ー特別編ー非正規ワーカーズ
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「はい、派遣法で禁止されている港湾と建設現場への派遣と二重派遣についての資料です」
モエの父親は頭をかきむしった。
「そんなことはどの派遣会社でもやってることだ」
「そうね。つぎの法改正ではどうなるかわからない。でも、今は明確な違法行為よ。ねえ、パパ、明日からベターデイズは嵐に巻き込まれることになる。たいへんなことだとは思うけど、もう一度、生まれ変わるためのチャンスにしてほしいの。パパが本気で会社を更正させる気になったら、わたしも一生懸命お手伝いさせてもらいます」
モエは父親にむかって、頭をさげた。おれも軽く会釈しておく。おれたちが部屋をでるとき、さっきのメイドが紅茶をいれてきてくれた。メイドと亀井社長が、そろってちょっと待つようにといったが、モエの足は止まらなかった。
したにおりるエレベーターのなかで、おれは質問した。
「なんで、あそこまでおやじさんと闘うんだ?」
モエはおれのほうを見ずにいった。
「ママと約束したから。ベターデイズはよりよい明日をつくり、人を幸せにするための会社だった。最初は人材派遣業ではなかったの、パパとママがやってるちいさな衣料品の問屋でね。でも、ママが死んでからパパは変わった。金がすべて、力がすべて。今のベターデイズは誰もしあわせになんかしない会社。パパは今でも不安なんだと思う。」
あれだけの金をもって、こんなガラスの塔のうえに住んでいても、不安なのだろうか。日雇い派遣で働くフリーターも不安、年商五千億の会社の社長も不安では、おれたちの社会に安心できる人間などいなくなってしまう。
「なあ、内部告発はどんなインパクトになるのかな」
モエが首をかしげた。
「何週間か、何ヵ月かの業務停止と業務の改善命令がでると思う。会社は潰れることはないけど、被害はおおきいんじゃないかな。一番マイナスなのはパパだと思うけど」
「どういう意味?」
まもなく地上だった。おれはごくりとつばをのんで、耳の違和感を治した。
「パパの財産はほとんどがベターデイズの株式だから。不祥事が起きれば株価は急落するでしょう。もしかしたら、何百億円の損害になるかも」
恐ろしいことをいうお嬢様だった。このユニオン代表はもしかしたらスーパーメイドなのかもしれない。
「ふーん、モエはそれでいいんだ」
エレベーターのドアが開いた。振り向いたモエの顔はいっぱいの笑みを浮かべている。
「それでもゼロになるわけじゃないし、いれいろなものを一度捨てないと、再チャレンジはできないでしょう。わたしにもよくわからないところはあるけど、きっとそれでいいんだよ。だって悠さんもいっていたじゃない。みんながんなが人間らしく働けたら、素晴らしいなって。わたし、あの言葉をきいて、パパと正面から闘うことにしたんだよ」
自分でいっておいてなんだが、ときに言葉は思いもかけない遠くまで届くことがあるものだ。おれはそのとき、これからは言葉のつかいかたに注意しようと真剣に考えたのだった。
モエの父親は頭をかきむしった。
「そんなことはどの派遣会社でもやってることだ」
「そうね。つぎの法改正ではどうなるかわからない。でも、今は明確な違法行為よ。ねえ、パパ、明日からベターデイズは嵐に巻き込まれることになる。たいへんなことだとは思うけど、もう一度、生まれ変わるためのチャンスにしてほしいの。パパが本気で会社を更正させる気になったら、わたしも一生懸命お手伝いさせてもらいます」
モエは父親にむかって、頭をさげた。おれも軽く会釈しておく。おれたちが部屋をでるとき、さっきのメイドが紅茶をいれてきてくれた。メイドと亀井社長が、そろってちょっと待つようにといったが、モエの足は止まらなかった。
したにおりるエレベーターのなかで、おれは質問した。
「なんで、あそこまでおやじさんと闘うんだ?」
モエはおれのほうを見ずにいった。
「ママと約束したから。ベターデイズはよりよい明日をつくり、人を幸せにするための会社だった。最初は人材派遣業ではなかったの、パパとママがやってるちいさな衣料品の問屋でね。でも、ママが死んでからパパは変わった。金がすべて、力がすべて。今のベターデイズは誰もしあわせになんかしない会社。パパは今でも不安なんだと思う。」
あれだけの金をもって、こんなガラスの塔のうえに住んでいても、不安なのだろうか。日雇い派遣で働くフリーターも不安、年商五千億の会社の社長も不安では、おれたちの社会に安心できる人間などいなくなってしまう。
「なあ、内部告発はどんなインパクトになるのかな」
モエが首をかしげた。
「何週間か、何ヵ月かの業務停止と業務の改善命令がでると思う。会社は潰れることはないけど、被害はおおきいんじゃないかな。一番マイナスなのはパパだと思うけど」
「どういう意味?」
まもなく地上だった。おれはごくりとつばをのんで、耳の違和感を治した。
「パパの財産はほとんどがベターデイズの株式だから。不祥事が起きれば株価は急落するでしょう。もしかしたら、何百億円の損害になるかも」
恐ろしいことをいうお嬢様だった。このユニオン代表はもしかしたらスーパーメイドなのかもしれない。
「ふーん、モエはそれでいいんだ」
エレベーターのドアが開いた。振り向いたモエの顔はいっぱいの笑みを浮かべている。
「それでもゼロになるわけじゃないし、いれいろなものを一度捨てないと、再チャレンジはできないでしょう。わたしにもよくわからないところはあるけど、きっとそれでいいんだよ。だって悠さんもいっていたじゃない。みんながんなが人間らしく働けたら、素晴らしいなって。わたし、あの言葉をきいて、パパと正面から闘うことにしたんだよ」
自分でいっておいてなんだが、ときに言葉は思いもかけない遠くまで届くことがあるものだ。おれはそのとき、これからは言葉のつかいかたに注意しようと真剣に考えたのだった。