ー特別編ー非正規ワーカーズ
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バスは朝焼けの高速を走って、豊洲の倉庫に到着した。時刻はまだ七時で、一時間もまえに現場についてしまった。おれたちはバスのなかで待機した。終始無言。誰かのポータブルゲーム機やiPodの電子音がきこえるだけだった。始業時間の三十分まえになると、現場責任者がいった。
「そろそろ準備しまーす。」
返事はない。日雇い派遣では横のつながりもない。誰もがその日初めて顔をあわせる人間なのだ。モエがいっていた砂のような働き手というのは正確な表現なのだった。
おれたち作業ズボン(おれはツナギ)の十二人は、新幹線も楽にはいりそうな倉庫に移動した。暖房はないので寒々としている。
コンテナのならぶ倉庫のなかに制服姿の男が四人たっていた。胸に見たことのないマークが刺繍されているから、きっと倉庫会社の人間なのだろう。木下がよろしくおねがいしますといった。残りのガキが元気のない声をあわせて、同じ挨拶を繰り返す。
「はい、よろしく。今日みなさんにやってもらう作業は、倉庫内のダクトの清掃と小麦粉の積み替えです。清掃のほうはあの高所作業台のうえにのって、ダクトのうえに積もったほこりをブラシで落としてもらいます。積み替えはコンテナから袋をだして、そちらのちいさなパレットのほうにのせてもらいます。じゃあ、あなたとあなたとあなたとあなた」
倉庫会社の男は適当に四人指差した。おれもそのなかにはいっている。自己紹介をしないのは、そんなことをしても意味がないからなのだろう。明日もけの現場にくるかは、誰もわからないのだ。
「ダクトの清掃をおねがいします」
長い柄のついたブラシとヘルメットをわたされた。高所作業台といっても、建設現場によくあるようなアルミパイプと足場でつくられた雑なものだった。移動させやすいように脚はキャスターになっている。台のうえには手すりもついていなかった。
そのとなりにはぴかぴかのクレーン車。ブームの先にはバスケットがついている。倉庫会社の男はそちらのほうに折りたたみの椅子と週刊紙をもってのりこんだ。残りの正社員さまは、腕を組んで倉庫に散らばった。指名されたおれたち四人は、台車の横についたはしごをのぼっていく。
ダクトのうえには分厚いスエードのように密なほこりがたまっていた。ブラシで掃除すると雲のようなかたまりが、白い粉塵を撒き散らしながら落ちてくる。
おれにはゴーグルはなかった。口と鼻をおおうのは、風邪用のガーゼマスクだけ。倉庫会社の社員はクレーンの先についたバスケットのなかで椅子に座り、週刊紙を読み始めた。こちらはしっかりとゴーグルをして、防塵マスクをつけている。
それから三十分ほどの作業で、おれの目は真っ赤になったし、いくら鼻をかんでもくしゃみがとまらなくなった。ダクトは倉庫内を縦横に走っているのだ。いくら作業してめ終わりが見えない。
おれは初めてサトシがいった「うえの階級の人」という言葉を理解した。日雇い派遣の現場では、正社員さまは実際に上層階級に所属している。
「そろそろ準備しまーす。」
返事はない。日雇い派遣では横のつながりもない。誰もがその日初めて顔をあわせる人間なのだ。モエがいっていた砂のような働き手というのは正確な表現なのだった。
おれたち作業ズボン(おれはツナギ)の十二人は、新幹線も楽にはいりそうな倉庫に移動した。暖房はないので寒々としている。
コンテナのならぶ倉庫のなかに制服姿の男が四人たっていた。胸に見たことのないマークが刺繍されているから、きっと倉庫会社の人間なのだろう。木下がよろしくおねがいしますといった。残りのガキが元気のない声をあわせて、同じ挨拶を繰り返す。
「はい、よろしく。今日みなさんにやってもらう作業は、倉庫内のダクトの清掃と小麦粉の積み替えです。清掃のほうはあの高所作業台のうえにのって、ダクトのうえに積もったほこりをブラシで落としてもらいます。積み替えはコンテナから袋をだして、そちらのちいさなパレットのほうにのせてもらいます。じゃあ、あなたとあなたとあなたとあなた」
倉庫会社の男は適当に四人指差した。おれもそのなかにはいっている。自己紹介をしないのは、そんなことをしても意味がないからなのだろう。明日もけの現場にくるかは、誰もわからないのだ。
「ダクトの清掃をおねがいします」
長い柄のついたブラシとヘルメットをわたされた。高所作業台といっても、建設現場によくあるようなアルミパイプと足場でつくられた雑なものだった。移動させやすいように脚はキャスターになっている。台のうえには手すりもついていなかった。
そのとなりにはぴかぴかのクレーン車。ブームの先にはバスケットがついている。倉庫会社の男はそちらのほうに折りたたみの椅子と週刊紙をもってのりこんだ。残りの正社員さまは、腕を組んで倉庫に散らばった。指名されたおれたち四人は、台車の横についたはしごをのぼっていく。
ダクトのうえには分厚いスエードのように密なほこりがたまっていた。ブラシで掃除すると雲のようなかたまりが、白い粉塵を撒き散らしながら落ちてくる。
おれにはゴーグルはなかった。口と鼻をおおうのは、風邪用のガーゼマスクだけ。倉庫会社の社員はクレーンの先についたバスケットのなかで椅子に座り、週刊紙を読み始めた。こちらはしっかりとゴーグルをして、防塵マスクをつけている。
それから三十分ほどの作業で、おれの目は真っ赤になったし、いくら鼻をかんでもくしゃみがとまらなくなった。ダクトは倉庫内を縦横に走っているのだ。いくら作業してめ終わりが見えない。
おれは初めてサトシがいった「うえの階級の人」という言葉を理解した。日雇い派遣の現場では、正社員さまは実際に上層階級に所属している。