ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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金属製のドアののぞき穴の前には、マリオが立った。インターホンのボタンを押す。誰かが近づいてくる音が聞こえた。
「ハイ、今開けます。」
かちりとドアが開いた瞬間に、Sウルフが突入した。オリエを押しのけ、狭い廊下を奥へ向かう。右手のユニットバスの扉。左手にオール電化のキッチン。松本に教えられたとおりだった。土足のままおれが玄関をあがったとき、奥の部屋からバチバチと耳に残る音が鳴った。一度きいた人間なら、絶対に忘れない空中放電の音。誰かがスタンガンをつかっている。
「よせっ!」
おれは叫びながら、奥に向かった。ほんの数歩を走るのさえじれったくてしかたなかった。そこは女らしいピンクの部屋。カーテンもベッドカバーも毛足の長いカーペットも、すべて淡いピンク色だった。その隅に小柄だが、異様に腹のでたガキが両手を前につきだし立っている。両手に二丁のスタンガンをかまえたムーミンだ。
「なんなんだ、あんたら。いいか、俺は彼女のためを思って、こうして話しをしに来たんじゃないか。不倫はいけないことだ。ニッポンの国民なら、みんなわかってる。不倫は法律にも違反しているんだぞ。」
女を知らない純情で正義感あふれるストーカーか。どうにも救われない男。Sウルフの突撃隊隊長の炎銃があきれていった。
「どうしますか、キング。」
タカシは猛獣使いのようにじっとスパイの目を見ていった。
「おまえの話にも正当性はある。ゆっくり話を聞かせてもらおう。」
アイルヴィールックのキングがカーペットに腰をおろそうとした。ほぼ床にひざがつくところで、スパイの目線がタカシを離れた。次のアクションは瞬きをするくらいの時間に立て続けに発生した。
タカシはほぼ完全に曲げていた膝を一瞬でもどすと、上半身をうしろに反りかえらせたまま腕を振った。風切り音がするような右のアッパーカット。まともに右をくらったスパイは壁際まで吹き飛び、ずるずると座り込んでしまった。きっと強烈なパンチで頭のなかのスイッチがはいったままなのだろう。しっかりと両手でにぎったスタンガンから、電撃が連続して飛んでいる。やつは正座の姿勢で壁にもたれたまま、自分の太ももにスタンガンを押し当て続けていた。それでもピクリとも反応を示さない。肉の焦げる匂いがあたりに漂った。
「とめてやれ」
タカシがそういうと、Sウルフが思い出したようにスパイの両手からスタンガンを引き離した。やつはおれを振り向いて、ため息をついた。
「お前といっしょにヤマを踏んで、俺が楽をしたことあったか」
いいたいことは色々あったが、実に見事な一発だった。おれは音のしない拍手を送り、キングのKOを讃えた。きっと今夜のアッパーはまたSウルフのあいだで伝説になるだろう。タカシは笑っていった。
「このまえユーチューブで古いボクシングの試合を見てな。試してみたかったから、プリンス・ナジーム・ハメドのアッパーを真似してみた。」
このイケメンに抜群の身体能力。心底腹の立つ王さまだった。
撤収は素早かった。
Sウルフが気を失ったスパイの両脇を支えて、別のクルマにのせていく。タカシはエコバックから、百万の束をひとつマリオに放ってやった。
「礼をいう。最後にお前はいい仕事をした。法律でも遺失物の謝礼は定められているからな。それをもって、どこかに消えろ。二度とおれたちのまえに顔を出すんじゃない。」
マリオはそれをきいたとたんにワンルームマンションを走りだしていった。松本とオリエ、おれとキングだけが狭い部屋に立ちつくしていた。
「ハイ、今開けます。」
かちりとドアが開いた瞬間に、Sウルフが突入した。オリエを押しのけ、狭い廊下を奥へ向かう。右手のユニットバスの扉。左手にオール電化のキッチン。松本に教えられたとおりだった。土足のままおれが玄関をあがったとき、奥の部屋からバチバチと耳に残る音が鳴った。一度きいた人間なら、絶対に忘れない空中放電の音。誰かがスタンガンをつかっている。
「よせっ!」
おれは叫びながら、奥に向かった。ほんの数歩を走るのさえじれったくてしかたなかった。そこは女らしいピンクの部屋。カーテンもベッドカバーも毛足の長いカーペットも、すべて淡いピンク色だった。その隅に小柄だが、異様に腹のでたガキが両手を前につきだし立っている。両手に二丁のスタンガンをかまえたムーミンだ。
「なんなんだ、あんたら。いいか、俺は彼女のためを思って、こうして話しをしに来たんじゃないか。不倫はいけないことだ。ニッポンの国民なら、みんなわかってる。不倫は法律にも違反しているんだぞ。」
女を知らない純情で正義感あふれるストーカーか。どうにも救われない男。Sウルフの突撃隊隊長の炎銃があきれていった。
「どうしますか、キング。」
タカシは猛獣使いのようにじっとスパイの目を見ていった。
「おまえの話にも正当性はある。ゆっくり話を聞かせてもらおう。」
アイルヴィールックのキングがカーペットに腰をおろそうとした。ほぼ床にひざがつくところで、スパイの目線がタカシを離れた。次のアクションは瞬きをするくらいの時間に立て続けに発生した。
タカシはほぼ完全に曲げていた膝を一瞬でもどすと、上半身をうしろに反りかえらせたまま腕を振った。風切り音がするような右のアッパーカット。まともに右をくらったスパイは壁際まで吹き飛び、ずるずると座り込んでしまった。きっと強烈なパンチで頭のなかのスイッチがはいったままなのだろう。しっかりと両手でにぎったスタンガンから、電撃が連続して飛んでいる。やつは正座の姿勢で壁にもたれたまま、自分の太ももにスタンガンを押し当て続けていた。それでもピクリとも反応を示さない。肉の焦げる匂いがあたりに漂った。
「とめてやれ」
タカシがそういうと、Sウルフが思い出したようにスパイの両手からスタンガンを引き離した。やつはおれを振り向いて、ため息をついた。
「お前といっしょにヤマを踏んで、俺が楽をしたことあったか」
いいたいことは色々あったが、実に見事な一発だった。おれは音のしない拍手を送り、キングのKOを讃えた。きっと今夜のアッパーはまたSウルフのあいだで伝説になるだろう。タカシは笑っていった。
「このまえユーチューブで古いボクシングの試合を見てな。試してみたかったから、プリンス・ナジーム・ハメドのアッパーを真似してみた。」
このイケメンに抜群の身体能力。心底腹の立つ王さまだった。
撤収は素早かった。
Sウルフが気を失ったスパイの両脇を支えて、別のクルマにのせていく。タカシはエコバックから、百万の束をひとつマリオに放ってやった。
「礼をいう。最後にお前はいい仕事をした。法律でも遺失物の謝礼は定められているからな。それをもって、どこかに消えろ。二度とおれたちのまえに顔を出すんじゃない。」
マリオはそれをきいたとたんにワンルームマンションを走りだしていった。松本とオリエ、おれとキングだけが狭い部屋に立ちつくしていた。