ー特別編ー非正規ワーカーズ
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おれは前日と同じように仕事を問いあわせて、別な日雇いの仕事をゲットした。メールが送られてきたのを確認してから、またベターデイズの池袋支店に電話をかけた。今度は店長の谷岡をだしてもらう。
「昨日からお世話になっています。I28356の小鳥遊です」
谷岡は疲れたように笑った。
『登録ナンバーは別にいいよ。なんの用かな。』
「現場責任者の木下さんから、事故の話しはきいてないですか。青木さんという人に重さ三十キロの小麦粉の袋が落ちたんですけど」
『ああ、報告は受けている』
とことん疲れた声だった。ほかにはどんな感情もないのだ。
「ああいうの、ほんとうは労災ですよね。どうして、倉庫会社もベターデイズもけが人を見殺しにしたんですか。自分の金をつかってタクシーで病院いけなんて、ひどい話じゃないですか。谷岡店長の息子さんがそんな目にあったら、どう思いますか」
店長はふーとため息をついた。
『うちの子はまだ小学一年生で、労災の心配はいらない。お願いだから、フリーターではなく、正社員になってくれとうだろうな』
正直な男だった。案外話せるやつかもしれない。
「じゃあ、青木さんにすこしは見舞金とかだしてやったらどうですか。おれだって、いつ自分があんな事故にあうかわからないんじゃ、安心して派遣で働けないですよ」
『すまないが、その事故は正式な労災として記録されていないんだ。ぼくも青木さんのことは残念だと思う。でも、会社としては存在しない労災の申請はできないし、理由のない見舞金をだすこともできない。うちは支店ごとの売上ノルマが厳しくてね、このシステムは店長個人ではどうしようもないんだ。残念です』
自分をあざ笑うような調子だった。
「じゃあ、みんな使い捨てでおしまいなんですか。壊れたら機械の部品のようにポイですか。そういうのが、自己責任ですか。」
青臭いのはわかっていた。でも、いわずにはいられなかったのだ。おれの頭のなかには、タクシー代はだしてもらえるかといった青木の顔が浮かんでいる。
『きみの相手をずっとしてやれればいいとは思う。ぼくは大学で社会学を専攻していたからね。社会的な不正義や経済の格差には心が痛むよ。でも小学校にいく息子をもつ父親としては、会社には逆らえないし、非正規の派遣という働きかたは経済界全体が選んだ方法だ。ぼくひとりの力ではどうしようもないんだよ』
確かに谷岡店長のいうとおりだった。おれの力も、店長の力も、たとえばユニオンだって、世界をのみこむクローバルな波には逆らえないだろう。
『確か小鳥遊くんは、住所不定だったな』
「そうだけど」
店長の声は心の底から出ているように聞こえた。
『ご両親は健在なのか。家の人はうまくやっているか』
おれはお堅い親父のことを考えた。
「昨日からお世話になっています。I28356の小鳥遊です」
谷岡は疲れたように笑った。
『登録ナンバーは別にいいよ。なんの用かな。』
「現場責任者の木下さんから、事故の話しはきいてないですか。青木さんという人に重さ三十キロの小麦粉の袋が落ちたんですけど」
『ああ、報告は受けている』
とことん疲れた声だった。ほかにはどんな感情もないのだ。
「ああいうの、ほんとうは労災ですよね。どうして、倉庫会社もベターデイズもけが人を見殺しにしたんですか。自分の金をつかってタクシーで病院いけなんて、ひどい話じゃないですか。谷岡店長の息子さんがそんな目にあったら、どう思いますか」
店長はふーとため息をついた。
『うちの子はまだ小学一年生で、労災の心配はいらない。お願いだから、フリーターではなく、正社員になってくれとうだろうな』
正直な男だった。案外話せるやつかもしれない。
「じゃあ、青木さんにすこしは見舞金とかだしてやったらどうですか。おれだって、いつ自分があんな事故にあうかわからないんじゃ、安心して派遣で働けないですよ」
『すまないが、その事故は正式な労災として記録されていないんだ。ぼくも青木さんのことは残念だと思う。でも、会社としては存在しない労災の申請はできないし、理由のない見舞金をだすこともできない。うちは支店ごとの売上ノルマが厳しくてね、このシステムは店長個人ではどうしようもないんだ。残念です』
自分をあざ笑うような調子だった。
「じゃあ、みんな使い捨てでおしまいなんですか。壊れたら機械の部品のようにポイですか。そういうのが、自己責任ですか。」
青臭いのはわかっていた。でも、いわずにはいられなかったのだ。おれの頭のなかには、タクシー代はだしてもらえるかといった青木の顔が浮かんでいる。
『きみの相手をずっとしてやれればいいとは思う。ぼくは大学で社会学を専攻していたからね。社会的な不正義や経済の格差には心が痛むよ。でも小学校にいく息子をもつ父親としては、会社には逆らえないし、非正規の派遣という働きかたは経済界全体が選んだ方法だ。ぼくひとりの力ではどうしようもないんだよ』
確かに谷岡店長のいうとおりだった。おれの力も、店長の力も、たとえばユニオンだって、世界をのみこむクローバルな波には逆らえないだろう。
『確か小鳥遊くんは、住所不定だったな』
「そうだけど」
店長の声は心の底から出ているように聞こえた。
『ご両親は健在なのか。家の人はうまくやっているか』
おれはお堅い親父のことを考えた。