ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
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撮影日のちょうど正午に、イナミのマンションに迎えにいった。
おれが着ている和柄フィールドジャケットの内ポケットには、長さ二十センチほどの鉄のパイプが入っていた。部屋の引き出しから探しだした特殊警棒だ。三段で伸ばすと全長は六十センチになり、先端には鋼球がついている。おれは武器派ではないが、あのガードマンにふたりがかりで襲われたら骨がおれる。力はほぼ体重に比例する。使う、使わないにしても得物をもっていても損にはならないだろう。
イナミは二日間で確かに頬が削げ落ちていた。肌はすこし乾燥しているようだが、きつい断食のせいだからしかたない。落ちくぼんだ目には逆に光を増している。ハイになった声でいう。
「いきましょう。撮影がおわったら、ボンゴレのパスタとバナナチョコ・クレープたべるからつきあってね。」
はいはいとうなずいた。川越街道でバスにのって、おれまちは池袋にもどった。なぜか今回はよく交通機関をつかうトラブルだ。いつも地元にいるおれにしたら、めずらしい話。池袋で山手線に乗り換えるとき、イナミにいった。
「水森がひどくそっちのことをほしがっていた。三十路のいじられキャラで、歌のうまいリーダーが、なんとしてもほしいらしい。なんでもレコード会社とテレビ局がかんだでかいオーディションがあるんだってさ」
イナミは山手線のホームで立ち止まった。おれは余計なことをいった。
「あのさ、一発大逆転を狙ってるんだよな、歌の世界で。おれはあんたの歌はたいしたものだと思う。水森はせこくて、つまらない男だけど、今回はいいチャンスなんじゃないか。おれは悪い話じゃないと思う。」
イナミは目ばかりきらきら輝かせ、おれに笑いかけた。
「ボディガードを頼んだんだけど、ほんとにわたしのマネージャーみたいになってきたね、悠さん。わたしの売り方まで考えてくれたんだ。ありがと」
それから代々木にあるスタジオにつくまで、イナミは口数がすくなくなった。きっと頭のなかで、水森のユニットとオーディションのことを考えていたのだろう。おれはといえば、あのガードマンの制服が見えないか、空席の目立つ車両の中で注意していた。当然ながら、デブのガードマンの姿はなかった。まあ、あれだけ目撃されたら、向こうも別な格好にするのだろうが。
スタジオは代々木駅から歩いて十分ほどにある雑居ビルのペイントハウスだった。
ちいさなエレベーターにのりこむと、目のまえで、ゆっくりとドアが閉まってく。そのとき太い腕がいきなり突っ込まれた。おれは全身の毛が逆立った。こんな狭い場所で男ふたりと乱闘するのは勘弁してほしい。クライアントのイナミもいる。だが、おれの右手は勝手に動いて、内ポケットの特殊警棒を抜いていた。手首のひと振りで、金属の棒が耳ざわりな音とともに伸びた。
おれが着ている和柄フィールドジャケットの内ポケットには、長さ二十センチほどの鉄のパイプが入っていた。部屋の引き出しから探しだした特殊警棒だ。三段で伸ばすと全長は六十センチになり、先端には鋼球がついている。おれは武器派ではないが、あのガードマンにふたりがかりで襲われたら骨がおれる。力はほぼ体重に比例する。使う、使わないにしても得物をもっていても損にはならないだろう。
イナミは二日間で確かに頬が削げ落ちていた。肌はすこし乾燥しているようだが、きつい断食のせいだからしかたない。落ちくぼんだ目には逆に光を増している。ハイになった声でいう。
「いきましょう。撮影がおわったら、ボンゴレのパスタとバナナチョコ・クレープたべるからつきあってね。」
はいはいとうなずいた。川越街道でバスにのって、おれまちは池袋にもどった。なぜか今回はよく交通機関をつかうトラブルだ。いつも地元にいるおれにしたら、めずらしい話。池袋で山手線に乗り換えるとき、イナミにいった。
「水森がひどくそっちのことをほしがっていた。三十路のいじられキャラで、歌のうまいリーダーが、なんとしてもほしいらしい。なんでもレコード会社とテレビ局がかんだでかいオーディションがあるんだってさ」
イナミは山手線のホームで立ち止まった。おれは余計なことをいった。
「あのさ、一発大逆転を狙ってるんだよな、歌の世界で。おれはあんたの歌はたいしたものだと思う。水森はせこくて、つまらない男だけど、今回はいいチャンスなんじゃないか。おれは悪い話じゃないと思う。」
イナミは目ばかりきらきら輝かせ、おれに笑いかけた。
「ボディガードを頼んだんだけど、ほんとにわたしのマネージャーみたいになってきたね、悠さん。わたしの売り方まで考えてくれたんだ。ありがと」
それから代々木にあるスタジオにつくまで、イナミは口数がすくなくなった。きっと頭のなかで、水森のユニットとオーディションのことを考えていたのだろう。おれはといえば、あのガードマンの制服が見えないか、空席の目立つ車両の中で注意していた。当然ながら、デブのガードマンの姿はなかった。まあ、あれだけ目撃されたら、向こうも別な格好にするのだろうが。
スタジオは代々木駅から歩いて十分ほどにある雑居ビルのペイントハウスだった。
ちいさなエレベーターにのりこむと、目のまえで、ゆっくりとドアが閉まってく。そのとき太い腕がいきなり突っ込まれた。おれは全身の毛が逆立った。こんな狭い場所で男ふたりと乱闘するのは勘弁してほしい。クライアントのイナミもいる。だが、おれの右手は勝手に動いて、内ポケットの特殊警棒を抜いていた。手首のひと振りで、金属の棒が耳ざわりな音とともに伸びた。