ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
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水森がやってきて、イナミに両手をあわせる。
「すまん、あとで埋め合わせするから、もう十五分くれ」
イナミは冷静にこたえた。
「別にいいですよ」
「なによ、こんな衣装」
すずの叫び声がきこえて、布が裂ける音がした。森の妖精のつもりだろうか。裾が海草のようにランダムにカットされた緑のスカートを引き裂いて、鈴が怒り狂っていた。
「どうして、水森さんはその人ばっかり特別あつかいするの。わたし、もう今日は撮影しない」
裸足のままスタジオからでていってしまう。雰囲気は最悪だった。カメラマンもアシスタントもなにくわぬ顔をしているが、腹の中ではあきれているのが部外者のおれにはよくわかった。水森が舌打ちしていった。
「ったく、なんだよ。あの女、頭いかれてんじゃないのか。あとで、ちゃんとあやまらせるから、イナミは悪く思わないでくれ。うちのユニットの大切な戦力なんだからな」
イナミは相手にしなかった。
「別にいいですよ。いちいち怒っていたら、わたしの撮影がうまくいかなくなりますから。こちらは冷静です」
カメラマンがいった。
「じゃあ、つぎ気分を変えて、イナミちゃん、いってみようか」
スタジオ内の音楽がイナミの歌に変わった。カメラのまえに立つとイナミの表情は一変した。シャッターもイナミの動きも、一瞬として止まることはなかった。流れるように撮影がすすんでいく。イナミは自然光があふれるスタジオで、水のなかの魚のように自由だった。これだけの表情の引き出しがあって、あの歌声がある。それでも売れないというのは、アイドルというのはでたらめに厳しい世界なのだろう。
おれはそのときミスを犯した。うっかり撮影に見とれていて、スタジオのほかの動きを見損なったのだ。カメラのまえをいきなり緑の影が走った。すずだ。手になにかもっている。ガラスの実験器具?フラスコのようだった。
「あんたみたいなおばさんが、色目をつかって、うちの事務所にくるなんてずうずうしいんだよ」
とろりと粘る液体からは、強い酸の臭いが立ち上がっていた。硫酸、硝酸、塩酸。ひとの肌を焼く劇薬の名前が頭のなかでフラッシュする。
「やめろー!」
水森とおれが叫んだのは、ほぼ同時だった。
おれはなにもできずに立ち尽くしていた。
そのとき青い影が目のまえを横切った。マナブとアキオだった。マナブねほうがすずに飛びつき、アキオが全身を投げ出して宙に飛んだ液体を青いつなぎで受けた。
「あちちっ……」
アキオが転げまわっている。おれはやつが火のついた服でも脱ぐようにつなぎから脱出するのを手伝ってやった。
「すまん、あとで埋め合わせするから、もう十五分くれ」
イナミは冷静にこたえた。
「別にいいですよ」
「なによ、こんな衣装」
すずの叫び声がきこえて、布が裂ける音がした。森の妖精のつもりだろうか。裾が海草のようにランダムにカットされた緑のスカートを引き裂いて、鈴が怒り狂っていた。
「どうして、水森さんはその人ばっかり特別あつかいするの。わたし、もう今日は撮影しない」
裸足のままスタジオからでていってしまう。雰囲気は最悪だった。カメラマンもアシスタントもなにくわぬ顔をしているが、腹の中ではあきれているのが部外者のおれにはよくわかった。水森が舌打ちしていった。
「ったく、なんだよ。あの女、頭いかれてんじゃないのか。あとで、ちゃんとあやまらせるから、イナミは悪く思わないでくれ。うちのユニットの大切な戦力なんだからな」
イナミは相手にしなかった。
「別にいいですよ。いちいち怒っていたら、わたしの撮影がうまくいかなくなりますから。こちらは冷静です」
カメラマンがいった。
「じゃあ、つぎ気分を変えて、イナミちゃん、いってみようか」
スタジオ内の音楽がイナミの歌に変わった。カメラのまえに立つとイナミの表情は一変した。シャッターもイナミの動きも、一瞬として止まることはなかった。流れるように撮影がすすんでいく。イナミは自然光があふれるスタジオで、水のなかの魚のように自由だった。これだけの表情の引き出しがあって、あの歌声がある。それでも売れないというのは、アイドルというのはでたらめに厳しい世界なのだろう。
おれはそのときミスを犯した。うっかり撮影に見とれていて、スタジオのほかの動きを見損なったのだ。カメラのまえをいきなり緑の影が走った。すずだ。手になにかもっている。ガラスの実験器具?フラスコのようだった。
「あんたみたいなおばさんが、色目をつかって、うちの事務所にくるなんてずうずうしいんだよ」
とろりと粘る液体からは、強い酸の臭いが立ち上がっていた。硫酸、硝酸、塩酸。ひとの肌を焼く劇薬の名前が頭のなかでフラッシュする。
「やめろー!」
水森とおれが叫んだのは、ほぼ同時だった。
おれはなにもできずに立ち尽くしていた。
そのとき青い影が目のまえを横切った。マナブとアキオだった。マナブねほうがすずに飛びつき、アキオが全身を投げ出して宙に飛んだ液体を青いつなぎで受けた。
「あちちっ……」
アキオが転げまわっている。おれはやつが火のついた服でも脱ぐようにつなぎから脱出するのを手伝ってやった。