ー特別編ーブラックボックスの蜘蛛
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すこし冷めてきたカフェラテをすすって、次に池袋のガキの王に電話した。とりつぎがでて、すぐに代わる。タカシの声は東京の木枯らし一号のように耳に冷たい。
『なんだ、悠、忘年会の誘いか?』
驚いた。自分からのみの誘いをするなんて、よほどSウルフの雑務がいそがしいのだろう。孤独で働き者の王さま。
「タカシがそういうなら、二、三人かわいい子をセッティングして、忘年会を開いてもいいぞ。」
電話の向こうで急に気圧が下がったようだった。
『雑談につきあう時間はない。用件は?』
おれはガラスの向こうの通路を見た。
でかいダンボール箱をもった家族がぞろぞろと歩いている。もうランチタイムが始まるのだろう。これが不景気なら、ずいぶんとぬるい不景気だ。
「ライフゲートの開発部長、なんて名前だったっけ?」
あつさりとタカシがいった。やつの記憶力は携帯電話のフォルダーなみ。
『松本悟』
「そうそう、そいつからていねいなメールをもらった。タカシはエリートビジネスマンにも顔見知りがいるんだな」
『友人でも顔見知りでもない。やつの会社で、Sウルフの何人かがアルバイトをしていてな。そのつてで表ざたにならずにトラブルを解決する方法が無いか尋ねられた。ただそれだけ』
「じゃあ、Sウルフは今回の件では中立なんだな」
『そうだ。ただ話によると、やつはライフゲートの創立メンバーのひとりらしい。たっぷりと株をもってる。あそこはもう東証マザーズに上場してるからな』
「ふーん」
おれのクライアントで金持ちはめずらしい。
というより池袋の街に、そんなやつはめずらしいんだけどね。
タカシはビジネスマンのように冷静な声でいった。
『ライフゲートは地元の優良企業だ。お前とSウルフで貸しをつくっておけば、悪いことはない。まあ、せいぜいがんばってみろ。』
また計算高い王さまのきまぐれな命令だった。
「ははあー、ありがたい仰せでごぜーます。ちょっとメールの返事を入れてみる。タカシがそういうんだから、なにかあったらSウルフの手を借りてもいいな?」
『かまわない。だが、今回はきちんと料金を払ってもらう。相手は金もちだ。お前がしっかり交渉しろ。』
「なんだ、それ。おれが金の話が苦手なの、お前も……」
いきなりガチャ切りされた。なんというか、これほど腹の立つことはない。
昔ならガチャ切り一回で決闘騒動になったはずだ。痛く名誉を傷つけられる。
白手袋でタカシの頬を打つところを想像して少し気分が良くなった。
おれはしかたなく、新興IT企業の開発部長にメールを送った。
おれはお願いの儀なんて言葉は使えないので、いつもどおりタメ口メールだ。二度ほどやり取りして、その日の午後五時にライズシティの広場で会うことになった。
いったんヤマダ電機から家に戻る道中、リッカの店を訪ねた。めずらしくちゃんと店番してると思ったリッカが少しだけ変わってくれといって入れ替わりに出て行ってしまう。新宿にある自分の店番もサボってるのになぜ人の店で冬の果物を売らなくちゃいけないのだろうか。
しかし、このところ、果物屋からも季節感は急激に失われている。青森産のむつや王林(おうりん)やふじにまざって、普通にマスクメロンやマンゴーもあるのだ。まあ、猛烈にボイラーで油をたいてつくった、まったくエコじゃないフルーツだけどな。
でも、おれなんかは思うけど、エコって不景気と同じくらい楽しくないよな。別にガソリンと電気を節約するのはかまわないが、生きることまで無駄をはぶいてエコにしなくていいんじゃないだろうか。
小一時間くらい店番をしてからおれはリッカ母に声をかけて自分の家に帰った。手土産にメロンを丸々一個もらえたんだから全然悪くない仕事だった。今回のトラブルもこれからのトラブルもこれくらいスマートだったらいいのにな。
『なんだ、悠、忘年会の誘いか?』
驚いた。自分からのみの誘いをするなんて、よほどSウルフの雑務がいそがしいのだろう。孤独で働き者の王さま。
「タカシがそういうなら、二、三人かわいい子をセッティングして、忘年会を開いてもいいぞ。」
電話の向こうで急に気圧が下がったようだった。
『雑談につきあう時間はない。用件は?』
おれはガラスの向こうの通路を見た。
でかいダンボール箱をもった家族がぞろぞろと歩いている。もうランチタイムが始まるのだろう。これが不景気なら、ずいぶんとぬるい不景気だ。
「ライフゲートの開発部長、なんて名前だったっけ?」
あつさりとタカシがいった。やつの記憶力は携帯電話のフォルダーなみ。
『松本悟』
「そうそう、そいつからていねいなメールをもらった。タカシはエリートビジネスマンにも顔見知りがいるんだな」
『友人でも顔見知りでもない。やつの会社で、Sウルフの何人かがアルバイトをしていてな。そのつてで表ざたにならずにトラブルを解決する方法が無いか尋ねられた。ただそれだけ』
「じゃあ、Sウルフは今回の件では中立なんだな」
『そうだ。ただ話によると、やつはライフゲートの創立メンバーのひとりらしい。たっぷりと株をもってる。あそこはもう東証マザーズに上場してるからな』
「ふーん」
おれのクライアントで金持ちはめずらしい。
というより池袋の街に、そんなやつはめずらしいんだけどね。
タカシはビジネスマンのように冷静な声でいった。
『ライフゲートは地元の優良企業だ。お前とSウルフで貸しをつくっておけば、悪いことはない。まあ、せいぜいがんばってみろ。』
また計算高い王さまのきまぐれな命令だった。
「ははあー、ありがたい仰せでごぜーます。ちょっとメールの返事を入れてみる。タカシがそういうんだから、なにかあったらSウルフの手を借りてもいいな?」
『かまわない。だが、今回はきちんと料金を払ってもらう。相手は金もちだ。お前がしっかり交渉しろ。』
「なんだ、それ。おれが金の話が苦手なの、お前も……」
いきなりガチャ切りされた。なんというか、これほど腹の立つことはない。
昔ならガチャ切り一回で決闘騒動になったはずだ。痛く名誉を傷つけられる。
白手袋でタカシの頬を打つところを想像して少し気分が良くなった。
おれはしかたなく、新興IT企業の開発部長にメールを送った。
おれはお願いの儀なんて言葉は使えないので、いつもどおりタメ口メールだ。二度ほどやり取りして、その日の午後五時にライズシティの広場で会うことになった。
いったんヤマダ電機から家に戻る道中、リッカの店を訪ねた。めずらしくちゃんと店番してると思ったリッカが少しだけ変わってくれといって入れ替わりに出て行ってしまう。新宿にある自分の店番もサボってるのになぜ人の店で冬の果物を売らなくちゃいけないのだろうか。
しかし、このところ、果物屋からも季節感は急激に失われている。青森産のむつや王林(おうりん)やふじにまざって、普通にマスクメロンやマンゴーもあるのだ。まあ、猛烈にボイラーで油をたいてつくった、まったくエコじゃないフルーツだけどな。
でも、おれなんかは思うけど、エコって不景気と同じくらい楽しくないよな。別にガソリンと電気を節約するのはかまわないが、生きることまで無駄をはぶいてエコにしなくていいんじゃないだろうか。
小一時間くらい店番をしてからおれはリッカ母に声をかけて自分の家に帰った。手土産にメロンを丸々一個もらえたんだから全然悪くない仕事だった。今回のトラブルもこれからのトラブルもこれくらいスマートだったらいいのにな。