ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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松本は腕時計を確かめた。なぜかそいつはデジタルでなく、アナログ式の黄金のスイス製。
黒い鰐皮のベルトが渋い。
「あと十分話せる。受け渡しはどうすればいいだろう。」
もう半分、仕事は終わったようなもんだった。
「どこか人目につかないところがいいかな。やつらも目立てちたくないからな、賛成するだろう。周囲をSウルフで包囲して、金を渡すと同時に一気に制圧する。」
開発部長が目を輝かせた。ひどくうれしげ。
「痛めつけるのか?」
「そんな無駄なことはしない。だが、なにをするかわからないという恐怖は植え付けるんだろうな。タカシはそういうのがバカみたいに上手いんだ」
松本はがっかりしたようだ。すこしテンションが下がった質問をしてきた。
「再犯防止になにをする?」
おれはこれまでのその手の脅迫事件を思い出してみた。適当に答える。
「相手もひとりじゃないだろう。ボス格を人質にして、複製をすべてもってこさせてもいいし、逆にこちらがやつらの携帯を押えて、個人情報をいただいてもいい。」
「なるほど。いつでも彼らが自分の家に復讐しにくると思えば、そうそうつぎの脅迫などには踏み切らないか」
松本は夕闇の迫る再開発地のカフェで、しげしげとおれを見た。おれは商売用の笑顔を固定した。こいつが一番心のなかを読ませないからな。やつは上着のポケットから封筒をだして、おれのまえにおいた。いきなり右手を差し出してくる。
「わたしは虎狗琥くんから、こうきいていたんだ。池袋でしのいでいくなら、悠くんと知り合いになっていたほうがいい。あいつは実に便利な男だと。これは着手金だ。」
おれは松本と握手した。薄くて冷たいてのひら。
「遠慮なく、もらっておく。もう時間だろ。おれはかえってから、受け渡しの日時を指定するメールを書くから、それをチェックしてくれ。オーケーなら、そっちの携帯から相手に送ってくれ。とりあえず時間は、明後日の夜十一時でいいか」
松本はスマートフォンでスケジュールを確認していった。
「かまわない。これからもなにかあったら、よろしく頼む」
軽く会釈をよこした。おれは腕利きのエージェントにでもなった気がした。なんといっても懐には機密費がたんまり。まったく今回は悪くない仕事。
家にもどって、銀行の封筒をそのまま真桜に投げてやった。
「なんだなの、これはなの。」
むつの山から拾った封筒を開き、なかを見る。おれは余裕たっぷりにいってやった。
「冷蔵庫でも、洗濯機でも、好きな物かいな」
「なにいってる、バカなの。こんな怪しい金をつかえるかなの」
真桜が抜き出したのは、しわひとつない一万円の新券が二十枚。なんだかきれい過ぎて精巧な模造品みたい。
「別に怪しいもんじゃない。おれがこれからメールで名作を書くんだ。その原稿料みたいなもんかな。」
「ふざけるんじゃないなの。いい加減にしとけなの。なんだかしらないけど、トラブルが全部片付いたら、よろこんでつかうなの。それまでそこにでも置いとけなの。」
広間の奥、仏間を指さす。真桜は少し年寄りじみてる。しかたなくおれは仏壇のうえに封筒を置き去りにして、二階にあがった。
いいメールを書くにはいいBGMを探さなくちゃいけない。
黒い鰐皮のベルトが渋い。
「あと十分話せる。受け渡しはどうすればいいだろう。」
もう半分、仕事は終わったようなもんだった。
「どこか人目につかないところがいいかな。やつらも目立てちたくないからな、賛成するだろう。周囲をSウルフで包囲して、金を渡すと同時に一気に制圧する。」
開発部長が目を輝かせた。ひどくうれしげ。
「痛めつけるのか?」
「そんな無駄なことはしない。だが、なにをするかわからないという恐怖は植え付けるんだろうな。タカシはそういうのがバカみたいに上手いんだ」
松本はがっかりしたようだ。すこしテンションが下がった質問をしてきた。
「再犯防止になにをする?」
おれはこれまでのその手の脅迫事件を思い出してみた。適当に答える。
「相手もひとりじゃないだろう。ボス格を人質にして、複製をすべてもってこさせてもいいし、逆にこちらがやつらの携帯を押えて、個人情報をいただいてもいい。」
「なるほど。いつでも彼らが自分の家に復讐しにくると思えば、そうそうつぎの脅迫などには踏み切らないか」
松本は夕闇の迫る再開発地のカフェで、しげしげとおれを見た。おれは商売用の笑顔を固定した。こいつが一番心のなかを読ませないからな。やつは上着のポケットから封筒をだして、おれのまえにおいた。いきなり右手を差し出してくる。
「わたしは虎狗琥くんから、こうきいていたんだ。池袋でしのいでいくなら、悠くんと知り合いになっていたほうがいい。あいつは実に便利な男だと。これは着手金だ。」
おれは松本と握手した。薄くて冷たいてのひら。
「遠慮なく、もらっておく。もう時間だろ。おれはかえってから、受け渡しの日時を指定するメールを書くから、それをチェックしてくれ。オーケーなら、そっちの携帯から相手に送ってくれ。とりあえず時間は、明後日の夜十一時でいいか」
松本はスマートフォンでスケジュールを確認していった。
「かまわない。これからもなにかあったら、よろしく頼む」
軽く会釈をよこした。おれは腕利きのエージェントにでもなった気がした。なんといっても懐には機密費がたんまり。まったく今回は悪くない仕事。
家にもどって、銀行の封筒をそのまま真桜に投げてやった。
「なんだなの、これはなの。」
むつの山から拾った封筒を開き、なかを見る。おれは余裕たっぷりにいってやった。
「冷蔵庫でも、洗濯機でも、好きな物かいな」
「なにいってる、バカなの。こんな怪しい金をつかえるかなの」
真桜が抜き出したのは、しわひとつない一万円の新券が二十枚。なんだかきれい過ぎて精巧な模造品みたい。
「別に怪しいもんじゃない。おれがこれからメールで名作を書くんだ。その原稿料みたいなもんかな。」
「ふざけるんじゃないなの。いい加減にしとけなの。なんだかしらないけど、トラブルが全部片付いたら、よろこんでつかうなの。それまでそこにでも置いとけなの。」
広間の奥、仏間を指さす。真桜は少し年寄りじみてる。しかたなくおれは仏壇のうえに封筒を置き去りにして、二階にあがった。
いいメールを書くにはいいBGMを探さなくちゃいけない。