ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「わかった。じゃあ、おれが警察の代わりだな。」
イナミは恐縮したように小声になった。
「ありがとう、悠さん。ファンのひとからきいたんだけど、池袋で起きるトラブルなら、お金はとらないんだよね。」
うなずいた。たまに報酬が発生することもあるが、ほとんどの場合おれはただ働きだ。バカだとは思うが、この地下アイドルと同じで、おれはそういうことが好きなのだ。
「よかった。ギャラを払っていたら、今月の家賃が危なくなるところだったんだ。じゃあ、その代わりにこれ、あげる」
今度はパソコンでつくった簡素なイベントチケットだった。池袋ルミナス、北口にあるおれのしらないライブハウスだった。期日はその日で、開演は夜七時から。
「今夜わたしたちのコンサートを観にきてくれない?お友だちも紹介するし、ファンの人たちの様子も見られるでしょう。そのなかにストーカーがいるかもしれないしね。わたしは夕方からリハーサルがあるから、もういくね」
イナミはパイプベンチから立ち上がると、さっさといってしまった。姿勢はいいけれど、地味な背中。ああいう地下アイドルが実際に生きているのだ。
東京というのは、やはり不思議な街。
その日は店番をしながら、夜までイナミのCDとベルワルドを交互にきいた。なんだか右脳と左脳が分断してしまいそう。イナミの音楽は、八十年代ポップスの甘ったるいメロディを、コンピューターでつくったやたら音圧の高いトランスのビートにのっけた造りだった。歌詞はこんな調子。
『お兄ちゃんは、だいじょうぶ。そのままで、だいじょうぶ。きっとわたしが守ってあげる。』
なぜか最近のガキはみな誰かに守ってもらいたがる。
六時半に家を出た。池袋西口駅から北口の先にあるライブハウスまでは、歩いて十分足らず。地下アイドルのコンサートにどんな格好をしていけばいいのかわからなかったので、おれはいつもの普段着。ファットな軍パンにバスケットシューズ。うえは垂れ柳に蛙が飛び付いてる柄のポロシャツだ。
北口ホテル街のちいさな交差点の角に、池袋ルミナスがあった。一階はゲームショップで、二階は怪しげなDVD屋(AVアイドルのポスターがたくさん!)三階からうえは普通の事務所になったガラス張りのビルだ。階段を降りていくと、ひとでいっぱいだった。二十代から三十代の、冴えないまじめそうなおたくたち。
開けっぱなしのドアを抜けて、受付のカウンターで、おれはイナミからもらったチケットをだした。半券をもどしてくれる。カウンターの横にはサインいりの生写真が売られていた。一枚三百五十円。
イナミがミニスカートで片足を跳ねあげているポーズもあった。白いエナメルのブーツというのは確かに八十年代風。
イナミは恐縮したように小声になった。
「ありがとう、悠さん。ファンのひとからきいたんだけど、池袋で起きるトラブルなら、お金はとらないんだよね。」
うなずいた。たまに報酬が発生することもあるが、ほとんどの場合おれはただ働きだ。バカだとは思うが、この地下アイドルと同じで、おれはそういうことが好きなのだ。
「よかった。ギャラを払っていたら、今月の家賃が危なくなるところだったんだ。じゃあ、その代わりにこれ、あげる」
今度はパソコンでつくった簡素なイベントチケットだった。池袋ルミナス、北口にあるおれのしらないライブハウスだった。期日はその日で、開演は夜七時から。
「今夜わたしたちのコンサートを観にきてくれない?お友だちも紹介するし、ファンの人たちの様子も見られるでしょう。そのなかにストーカーがいるかもしれないしね。わたしは夕方からリハーサルがあるから、もういくね」
イナミはパイプベンチから立ち上がると、さっさといってしまった。姿勢はいいけれど、地味な背中。ああいう地下アイドルが実際に生きているのだ。
東京というのは、やはり不思議な街。
その日は店番をしながら、夜までイナミのCDとベルワルドを交互にきいた。なんだか右脳と左脳が分断してしまいそう。イナミの音楽は、八十年代ポップスの甘ったるいメロディを、コンピューターでつくったやたら音圧の高いトランスのビートにのっけた造りだった。歌詞はこんな調子。
『お兄ちゃんは、だいじょうぶ。そのままで、だいじょうぶ。きっとわたしが守ってあげる。』
なぜか最近のガキはみな誰かに守ってもらいたがる。
六時半に家を出た。池袋西口駅から北口の先にあるライブハウスまでは、歩いて十分足らず。地下アイドルのコンサートにどんな格好をしていけばいいのかわからなかったので、おれはいつもの普段着。ファットな軍パンにバスケットシューズ。うえは垂れ柳に蛙が飛び付いてる柄のポロシャツだ。
北口ホテル街のちいさな交差点の角に、池袋ルミナスがあった。一階はゲームショップで、二階は怪しげなDVD屋(AVアイドルのポスターがたくさん!)三階からうえは普通の事務所になったガラス張りのビルだ。階段を降りていくと、ひとでいっぱいだった。二十代から三十代の、冴えないまじめそうなおたくたち。
開けっぱなしのドアを抜けて、受付のカウンターで、おれはイナミからもらったチケットをだした。半券をもどしてくれる。カウンターの横にはサインいりの生写真が売られていた。一枚三百五十円。
イナミがミニスカートで片足を跳ねあげているポーズもあった。白いエナメルのブーツというのは確かに八十年代風。