その日は、自宅にもどって着替えだけもち、すぐ外にでた。真桜は汗とほこりまみれのおれの姿に驚いていたようだが、そんなものはおれが一日で目撃した事実にくらべればなんでもない。

おれはばかでかいショルダーバックに荷物を詰めこんで、池袋の街にもどった。目的地は西口繁華街にあるネットカフェ、タートルズである。サトシから情報は仕入れてあった。その店ならベターデイズの登録カードを見せれば、一泊千円のナイトパックが二百円安くなるし、シャワーやパソコン、マッサージチェアなんかの設備も整っているという。

西一番街につくと、ゼブラの姿が向こう側の歩道に見えた。ファットなジーンズにやはりだぶだぶのトレーナーとスタジャン。残り三人のSウルフは影も形もわからなかった。きっとどこかにうまく隠れているのだろう。おれは軽くうなずいて、タートルズをめざした。

店のガラス扉には三時間パック、五時間パックの料金が書かれていた。まだナイトパックの始まる夜十時まではだいぶあったが、金のことはかまうことはない。おれはモエから一日七千円もらっていたし、今日の報酬七千五百円もある。ナイトパックを待たずに堂々とタートルズにのりこんだ。なにせ一刻も早く汗とほこりを落としたくてたまらなかったのだ。

これからしばらくは自宅にも茶屋にも帰らないつもりだった。おれも潜入捜査官のはしくれだし、襲撃犯にうちと店をしられるのが嫌だった。だが、そいつはとんでもない選択ミスだったのである。






おれがはいったブースは畳一畳半ほどの広さだった。周囲を合板でかこまれているが、肩の高さくらいまでしかないので、プライバシーは半分くらいしか守られなかった。つくりつけのデスクには、パソコンとテレビとDVDプレイヤーがずらりとならんでいる。合成皮革のリクライニングチェアはひじ掛けのところに、点々とタバコの穴が開いていた。以前ここをつかった誰かさんの悪意が感じられて、気分が悪くなる。たっぷりとまかれた消臭剤のにおいが逆に鼻についた。

自分のブースを点検すると、すぐにシャワーにむかった。こちらは意外と優秀。一時間三百円のコインシャワーなのだが、バスタオル、ひげそり、シェービングフォーム、石鹸、シャンプー、リンスとすべてついて、この値段なのだ。

おれは熱いシャワーのしたで、二度頭を洗い、何度もうがいをしながら身体を洗った。そうでもしなければ、とてもじゃないがダクトの粉塵を落とせなかったのだ。生き返った気分でブースにもどり、飲み放題のジュースをお代わりした。

さて、今度はまた明日の仕事を予約しなければならない。それにきちんとクレームもあげておかなくちゃな。