ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
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フロアはせいぜい二十畳ほどの広さで、その奥にはひざくらいの高さのステージが見えた。オールスタンディングのようで、椅子は片付けられていた。頭上にはスポットライトとおおきな液晶ディスプレイ。画面のなかでは前回のコンサートの風景だろうか、チャイナ服を着たやはりあまりかわいくない女がうたっていた。
おれは場違いな集会に参加した違和感を覚えながら、壁にもたれて開演を待った。集まっているのは五、六十人はいるだろうか。お互い顔見知りのようで、挨拶を交わしている。開演十分まえになると、男たちはいっせいに服を脱ぎだした。スーツの男は上着とネクタイとシャツを、カジュアルな格好の男もチェックのシャツやブルゾンを脱いでいく。みな白いTシャツ一枚になった。おれはあっけにとられて、目の前の男の背中を読んだ。
【イナミ命!お兄ちゃんのために歌え!!】
汗のにおいがライブハウスを満たす。おれは開演直前に敵前逃亡したくなった。
フロアが真っ暗になった。MCの女が叫んでいる。
「第二十三回池袋北口アイドルナイト、始まるよー!みんな、ちぎれろー!」
腹に響くシンセベースがうなって、顔に痛い音圧のバスドラムがビーとを刻みだした。半袖Tシャツの男たちは、わっとステージに駆け寄っていく。そこでおれは驚くべきものを見た。
男たちが足を大きく広げ、上半身を左右に振って、猛烈な速度で踊り出したのだ。フロアは狭いから、ほとんど身体は密着している。振り付けを間違えただけで、打撲傷ができるか、ことによると骨折するくらいの勢いで踊りまくる。
ステージに元気よく飛び出してきたのは、イナミだった。ピンクのメイド服にグレイのアミタイツ。こちらも猛烈な勢いでステップを踏みながら、うたいだしたのはあの歌。
「お兄ちゃんは、だいじょうぶ。そのままで、だいじょうぶ。」
男たちがあいの手をいれた。ほとんど絶叫に近い雄叫びだ。あとでしったのだが、こいつはMIXというらしい。種類は無数にある。
「イナミがいるから、だいじょうぶ。」
イナミは派手なウイングをして、さびを続けた。
「きっとわたしが守ってあげる」
「かわいい、イナミに、守られ、ロ・マ・ン・ス」
人差し指を伸ばして、両手を身体ごと天井に突き上げる。左左右右左右左左。おれは呆然として、地下アイドルとそのマニアックなファンのライブを見つめていた。このオタ芸ダンスは、きっとおれには一生踊れないだろう。本気でやったら、すぐにどこかの筋を痛めそうだ。いやあ、真に驚くべきことは、いつも目のまえの街に転がっているよな。珍獣や野生の驚異に打たれたいなら、世界を旅する必要などない。
いつもの街を散歩して、地下へ一階降りるだけでいい。
おれは場違いな集会に参加した違和感を覚えながら、壁にもたれて開演を待った。集まっているのは五、六十人はいるだろうか。お互い顔見知りのようで、挨拶を交わしている。開演十分まえになると、男たちはいっせいに服を脱ぎだした。スーツの男は上着とネクタイとシャツを、カジュアルな格好の男もチェックのシャツやブルゾンを脱いでいく。みな白いTシャツ一枚になった。おれはあっけにとられて、目の前の男の背中を読んだ。
【イナミ命!お兄ちゃんのために歌え!!】
汗のにおいがライブハウスを満たす。おれは開演直前に敵前逃亡したくなった。
フロアが真っ暗になった。MCの女が叫んでいる。
「第二十三回池袋北口アイドルナイト、始まるよー!みんな、ちぎれろー!」
腹に響くシンセベースがうなって、顔に痛い音圧のバスドラムがビーとを刻みだした。半袖Tシャツの男たちは、わっとステージに駆け寄っていく。そこでおれは驚くべきものを見た。
男たちが足を大きく広げ、上半身を左右に振って、猛烈な速度で踊り出したのだ。フロアは狭いから、ほとんど身体は密着している。振り付けを間違えただけで、打撲傷ができるか、ことによると骨折するくらいの勢いで踊りまくる。
ステージに元気よく飛び出してきたのは、イナミだった。ピンクのメイド服にグレイのアミタイツ。こちらも猛烈な勢いでステップを踏みながら、うたいだしたのはあの歌。
「お兄ちゃんは、だいじょうぶ。そのままで、だいじょうぶ。」
男たちがあいの手をいれた。ほとんど絶叫に近い雄叫びだ。あとでしったのだが、こいつはMIXというらしい。種類は無数にある。
「イナミがいるから、だいじょうぶ。」
イナミは派手なウイングをして、さびを続けた。
「きっとわたしが守ってあげる」
「かわいい、イナミに、守られ、ロ・マ・ン・ス」
人差し指を伸ばして、両手を身体ごと天井に突き上げる。左左右右左右左左。おれは呆然として、地下アイドルとそのマニアックなファンのライブを見つめていた。このオタ芸ダンスは、きっとおれには一生踊れないだろう。本気でやったら、すぐにどこかの筋を痛めそうだ。いやあ、真に驚くべきことは、いつも目のまえの街に転がっているよな。珍獣や野生の驚異に打たれたいなら、世界を旅する必要などない。
いつもの街を散歩して、地下へ一階降りるだけでいい。