ぬるい雨がふりだすまえに、うちに帰らなければならない。
新宿のさびれた茶屋で、おれにはおれだけのアイドル業が今日も待っている。
ー北口アイドル@アンダーグラウンド・完ー