ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「時間だ、いこう」
テクノロジー感傷にいつまでも浸っているわけにはいかなかった。おれは松本と肩をならべて、となりの公園に遠征した。カップルにも、Sウルフのクルマにも目を合わせなかった。広々とした公園のあちこちにパラパラとひとがいるという印象。
噴水のわきの広場でまっていると、北風がビルに押しつぶされて悲鳴のような声をあげた。公園のサンシャイン側の入り口から三人の男が入ってきたのは、十一時三分まえだった。
ジーンズに黒いレザーやダウンジャケット。みな、今年流行の立体裁断のマスクをつけている。脅迫犯のあいだではインフルエンザが流行つているのだろう。松本はさすがに部長で、腹がすわっていた。
「きみたちが、わたしの携帯をひろってくれたのか」
三人のなかで一番背の低い男がマスク越しにこたえた。かすかに笑いをふくんだ声。
「ああ。そうだ、西口の暗いバーでな」
なぜかしらないが松本は、それですこしひるんだようだ。マスクのチビがおれをにらんでいった。
「そいつは誰だ」
「ひとりだと不安でね、こちらはつきそいだ。そちらにふたりいるんだ、別にかまわないだろう。それよりさっさと取引をしよう。謝礼はここに用意してある。」
エコバックを軽くあげてみせた。おもしろいものだ。脅迫犯三人の視線は荒い布のバックに釘づけになっている。こいつらは素人と直感でわかった。
「わたしの携帯をみせてくれ。」
チビが着古したレザージャケットのポケットから、松本のスマートフォンを抜いた。片手にもったまま近づいてくる。ビル街の明るい谷底で、マスクマンと対決する。なんだかアメコミの一場面のようだ。
交換はあっさりとしたものだった。チビはすぐにバックの中身をあらため、松本はスマートフォンのデータBOXを開いた。お互い納得したようだ。素人のつきそいふたりもエコバックの中身が気になるようだった。いっせいにのぞきこんでいる。カップルは手をつないで、ベンチを立った。こちらにむかってくる。
三人の背後にタカシがあらわれたのは、次の瞬間だった。いつのまにかメルセデスは移動していたらしい。
「動くな。お前たちに話しがある。」
ひとりにつきふたりずつ巨漢のSウルフが張りついた。片方がベルトの腰をつかみ、もう片方が利き腕の右手をがっちりと押える。チビだけひとり叫んでいだ。
「こいつはどういうことだよ、松本、おまえ、なにしてるか、わかってんのか」
松本は自信満々だった。
「わかっている。これはビジネスの話しだ。きみたちには、ちゃんと謝礼をおわたしした。だが、データは無限に複製できるし、それについてもわたしは保証が欲しい。その謝礼金はわたしの個人情報のコピーライトの代金も含んでいると考えて欲しい。」
チビの両脇にいるふたりの男の足が震えていた。
「お願いです。助けてください。ちょろい仕事だから、ひと晩だけ手を貸してくれって言われたんです。おれたとは相手がSウルフなんてしらなかった。」
もうひとりも泣きをいれた。
「ここで見たことは誰にも話しません。どっかに埋めようなんて、やめてください。」
よほど悪質な噂がSウルフには流れているらしい。チビの顔色が青ざめた。さすがにそこまでは考えていなかったのだろう。おれたちにとってはいい展開。拉致は三人よりひとりのほうが楽だからな。タカシが芝居っけたっぷりにいった。
「明日も池袋を歩きたいなら、ここで見たことは誰にも話すな。」
カララっと金属の棒がタイルを摩擦する音。潜んでいた紅がわざと音を立てて周りを歩いていた。男たちは震えながらうなずいた。Sウルフが簡単な身体検査をして、ふたりの携帯電話を奪った。タカシの声はライズシティのビル風よに負けないほど冷たい。
「お前たちの名前はわかった。約束は守れるな」
ほとんど泣きそうな顔。おれはこういう人間の尊厳ってやつが奪われた顔をみるのが好きじゃない。ずっと目をそらしていたので、やつらが逃げていく姿は見ていない。
テクノロジー感傷にいつまでも浸っているわけにはいかなかった。おれは松本と肩をならべて、となりの公園に遠征した。カップルにも、Sウルフのクルマにも目を合わせなかった。広々とした公園のあちこちにパラパラとひとがいるという印象。
噴水のわきの広場でまっていると、北風がビルに押しつぶされて悲鳴のような声をあげた。公園のサンシャイン側の入り口から三人の男が入ってきたのは、十一時三分まえだった。
ジーンズに黒いレザーやダウンジャケット。みな、今年流行の立体裁断のマスクをつけている。脅迫犯のあいだではインフルエンザが流行つているのだろう。松本はさすがに部長で、腹がすわっていた。
「きみたちが、わたしの携帯をひろってくれたのか」
三人のなかで一番背の低い男がマスク越しにこたえた。かすかに笑いをふくんだ声。
「ああ。そうだ、西口の暗いバーでな」
なぜかしらないが松本は、それですこしひるんだようだ。マスクのチビがおれをにらんでいった。
「そいつは誰だ」
「ひとりだと不安でね、こちらはつきそいだ。そちらにふたりいるんだ、別にかまわないだろう。それよりさっさと取引をしよう。謝礼はここに用意してある。」
エコバックを軽くあげてみせた。おもしろいものだ。脅迫犯三人の視線は荒い布のバックに釘づけになっている。こいつらは素人と直感でわかった。
「わたしの携帯をみせてくれ。」
チビが着古したレザージャケットのポケットから、松本のスマートフォンを抜いた。片手にもったまま近づいてくる。ビル街の明るい谷底で、マスクマンと対決する。なんだかアメコミの一場面のようだ。
交換はあっさりとしたものだった。チビはすぐにバックの中身をあらため、松本はスマートフォンのデータBOXを開いた。お互い納得したようだ。素人のつきそいふたりもエコバックの中身が気になるようだった。いっせいにのぞきこんでいる。カップルは手をつないで、ベンチを立った。こちらにむかってくる。
三人の背後にタカシがあらわれたのは、次の瞬間だった。いつのまにかメルセデスは移動していたらしい。
「動くな。お前たちに話しがある。」
ひとりにつきふたりずつ巨漢のSウルフが張りついた。片方がベルトの腰をつかみ、もう片方が利き腕の右手をがっちりと押える。チビだけひとり叫んでいだ。
「こいつはどういうことだよ、松本、おまえ、なにしてるか、わかってんのか」
松本は自信満々だった。
「わかっている。これはビジネスの話しだ。きみたちには、ちゃんと謝礼をおわたしした。だが、データは無限に複製できるし、それについてもわたしは保証が欲しい。その謝礼金はわたしの個人情報のコピーライトの代金も含んでいると考えて欲しい。」
チビの両脇にいるふたりの男の足が震えていた。
「お願いです。助けてください。ちょろい仕事だから、ひと晩だけ手を貸してくれって言われたんです。おれたとは相手がSウルフなんてしらなかった。」
もうひとりも泣きをいれた。
「ここで見たことは誰にも話しません。どっかに埋めようなんて、やめてください。」
よほど悪質な噂がSウルフには流れているらしい。チビの顔色が青ざめた。さすがにそこまでは考えていなかったのだろう。おれたちにとってはいい展開。拉致は三人よりひとりのほうが楽だからな。タカシが芝居っけたっぷりにいった。
「明日も池袋を歩きたいなら、ここで見たことは誰にも話すな。」
カララっと金属の棒がタイルを摩擦する音。潜んでいた紅がわざと音を立てて周りを歩いていた。男たちは震えながらうなずいた。Sウルフが簡単な身体検査をして、ふたりの携帯電話を奪った。タカシの声はライズシティのビル風よに負けないほど冷たい。
「お前たちの名前はわかった。約束は守れるな」
ほとんど泣きそうな顔。おれはこういう人間の尊厳ってやつが奪われた顔をみるのが好きじゃない。ずっと目をそらしていたので、やつらが逃げていく姿は見ていない。