ー特別編ー非正規ワーカーズ
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「わかったよ。退院は止めないから、話だけ聞かせてくれないか。晩飯、好きなものをおごるから。まだナイトパックが始まる十時までは時間があるだろ。」
男はむずかしい顔をした。
「ほんとになんでも好きなものでいいのか」
おれはモエの顔を見た。あいにくおれの財布のなかにも、わずかなもち金しかない。銀座の高級寿司屋といわれたらどうしようかとびびっていたのだ。メイド服のユニオン代表がいった。
「わかりました。うちの組合の経費でごちそうします」
血まみれのトレーナーを着た非正規雇用のワンコールワーカーは、初めてうれしそうな顔をした。
「じゃあ、焼き肉で」
指定どおりに焼き肉のチェーン店にいくことにした。さすがにそのままの格好では店にはいれないので、永田がつかっているという池袋駅東口のコインロッカーに、ジープで寄った。
やつは昼間の女の子のように、あたりまえのように路上で着替えた。ストリートが脱衣場なのだ。難民生活は厳しい。グリーン大通りにある焼肉チェーンにはいると、おおよろこびで注文する。
「上カルビと塩ハラミとタン塩、三人前ずつ。あと生ビー……」
おれの視線に気づいたのだろう。骨にひびがはいった当日にさすがにアルコールはまずい。やつは注文しなおした。
「ウーロン茶で」
おれはいった。
「じゃあ、ウーロンをみっつ」
メニューに目をやった。この店では、ハラミもカルビも五百円以下である。さすがにデフレ社会で成長する焼肉屋は低価格だった。
「で、いつ襲われたんだ、永田さん」
「ああ、その話か。朝からまったくついてない日ってあるよな」
永田は焼き網に視線を落として、ぼんやりした顔で語り始めた。
「今朝は駒込で仕事があるとメールがはいった。なんでもパチンコ屋の改装の手伝いだった。朝、八時集合だ。で、池袋のタートルズから、おれはまっすぐにむかったんだ。だけど到着してみると、もう人手は足りているといわれた」
「へえ、日雇い派遣にもキャンセルなんかあるんだ」
いまいましそうに永田はいう。
「ああ、しかも空振りだって交通費は自分もちだ。それで、すぐにベターデイズの池袋支店に電話して、他の仕事がないかきいたんだ。すると、所沢で引っ越し作業があるといわれた。そっちは好都合なことに、昼スタートだという」
「そうか、よかったな」
モエはまるで表情を変えずに、正面をむいているだけだった。どうやら永田のついてない一日についてもうしっているようだ。
「よくなんかないさ。所沢のほうもいってみれば、手はあまっていたんだからな。駒込と所沢のいきかえりで、あわせて交通費が二千円以上飛んだんだぞ。仕事もないのに、最悪だ。」
普通はアルバイトでも交通費くらいはでるものだと、それまでおれは思っていた。モエのほうを見ると、冷静沈着なメイドは首を横に振った。
男はむずかしい顔をした。
「ほんとになんでも好きなものでいいのか」
おれはモエの顔を見た。あいにくおれの財布のなかにも、わずかなもち金しかない。銀座の高級寿司屋といわれたらどうしようかとびびっていたのだ。メイド服のユニオン代表がいった。
「わかりました。うちの組合の経費でごちそうします」
血まみれのトレーナーを着た非正規雇用のワンコールワーカーは、初めてうれしそうな顔をした。
「じゃあ、焼き肉で」
指定どおりに焼き肉のチェーン店にいくことにした。さすがにそのままの格好では店にはいれないので、永田がつかっているという池袋駅東口のコインロッカーに、ジープで寄った。
やつは昼間の女の子のように、あたりまえのように路上で着替えた。ストリートが脱衣場なのだ。難民生活は厳しい。グリーン大通りにある焼肉チェーンにはいると、おおよろこびで注文する。
「上カルビと塩ハラミとタン塩、三人前ずつ。あと生ビー……」
おれの視線に気づいたのだろう。骨にひびがはいった当日にさすがにアルコールはまずい。やつは注文しなおした。
「ウーロン茶で」
おれはいった。
「じゃあ、ウーロンをみっつ」
メニューに目をやった。この店では、ハラミもカルビも五百円以下である。さすがにデフレ社会で成長する焼肉屋は低価格だった。
「で、いつ襲われたんだ、永田さん」
「ああ、その話か。朝からまったくついてない日ってあるよな」
永田は焼き網に視線を落として、ぼんやりした顔で語り始めた。
「今朝は駒込で仕事があるとメールがはいった。なんでもパチンコ屋の改装の手伝いだった。朝、八時集合だ。で、池袋のタートルズから、おれはまっすぐにむかったんだ。だけど到着してみると、もう人手は足りているといわれた」
「へえ、日雇い派遣にもキャンセルなんかあるんだ」
いまいましそうに永田はいう。
「ああ、しかも空振りだって交通費は自分もちだ。それで、すぐにベターデイズの池袋支店に電話して、他の仕事がないかきいたんだ。すると、所沢で引っ越し作業があるといわれた。そっちは好都合なことに、昼スタートだという」
「そうか、よかったな」
モエはまるで表情を変えずに、正面をむいているだけだった。どうやら永田のついてない一日についてもうしっているようだ。
「よくなんかないさ。所沢のほうもいってみれば、手はあまっていたんだからな。駒込と所沢のいきかえりで、あわせて交通費が二千円以上飛んだんだぞ。仕事もないのに、最悪だ。」
普通はアルバイトでも交通費くらいはでるものだと、それまでおれは思っていた。モエのほうを見ると、冷静沈着なメイドは首を横に振った。