ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
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「いや、今日のアイドルのなかじゃ、アンタが一番だったよ。歌うまいんだな、感心した。」
「そう」
イナミは目をそらして、もう一段頬を赤くした。こうしてみると案外かわいいのかもしれない。別なアイドルが声をかけてきた。
「イナミちゃーん、撮影希望のお客さまです」
「はーい」
イナミがステージに飛び上がった。白いTシャツの男が待っている。別なアイドルがインスタントカメラで、ふたりを撮った。サインして写真をわたすと、イナミは五百円玉を受け取った。フロアのあちこちで、握手と自主製作のCDが飛び交っている。
ここのアイドルとファンのコミュニティは、ちいさいけれど濃密なのだ。このうちの誰がストーカーでもおかしくはなかった。なにせこんなふうに、身近にふれあう機会がふんだんにあるのだ。いつ勘違いをしてもおかしくない。アイドルたちは全力の笑顔で営業を続けている。
おれは地下アイドルのビジネスモデルを考えてみた。コンサートチケット、自主製作CD、撮影会。どれもちいさな売り上げだが、これを毎週のように続けていけば、立派に生計は立ちそうだった。ライブハウスは池袋だけでなく、秋葉原にも中のにもある。
現代はアマチュアが果てしなくプロ化する時代だ。
おれもアマチュアのまま、なにかのプロになろうかな。メジャーにならなくても、自分の好きなことをして生きる。その方法はすくなくとも、十年まえより多彩になったのは間違いない。
いよいよ客の送り出しが始まった。出口にアイドルが勢揃いして、拍手でTシャツのうえに上着を着た男たちを見送っていく。おれもいっしょにでようとしたら、イナミに袖を掴まれた。
「ちょっと待って、悠さん。いつもコンサートのあとが危ないの主催者には話をしておいたから、ここに残って」
そういわれたので、おれはステージ脇の壁にもたれて、客だしが終わるのを待った。地下アイドルたちが抱き合って、きゃーきゃーと歓声をあげている。まだ若い少し太めの女がイナミにいった。
「お疲れさまでした、イナミさん。歌と踊り勉強させてもらいました」
「お疲れさまでした、すずちゃん。もうちょっと衣装ぴったりにしようよ。せっかく胸がおおきいんだから」
微笑ましい光景。おれが腕組をして見ていると、ぽんっと肩をたたかれた。
「あをたが、悠か。イナミのボディガードしてるんだってな」
声のほうに顔をむけると、針金のような黒いネクタイを締めたデブだった。年は四十くらい。頭には黒い帽子をかぶり、真っ黒なサングラスをかけている。「ブルース・ブラザース」の亡くなったジョン・ベルーシみたい。あれはいい映画だったよな。
「そうだよ。今日頼まれたんだけど。」
やつはサングラスをさげて、おれの顔をじっと見た。ブドウパンのなかの干しブドウみたいに乾いたちいさな目。
「そう」
イナミは目をそらして、もう一段頬を赤くした。こうしてみると案外かわいいのかもしれない。別なアイドルが声をかけてきた。
「イナミちゃーん、撮影希望のお客さまです」
「はーい」
イナミがステージに飛び上がった。白いTシャツの男が待っている。別なアイドルがインスタントカメラで、ふたりを撮った。サインして写真をわたすと、イナミは五百円玉を受け取った。フロアのあちこちで、握手と自主製作のCDが飛び交っている。
ここのアイドルとファンのコミュニティは、ちいさいけれど濃密なのだ。このうちの誰がストーカーでもおかしくはなかった。なにせこんなふうに、身近にふれあう機会がふんだんにあるのだ。いつ勘違いをしてもおかしくない。アイドルたちは全力の笑顔で営業を続けている。
おれは地下アイドルのビジネスモデルを考えてみた。コンサートチケット、自主製作CD、撮影会。どれもちいさな売り上げだが、これを毎週のように続けていけば、立派に生計は立ちそうだった。ライブハウスは池袋だけでなく、秋葉原にも中のにもある。
現代はアマチュアが果てしなくプロ化する時代だ。
おれもアマチュアのまま、なにかのプロになろうかな。メジャーにならなくても、自分の好きなことをして生きる。その方法はすくなくとも、十年まえより多彩になったのは間違いない。
いよいよ客の送り出しが始まった。出口にアイドルが勢揃いして、拍手でTシャツのうえに上着を着た男たちを見送っていく。おれもいっしょにでようとしたら、イナミに袖を掴まれた。
「ちょっと待って、悠さん。いつもコンサートのあとが危ないの主催者には話をしておいたから、ここに残って」
そういわれたので、おれはステージ脇の壁にもたれて、客だしが終わるのを待った。地下アイドルたちが抱き合って、きゃーきゃーと歓声をあげている。まだ若い少し太めの女がイナミにいった。
「お疲れさまでした、イナミさん。歌と踊り勉強させてもらいました」
「お疲れさまでした、すずちゃん。もうちょっと衣装ぴったりにしようよ。せっかく胸がおおきいんだから」
微笑ましい光景。おれが腕組をして見ていると、ぽんっと肩をたたかれた。
「あをたが、悠か。イナミのボディガードしてるんだってな」
声のほうに顔をむけると、針金のような黒いネクタイを締めたデブだった。年は四十くらい。頭には黒い帽子をかぶり、真っ黒なサングラスをかけている。「ブルース・ブラザース」の亡くなったジョン・ベルーシみたい。あれはいい映画だったよな。
「そうだよ。今日頼まれたんだけど。」
やつはサングラスをさげて、おれの顔をじっと見た。ブドウパンのなかの干しブドウみたいに乾いたちいさな目。