ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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十分後には、おれたちは実際に公園で人員の配置を考えていた。やっぱり地元の事件はいいよな。交通渋滞も移動日の必要もない。
噴水前の広場が待ち合わせの場所だが、タカシは周囲を見まわして部下につぎつぎと命令をくだした。
「ここのベンチと向こうのベンチにカップルを二組手配しろ。あとは公園の出入り口と向かいのコンビニに何人かずつおいておく。クルマは三台あればいいだろう」
実行部隊は全部で十五人ほどだった。こうしていくらでも人海戦術がつかえる。Sウルフの強み。ちっぽけな犯罪を起こすようなやつは、警察以外に誰もそんな網を張るとは予想しない。
下見はほんの十五分で終了して、おれたちはあたたかな車内にもどった。気がすすまない様子で、キングがいった。
「なんだかすべてがかんたんに運びすぎだな」
おれは基本的に楽天家。そうでなくちゃこんな不景気の底の地獄で生きちゃいけない。
「そうかな。今までだって楽な仕事はとことん楽だった。ものごとはうーんとこじれるのが三分の一で、あとはだいたいスムーズじゃないか。」
話すまでもないスムーズな仕事をいくつも片づけたことがある。鼻歌さえ歌うひまのないスーパースムーズなトラブル。
「……いいだろう。どちらにしても、明後日の今ごろには問題は解決してるんだ。俺たちはライフゲートにいいパイプができる。今回の一番のメリットは金でなく、そこだな」
おれは驚いていった。
「Sウルフのブログでもやるつもりなのか」
「いいや、あれはひとりでいられない愚か者の日記だ。だが、ネットの世界も金の動きという意味では、リアルな世界と変わらないこうしてこの街の束ねていくだけでも、お前には想像もつかないような金がかかるんだ」
財政についても責任があるのだった。気の毒なキング。
「すべて終わったら、一杯やろうぜ。おれは明日の朝、学校に呼び出しくらってて早いんだ。送ってくれ。」
やつは一瞬なにかいいたげな顔をしたが、すぐに目的地をドライバーに告げた。
「ないしょの手紙」をききながら、翌日は一日しっかり授業を受けた。
不倫というのはおれも好きな言葉じゃないけど、そういう隠れた関係でなければ生まれない熱量や集中があるのだろうなと思った。ヤナーチェクは十年間秘密の恋を隠し切り、肺炎になってカミラにちゃんと最期を看取られている。その肺炎だって、雨のなか道に迷った愛人の息子を探しにいったせいだという噂があるくらいなのだ。そこまでいけば、不倫も普通の恋愛も変わらないのかもしれない。
おれは自分のことは棚に上げて、欲望を抑えて生きる同世代の草食男子について考えた。
ひとりひとりの生き残り戦略としては、そいつはきっとただしい。なにせ収入は急角度で減っている。平均でこの十年間に百万円近いダウンなのだ。だから、恋や結婚などせずに全額を自分ひとりの生き残りのためにつかったほうが、より生存に有利なのはよくわかる。だが独身男性の誰もがただしい選択を続けた先には、経済学でおなじみの合成の誤謬(ごびゆう)が待っている。ひとりひとりはよく生き延びても、次世代が育たなければ社会は一世代で死に絶えるのだ。
老いた巨匠の情熱的な音楽は、めずらしくおれにそんなことを考えさせた。だけどなにもかも十分と信じている草食動物に、どうやって肉をくわせるのだろうか。そいつは隠れていてよく見えないが、財政赤字とか、天下り禁止とか、年金問題なんかより、ずっと解決困難な問題だった。
噴水前の広場が待ち合わせの場所だが、タカシは周囲を見まわして部下につぎつぎと命令をくだした。
「ここのベンチと向こうのベンチにカップルを二組手配しろ。あとは公園の出入り口と向かいのコンビニに何人かずつおいておく。クルマは三台あればいいだろう」
実行部隊は全部で十五人ほどだった。こうしていくらでも人海戦術がつかえる。Sウルフの強み。ちっぽけな犯罪を起こすようなやつは、警察以外に誰もそんな網を張るとは予想しない。
下見はほんの十五分で終了して、おれたちはあたたかな車内にもどった。気がすすまない様子で、キングがいった。
「なんだかすべてがかんたんに運びすぎだな」
おれは基本的に楽天家。そうでなくちゃこんな不景気の底の地獄で生きちゃいけない。
「そうかな。今までだって楽な仕事はとことん楽だった。ものごとはうーんとこじれるのが三分の一で、あとはだいたいスムーズじゃないか。」
話すまでもないスムーズな仕事をいくつも片づけたことがある。鼻歌さえ歌うひまのないスーパースムーズなトラブル。
「……いいだろう。どちらにしても、明後日の今ごろには問題は解決してるんだ。俺たちはライフゲートにいいパイプができる。今回の一番のメリットは金でなく、そこだな」
おれは驚いていった。
「Sウルフのブログでもやるつもりなのか」
「いいや、あれはひとりでいられない愚か者の日記だ。だが、ネットの世界も金の動きという意味では、リアルな世界と変わらないこうしてこの街の束ねていくだけでも、お前には想像もつかないような金がかかるんだ」
財政についても責任があるのだった。気の毒なキング。
「すべて終わったら、一杯やろうぜ。おれは明日の朝、学校に呼び出しくらってて早いんだ。送ってくれ。」
やつは一瞬なにかいいたげな顔をしたが、すぐに目的地をドライバーに告げた。
「ないしょの手紙」をききながら、翌日は一日しっかり授業を受けた。
不倫というのはおれも好きな言葉じゃないけど、そういう隠れた関係でなければ生まれない熱量や集中があるのだろうなと思った。ヤナーチェクは十年間秘密の恋を隠し切り、肺炎になってカミラにちゃんと最期を看取られている。その肺炎だって、雨のなか道に迷った愛人の息子を探しにいったせいだという噂があるくらいなのだ。そこまでいけば、不倫も普通の恋愛も変わらないのかもしれない。
おれは自分のことは棚に上げて、欲望を抑えて生きる同世代の草食男子について考えた。
ひとりひとりの生き残り戦略としては、そいつはきっとただしい。なにせ収入は急角度で減っている。平均でこの十年間に百万円近いダウンなのだ。だから、恋や結婚などせずに全額を自分ひとりの生き残りのためにつかったほうが、より生存に有利なのはよくわかる。だが独身男性の誰もがただしい選択を続けた先には、経済学でおなじみの合成の誤謬(ごびゆう)が待っている。ひとりひとりはよく生き延びても、次世代が育たなければ社会は一世代で死に絶えるのだ。
老いた巨匠の情熱的な音楽は、めずらしくおれにそんなことを考えさせた。だけどなにもかも十分と信じている草食動物に、どうやって肉をくわせるのだろうか。そいつは隠れていてよく見えないが、財政赤字とか、天下り禁止とか、年金問題なんかより、ずっと解決困難な問題だった。