ー特別編ー非正規ワーカーズ
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「救急車を呼んだほうがいいと思う。こいつは骨までいっちまってるぞ」
おれが木下にそういうと、正社員がやつの耳元でなにかをささやいた。現場責任者はちいさな声でつぶやいた。
「弱ったなあ。ちょっと待って、ベターデイズに電話してきいてみるから」
そのあいだもガキはコンテナの床に倒れこみ、痛む足首を押さえてうめいているのだ。正社員は集まってなにか話していたけれど、こちらにはなにも教えてくれなかった。木下も池袋支店に電話したようだが、まるでラチはあかないようだった。おれは自分の携帯電話を抜いた。
「いいよ、おれが救急車を呼ぶ」
正社員が飛んできた。さっきクレーン車で週刊紙を読んでいた中年だ。
「待ってくれ、うちの敷地に救急車なんか呼んでもらったら困る。」
ほかのフリーターたちはぼうっと突っ立ったままだった。心配しているふうでもなく、抗議する気配もない。ただスイッチが切られているだけの感じだ。おれは叫んだ。
「ふざけるなよ。作業中の事故なんだから、労災に決まってるだろ!なあ、木下さん」
おれはようやく電話を終えた現場責任者に話を振った。責任者というのはその場でおきることに、責任をとる人間のことだ。普通は誰だって、そう思う。
だが、木下は信じられないことをいった。倒れているガキにこういったのだ。
「青木くん、悪いけど自分でタクシーをつかって病気にいってくれないか。今日の作業はもう終わりでいいから」
「どういうことなんだ」
おれがそういうと、木下は困った顔をした。
「労災の申請は面倒だし、得意先には迷惑はかけられないんだって。ベターデイズのほうは我慢してくれるといってる」
青木はなんとか立ち上がった。やつの台詞は切なかった。
「あの、病気までのタクシー代は出してもらえるんでしょうか」
木下は首を横に振った。タクシー代をだすというのは非が自分達にあると認めることだ。ベターデイズも倉庫会社も絶対にそんなことはしないだろう。おれは日雇い派遣の裏側にある真実が、ようやくわかってきた。
ここには誰ひとり責任をとる人間がいないのだ。すべての責任はつかい捨てにされるフリーターにある。無限の自己責任。おれは青木の腕を肩にのせて、やつを支えてやった。
「なあ、あんたは健康保険にはいってるのか」
青木は痛みで青白くなった顔を横に振る。おれはその場の全員に聞こえるように声を張った。
「これから、外の道路までこいつを送ってくる。そのあいだ作業はできないから、なんだったら、おれの日当から引いといてくれ。それでいいよな」
木下が気おされたように場所を空けた。正社員たちはなにもきかなかったようにけが人とおれを無視している。そのうちのひとりが叫んだ。
「さあ、仕事にもどるんだ」
午後の作業はなにごともなく再開された。
おれが木下にそういうと、正社員がやつの耳元でなにかをささやいた。現場責任者はちいさな声でつぶやいた。
「弱ったなあ。ちょっと待って、ベターデイズに電話してきいてみるから」
そのあいだもガキはコンテナの床に倒れこみ、痛む足首を押さえてうめいているのだ。正社員は集まってなにか話していたけれど、こちらにはなにも教えてくれなかった。木下も池袋支店に電話したようだが、まるでラチはあかないようだった。おれは自分の携帯電話を抜いた。
「いいよ、おれが救急車を呼ぶ」
正社員が飛んできた。さっきクレーン車で週刊紙を読んでいた中年だ。
「待ってくれ、うちの敷地に救急車なんか呼んでもらったら困る。」
ほかのフリーターたちはぼうっと突っ立ったままだった。心配しているふうでもなく、抗議する気配もない。ただスイッチが切られているだけの感じだ。おれは叫んだ。
「ふざけるなよ。作業中の事故なんだから、労災に決まってるだろ!なあ、木下さん」
おれはようやく電話を終えた現場責任者に話を振った。責任者というのはその場でおきることに、責任をとる人間のことだ。普通は誰だって、そう思う。
だが、木下は信じられないことをいった。倒れているガキにこういったのだ。
「青木くん、悪いけど自分でタクシーをつかって病気にいってくれないか。今日の作業はもう終わりでいいから」
「どういうことなんだ」
おれがそういうと、木下は困った顔をした。
「労災の申請は面倒だし、得意先には迷惑はかけられないんだって。ベターデイズのほうは我慢してくれるといってる」
青木はなんとか立ち上がった。やつの台詞は切なかった。
「あの、病気までのタクシー代は出してもらえるんでしょうか」
木下は首を横に振った。タクシー代をだすというのは非が自分達にあると認めることだ。ベターデイズも倉庫会社も絶対にそんなことはしないだろう。おれは日雇い派遣の裏側にある真実が、ようやくわかってきた。
ここには誰ひとり責任をとる人間がいないのだ。すべての責任はつかい捨てにされるフリーターにある。無限の自己責任。おれは青木の腕を肩にのせて、やつを支えてやった。
「なあ、あんたは健康保険にはいってるのか」
青木は痛みで青白くなった顔を横に振る。おれはその場の全員に聞こえるように声を張った。
「これから、外の道路までこいつを送ってくる。そのあいだ作業はできないから、なんだったら、おれの日当から引いといてくれ。それでいいよな」
木下が気おされたように場所を空けた。正社員たちはなにもきかなかったようにけが人とおれを無視している。そのうちのひとりが叫んだ。
「さあ、仕事にもどるんだ」
午後の作業はなにごともなく再開された。