ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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「まあ、うちはまだ業界ではほんとうの大手というわけじゃない。それでも、わたさは創設時のメンバーで、そろそろつぎのステップに手がかかるところまできている。部長のつぎは取締役だ。会社員にとってはひとつおおきな壁を越えることになる。今はあまり身近で騒ぎを起こしたくないのだ。」
おれは目の前の男に目をやった。それだけの情報が漏れだしていたら気が気ではないだろうが、どっしり落ち着いている。さすが次期重役。
「それで相手って、どんなやつなんだ?どんなふうに接触を図ってきた?」
松本は初めて困った顔をした。冬のアイスコーヒーをのんでも、部長のひたいにはうっすらと汗が浮いていた。
「わたしが携帯電話を紛失したのは、二週間ほどまえになる。遠隔ロックをかけ、遺失物届けを提出したのは翌朝だ。仕事に不便だし、もうでてくることはないだろうと思い、すぐに新しい携帯を買った。情報はロックで安全だとたかをくくっていたんだ。勤務先に手紙が届いたのは五日後だった。これだ」
松本が今度はどこにでも売っているような白い封筒をテーブルにおいた。
宛名は㈱ライフゲート 研究開発部 松本悟部長。定規で引いたような角ばった筆跡だった。切手の消印はかすれて読みにくいが池袋本町とあった。北池袋の駅のむこうのすぐ近くの郵便局だ。
「中身を読んでもかまわないか?」
松本がうなずいて、おれはA4のプリントアウトを抜いた。
松本悟さま
おたくの携帯電話を拾ったものだ。こちらは別におたくを脅迫するつもりはない。ただ正当な謝礼がほしいだけだ。届け先を探すために、内部の情報はすべて見させてもらった。これほど価値ある情報なら、きっとほしがる誰かがいることだろう。謝礼の額はそちらで考えておいてもらいたい。
親切な拾い主
そのあとには、アドレスが一行だけ。おれは顔をあげていった。
「もうここには連絡したのか」
「ああ、何度か。謝礼はだんだんとつりあがって、今では六百万円まできている」
携帯電話ひとつの値段が六百万!考えられない。さすがに金もちは違う。
「じゃあ、さっさと払って、携帯をとりもどせばいいじゃないか」
「問題はそこなんだ。わたしが心配しているのは、この脅迫が一回性のものかどうかということだ」
なるほど。その心配はおれにだってよくわかった。かんたんに手にいれた金はすぐに蒸発してしまう。
なくなれば、親切な拾い主はまたつぎの仕事にかかるかもしれない。最初の親切が、つぎは強欲に変わる。資本主義の合理的な発展形態だよな。
「情報なんてコピーしてしまえば、いくらでも複製がつくれる。携帯をとりもどしても、松本さんはいつまでたっても安心できない」
開発部長は苦虫を噛み潰した顔でいった。
「そういうことだ。」
おれは目の前の男に目をやった。それだけの情報が漏れだしていたら気が気ではないだろうが、どっしり落ち着いている。さすが次期重役。
「それで相手って、どんなやつなんだ?どんなふうに接触を図ってきた?」
松本は初めて困った顔をした。冬のアイスコーヒーをのんでも、部長のひたいにはうっすらと汗が浮いていた。
「わたしが携帯電話を紛失したのは、二週間ほどまえになる。遠隔ロックをかけ、遺失物届けを提出したのは翌朝だ。仕事に不便だし、もうでてくることはないだろうと思い、すぐに新しい携帯を買った。情報はロックで安全だとたかをくくっていたんだ。勤務先に手紙が届いたのは五日後だった。これだ」
松本が今度はどこにでも売っているような白い封筒をテーブルにおいた。
宛名は㈱ライフゲート 研究開発部 松本悟部長。定規で引いたような角ばった筆跡だった。切手の消印はかすれて読みにくいが池袋本町とあった。北池袋の駅のむこうのすぐ近くの郵便局だ。
「中身を読んでもかまわないか?」
松本がうなずいて、おれはA4のプリントアウトを抜いた。
松本悟さま
おたくの携帯電話を拾ったものだ。こちらは別におたくを脅迫するつもりはない。ただ正当な謝礼がほしいだけだ。届け先を探すために、内部の情報はすべて見させてもらった。これほど価値ある情報なら、きっとほしがる誰かがいることだろう。謝礼の額はそちらで考えておいてもらいたい。
親切な拾い主
そのあとには、アドレスが一行だけ。おれは顔をあげていった。
「もうここには連絡したのか」
「ああ、何度か。謝礼はだんだんとつりあがって、今では六百万円まできている」
携帯電話ひとつの値段が六百万!考えられない。さすがに金もちは違う。
「じゃあ、さっさと払って、携帯をとりもどせばいいじゃないか」
「問題はそこなんだ。わたしが心配しているのは、この脅迫が一回性のものかどうかということだ」
なるほど。その心配はおれにだってよくわかった。かんたんに手にいれた金はすぐに蒸発してしまう。
なくなれば、親切な拾い主はまたつぎの仕事にかかるかもしれない。最初の親切が、つぎは強欲に変わる。資本主義の合理的な発展形態だよな。
「情報なんてコピーしてしまえば、いくらでも複製がつくれる。携帯をとりもどしても、松本さんはいつまでたっても安心できない」
開発部長は苦虫を噛み潰した顔でいった。
「そういうことだ。」