ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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「彼女とそこにいるおっさんのキスシーンとかベッドのなかの写真とか、全部プリントアウトして大切そうにもって帰ったんです。」
RVにのった全員の視線が開発部長に集まった。顔を赤くして、松本がいった。
「今は誰でも携帯でそんな写真を撮るだろう。違うのか」
誰も返事はしなかった。そうなると、スパイが彼女の部屋に押し掛けたのは、作戦でも何でもなかったことになる。おれはマリオに質問した。
「スパイって女とつきあったことあるか?」
首をかしげて、まだマスクをしているチビがいった。
「わからないけど、たぶん生まれてから一度もないんじゃないかな。アイツ一度ストーカー行為で池袋署によばれたことがあったらしい」
まだ電話中の松本に古いほうのスマートフォンをださせた。データBOXを選び、カメラのフォルダーを開く。携帯を切って、松本が叫んだ。
「ちょっとやめてくれ。個人情報だ。プライベートな写真なんだぞ。」
おれはやつにかまわず、写真を選択した。最初に目に飛び込んできたのは、どこかの超高層ホテルの窓辺に下着姿で立つ宮崎織枝だった。下着は清純そうな白のレース。グラマーではなく、ほつそりとした身体つきだった。恥ずかしそうに笑う頬に、きれいな血の色が浮かんでいる。顔はどこか朝のワイドショーの清純派お天気キャスターのようだ。
タカシがクールにひと言で感想を述べた。おれと同じ感想。
「スパイという男、この女にひと目ぼれしたんじゃないか」
所沢までは、高速で小一時間。その間に作戦を練った。
とにかくスパイをオリエから引き離さなければなせない。おれのアイディアはシンプル。取引は無事終了した。松本とマリオは和解しているが、オリエが心配になって部屋を訪ねることにした。マリオにそう電話させて、とりあえずスパイの動きを抑える。松本にはオリエに気を強くもつて、もう少し待つように伝えさせる。手順を松本とマリオに話した。
松本がうなずいて、携帯をかけようとしたとき、タカシがいった。
「悠、おまえがいう楽な仕事って、いつも最後でもつれるな」
運転手の本郷がちらりとこちらを振り向いた。疫病神を見る目つき。オリエの声が再び携帯から流れると、車内はひどく静かになった。オリエは必死に叫んでいる。
『非常階段からバルコニーにまわってきてる。誰かたすけて』
おれはマリオにいった。
「すぐにスパイを呼び出してくれ。なんかやばそうだ。とにかく時間を稼いでくれ。」
RVは百五十キロ近い速度で、高速を弾丸のように駆けたが、それでもおれには遅くてたまらなかった。ずっと後部座席で足踏みしていたくらい。
西部所沢駅から歩いて十分ほどのワンルームマンションだった。
その建物については、松本が良く知っていた。オートロックの操作盤で、オリエの部屋番号を打ち込み返事を待つ。303号室。マリオはストーカーに手だけは出すなと言っている。男はすでに室内に侵入したようだが、おれたちには細部はわからない。女のおびえた声がきこえた。
『……はい』
松本がCCDに顔を近づけていった。
「佐々木さんとふたりだけだ。開けてくれ。」
急に男の声がした。
『ほんとうにふたりだけなのか。マリオ、どうなんだ』
冷静さのかけらもない男の声だった。いきなり女の部屋に侵入したのだ。さぞ恐怖と高揚を味わっていることだろう。マリオがおれたちを見てから返事をした。
「ああ、ふたりだけだ。金もある。おまえに分けまえもやるよ」
いい役者だった。かちりとオートロックが開く音がする。タカシが必要のない命令をくだした。
「いくぞ」
キングを先頭に三人のSウルフがオートロックのガラス扉を抜けた。おれたちも続く。この先どうなるのか、まったく読めなくなっていた。あまりに時間が無さ過ぎたのだ。もうつぎの一手を考える余裕もない。
RVにのった全員の視線が開発部長に集まった。顔を赤くして、松本がいった。
「今は誰でも携帯でそんな写真を撮るだろう。違うのか」
誰も返事はしなかった。そうなると、スパイが彼女の部屋に押し掛けたのは、作戦でも何でもなかったことになる。おれはマリオに質問した。
「スパイって女とつきあったことあるか?」
首をかしげて、まだマスクをしているチビがいった。
「わからないけど、たぶん生まれてから一度もないんじゃないかな。アイツ一度ストーカー行為で池袋署によばれたことがあったらしい」
まだ電話中の松本に古いほうのスマートフォンをださせた。データBOXを選び、カメラのフォルダーを開く。携帯を切って、松本が叫んだ。
「ちょっとやめてくれ。個人情報だ。プライベートな写真なんだぞ。」
おれはやつにかまわず、写真を選択した。最初に目に飛び込んできたのは、どこかの超高層ホテルの窓辺に下着姿で立つ宮崎織枝だった。下着は清純そうな白のレース。グラマーではなく、ほつそりとした身体つきだった。恥ずかしそうに笑う頬に、きれいな血の色が浮かんでいる。顔はどこか朝のワイドショーの清純派お天気キャスターのようだ。
タカシがクールにひと言で感想を述べた。おれと同じ感想。
「スパイという男、この女にひと目ぼれしたんじゃないか」
所沢までは、高速で小一時間。その間に作戦を練った。
とにかくスパイをオリエから引き離さなければなせない。おれのアイディアはシンプル。取引は無事終了した。松本とマリオは和解しているが、オリエが心配になって部屋を訪ねることにした。マリオにそう電話させて、とりあえずスパイの動きを抑える。松本にはオリエに気を強くもつて、もう少し待つように伝えさせる。手順を松本とマリオに話した。
松本がうなずいて、携帯をかけようとしたとき、タカシがいった。
「悠、おまえがいう楽な仕事って、いつも最後でもつれるな」
運転手の本郷がちらりとこちらを振り向いた。疫病神を見る目つき。オリエの声が再び携帯から流れると、車内はひどく静かになった。オリエは必死に叫んでいる。
『非常階段からバルコニーにまわってきてる。誰かたすけて』
おれはマリオにいった。
「すぐにスパイを呼び出してくれ。なんかやばそうだ。とにかく時間を稼いでくれ。」
RVは百五十キロ近い速度で、高速を弾丸のように駆けたが、それでもおれには遅くてたまらなかった。ずっと後部座席で足踏みしていたくらい。
西部所沢駅から歩いて十分ほどのワンルームマンションだった。
その建物については、松本が良く知っていた。オートロックの操作盤で、オリエの部屋番号を打ち込み返事を待つ。303号室。マリオはストーカーに手だけは出すなと言っている。男はすでに室内に侵入したようだが、おれたちには細部はわからない。女のおびえた声がきこえた。
『……はい』
松本がCCDに顔を近づけていった。
「佐々木さんとふたりだけだ。開けてくれ。」
急に男の声がした。
『ほんとうにふたりだけなのか。マリオ、どうなんだ』
冷静さのかけらもない男の声だった。いきなり女の部屋に侵入したのだ。さぞ恐怖と高揚を味わっていることだろう。マリオがおれたちを見てから返事をした。
「ああ、ふたりだけだ。金もある。おまえに分けまえもやるよ」
いい役者だった。かちりとオートロックが開く音がする。タカシが必要のない命令をくだした。
「いくぞ」
キングを先頭に三人のSウルフがオートロックのガラス扉を抜けた。おれたちも続く。この先どうなるのか、まったく読めなくなっていた。あまりに時間が無さ過ぎたのだ。もうつぎの一手を考える余裕もない。