ー特別編ー北口アイドル@アンダーグラウンド
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「枕とか、すけすけの下着とか、どう見ても一度つかってるタオルやシーツとか」
「うわっ、確かにそれは気味悪いな。」
うちに羽根枕が送られてきたところを想像した。とても自分で使用する気にはならないだろう。イナミはにっこりと笑う。商売用の笑顔はこうつくるのだという見本のような見事なスマイル。
「でも、そういうのは平気だし、割りと普通なほうなの」
「じゃあ、今回のストーカーっていうのは、もっとひどいんだ」
明るい初夏の公園で、イナミが暗黒の顔をした。
「わたしはひとり暮らしなんだけど……うちの玄関のドアノブに、なんの生きものかわからないけど、血がべったり塗られていたことがあった。ちょっと古いような、生理のときのみたいな黒い血だったよ」
おれならきっと恐怖で飛び上がっていることだろう。血で濡れたドアノブをつかむのだ。
「そっちのマンションはオートロックじゃないのか」
「そうだけど、別にああいうのはいつでもはいれるから。昔からおかしなファンは、よく玄関先まできていたもの。わたしがだしたゴミの袋を持っていく人もいたし。困った人はどこにいっても一定の割合でいて、わたしは手紙とか書類とか下着なんかは細かく切って、駅やコンビニのゴミ箱に捨ててるんだ」
おれは感心していった。
「アイドルってたいへんなんだな」
イナミはこくりとうなずくと、また本気の笑顔になった。おれはそのとき気づいたのだ。笑いというのは、自然に生まれるものではなく、自分の意思をつかってつくるものだと。
「たいへんなこともあるよ。でも、好きな歌をうたって、応援してもらえて、CDまで買ってもらって、それで生活できるんだから、やっぱりすごいことだよ。わたしはとくに美人でも、かわいくもないけど、歌は大好きだから」
悪くない話だった。だいたい最近おれたちが耳にする話しは、暗いものばかり。日本はもうおしまいだとか、不景気だとか、給料が十年もさがり続けてるなんてね。自分がおかれている状況をマイナスごと受けとめて、さらにまえむきになれるのは見事な覚悟だった。
気がつけば、おれはいっていた。
「わかった。そのストーカー、おれがなんとかがんばってみるよ。でも、ほんとならちゃんと警察に届けたほうがいいんだけどな」
「それはどうなんだろう」
イナミは険しい表情になった。
「以前、やはりひどいストーカーがいて、それが誰かもわかっていたのに、警察ではなにもしてくれなかったよ。話だけきいておしまいで、調書もとってくれなかった。年末のいそがしい時期だったせいかもしれないけど、わたしはあんまり信用してないんだ。」
そういうことか。警察のイメージは実際に自分がトラブルに巻き込まれたとき、対応に出てくる相手で百八十度変わるのだ。イナミは意欲のない警官と不幸な出会いをしたのだろう。
「うわっ、確かにそれは気味悪いな。」
うちに羽根枕が送られてきたところを想像した。とても自分で使用する気にはならないだろう。イナミはにっこりと笑う。商売用の笑顔はこうつくるのだという見本のような見事なスマイル。
「でも、そういうのは平気だし、割りと普通なほうなの」
「じゃあ、今回のストーカーっていうのは、もっとひどいんだ」
明るい初夏の公園で、イナミが暗黒の顔をした。
「わたしはひとり暮らしなんだけど……うちの玄関のドアノブに、なんの生きものかわからないけど、血がべったり塗られていたことがあった。ちょっと古いような、生理のときのみたいな黒い血だったよ」
おれならきっと恐怖で飛び上がっていることだろう。血で濡れたドアノブをつかむのだ。
「そっちのマンションはオートロックじゃないのか」
「そうだけど、別にああいうのはいつでもはいれるから。昔からおかしなファンは、よく玄関先まできていたもの。わたしがだしたゴミの袋を持っていく人もいたし。困った人はどこにいっても一定の割合でいて、わたしは手紙とか書類とか下着なんかは細かく切って、駅やコンビニのゴミ箱に捨ててるんだ」
おれは感心していった。
「アイドルってたいへんなんだな」
イナミはこくりとうなずくと、また本気の笑顔になった。おれはそのとき気づいたのだ。笑いというのは、自然に生まれるものではなく、自分の意思をつかってつくるものだと。
「たいへんなこともあるよ。でも、好きな歌をうたって、応援してもらえて、CDまで買ってもらって、それで生活できるんだから、やっぱりすごいことだよ。わたしはとくに美人でも、かわいくもないけど、歌は大好きだから」
悪くない話だった。だいたい最近おれたちが耳にする話しは、暗いものばかり。日本はもうおしまいだとか、不景気だとか、給料が十年もさがり続けてるなんてね。自分がおかれている状況をマイナスごと受けとめて、さらにまえむきになれるのは見事な覚悟だった。
気がつけば、おれはいっていた。
「わかった。そのストーカー、おれがなんとかがんばってみるよ。でも、ほんとならちゃんと警察に届けたほうがいいんだけどな」
「それはどうなんだろう」
イナミは険しい表情になった。
「以前、やはりひどいストーカーがいて、それが誰かもわかっていたのに、警察ではなにもしてくれなかったよ。話だけきいておしまいで、調書もとってくれなかった。年末のいそがしい時期だったせいかもしれないけど、わたしはあんまり信用してないんだ。」
そういうことか。警察のイメージは実際に自分がトラブルに巻き込まれたとき、対応に出てくる相手で百八十度変わるのだ。イナミは意欲のない警官と不幸な出会いをしたのだろう。