ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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「おれひとり残して、どうするつもりなんだ。たすけてくれよ。別に殺されるほどひどいことはやっちゃいないだろ」
たしかにその通りだった。どこかのバーで、携帯電話を拾った。中身を見たら、おもしろい情報がごっそり。じゃう、ちょっと金もちのIT野郎をゆすってみようか。頭の悪い街のガキが考えそうなシナリオだった。タカシがかすかに笑って命令した。
「そいつをクルマにのせろ。」
おれはチビにいった。
「あんた名前は?」
命綱を見つけたような顔で、やつはおれにすがってくる。
「佐々木万里夫(ささきまりお)。お願いだから、助けてくれ。金なんかいらないから、頼むよ。」
もう足が萎えてしまったようだった。Sウルフに連れられて、RVにむかうつま先が広場のタイルを削っていく。
「そうか、ならば金は返してもらおう。」
タカシの声と同時にエコバックはSウルフの手に移った。あとはこのマリオ(なんかうちの最愛の猫とかぶって嫌だな)をどこかに連れていき、データの複製があるのか、共犯者がいないのかききだしたら、それで終わりだ。やっぱり今回はスムーズな仕事だった。血も一滴も流れていない。
その時だった。
冬の夜中の公園に似つかわしくないメロディが流れ出した。覚えているかな、ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーが歌ったデュエットの名作「エンドレス・ラヴ」。あのサビの甘いメロディがピアノで鳴ったのだ。
「今、大切な会議中だ。あとにしてくれ。」
返事は悲鳴だった。長くながく続く女の悲鳴。となりに立っていたおれには、その声がよくきこえた。誰かが心底恐れているときの声は、いたたまれないものだ。おれはいった。
「なにがあった?相手は誰だ?」
今までの大成功を収めたビジネスマン的な松本の顔色が暗転していた。もう拉致されかけたマリオと変わらなくなる。携帯に向かって必死に話しかける。
「どうしたんだ、オリエ」
タカシが驚いた顔をして、こっちを見ていた。おれは松本の携帯に耳を寄せた。やつに叫ぶ。
「なんでもいいから話しをのばして、何が起きてるのか聞きだせ」
松本はうなずくといった。
「どうした?だれかいるのか?今きみはどこにいるんだ?」
その声の調子でわかった。この相手はきっと松本の妻ではないのだろう。この男がおそれていたのは、社外秘の情報が漏れる事では無かった。「ないしょの手紙」と同じだ。取締役選考が始まるまえに、不倫がばれるのを恐れていたのだろう。
「あんたとんでもない隠し玉をもっていたんだな」
おれの声は、必死でスマートフォンにうなずく開発部長に届いていたのだろうか。タカシがいった。
「いつまでもここにいられない。移動するぞ。」
そこでおれは話を続ける部長を連れて、メルセデスのRVに乗り込んだ。
たしかにその通りだった。どこかのバーで、携帯電話を拾った。中身を見たら、おもしろい情報がごっそり。じゃう、ちょっと金もちのIT野郎をゆすってみようか。頭の悪い街のガキが考えそうなシナリオだった。タカシがかすかに笑って命令した。
「そいつをクルマにのせろ。」
おれはチビにいった。
「あんた名前は?」
命綱を見つけたような顔で、やつはおれにすがってくる。
「佐々木万里夫(ささきまりお)。お願いだから、助けてくれ。金なんかいらないから、頼むよ。」
もう足が萎えてしまったようだった。Sウルフに連れられて、RVにむかうつま先が広場のタイルを削っていく。
「そうか、ならば金は返してもらおう。」
タカシの声と同時にエコバックはSウルフの手に移った。あとはこのマリオ(なんかうちの最愛の猫とかぶって嫌だな)をどこかに連れていき、データの複製があるのか、共犯者がいないのかききだしたら、それで終わりだ。やっぱり今回はスムーズな仕事だった。血も一滴も流れていない。
その時だった。
冬の夜中の公園に似つかわしくないメロディが流れ出した。覚えているかな、ダイアナ・ロスとライオネル・リッチーが歌ったデュエットの名作「エンドレス・ラヴ」。あのサビの甘いメロディがピアノで鳴ったのだ。
「今、大切な会議中だ。あとにしてくれ。」
返事は悲鳴だった。長くながく続く女の悲鳴。となりに立っていたおれには、その声がよくきこえた。誰かが心底恐れているときの声は、いたたまれないものだ。おれはいった。
「なにがあった?相手は誰だ?」
今までの大成功を収めたビジネスマン的な松本の顔色が暗転していた。もう拉致されかけたマリオと変わらなくなる。携帯に向かって必死に話しかける。
「どうしたんだ、オリエ」
タカシが驚いた顔をして、こっちを見ていた。おれは松本の携帯に耳を寄せた。やつに叫ぶ。
「なんでもいいから話しをのばして、何が起きてるのか聞きだせ」
松本はうなずくといった。
「どうした?だれかいるのか?今きみはどこにいるんだ?」
その声の調子でわかった。この相手はきっと松本の妻ではないのだろう。この男がおそれていたのは、社外秘の情報が漏れる事では無かった。「ないしょの手紙」と同じだ。取締役選考が始まるまえに、不倫がばれるのを恐れていたのだろう。
「あんたとんでもない隠し玉をもっていたんだな」
おれの声は、必死でスマートフォンにうなずく開発部長に届いていたのだろうか。タカシがいった。
「いつまでもここにいられない。移動するぞ。」
そこでおれは話を続ける部長を連れて、メルセデスのRVに乗り込んだ。