ー特別編ー非正規ワーカーズ
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西巣鴨に着いたとき、気の早い冬の日はあっさりかたむいていた。駅の近くの商店街には夕食の買い物の主婦に混じって、たくさんの若いガキがうろついていた。
サトシのようなワーキングプアとしりあって、おれの街を見る目は変わってしまった。西巣鴨みたいな普通の住宅街でも、ナイトパックの開始を待って時間をつぶしているガキがいるのではないか。そんなことが気になってしかたなかったのだ。
病院の駐車場はいっぱいだったので、近くのコインパーキングにジープをとめた。おれたちの周囲にあるビジネスは、すべて無人のコイン化を完了させていくようだ。
おれはモエに教えられた病室を目指した。廊下には病院の早い晩飯のにおいが流れている。603号室。廊下に張り出されたプレートを読んで、襲撃されたガキが入院している部屋に足を踏み入れた。四つのベッドに患者が三人。おれが病室の全体を目に治めると同時に、手前のベッドをかこむカーテンのなかからモエの声が聞こえた。
「ちょっと待って、永田さん。お医者さんにも、今夜は様子を見るために泊まったほうがいいっていわれたでしょう」
おれは天井のレールからさがったオフホワイトのカーテンをそっと開けた。
「あの、お取り込み中のところ、ちょっといいかな。話をききにきたんだけど」
ベッドのうえではやけに細い男が身体を起こし、病院の寝巻きを脱いでいるところだった。髪は長髪をうしろで束ねている。黒いメイド服のモエが振り向いた。
「悠さん、お願い、永田さんを説得して。肋骨にひびがはいってるし、頭を強打してるのに、病院をでるってきかないの」
やせ細ったガキはおれのほうを見なかった。二十代なかばだろうか。サトシと同じ自分の存在を殺しているような雰囲気がある。男が怒ったようにいった。
「ユニオンなんかとかかわったのが間違いだった。」
そういうと血のついたトレーナーをかぶった。
「アバラにひびがはいってるのに、これからどこいくんだ」
男はベッドからにらみつけてくる。
「ネットカフェ。今夜の寝場所を確保しなくちゃいけない」
「どうして今夜ひと晩だけでも、この病院に泊まらないんだ」
やつは顔を伏せて、はずかしそうにいった。
「金がないんだ。おれは健康保険にもはいってないし、今回の治療代だって払えるかわからない。働かなかったら、ホームレスになっちまうんだぞ。どうせ肋骨のひびなんて、自然に直るんだろ。もう俺のことは放っておいてくれ。東京フリーターズユニオンも今日で抜けることにする。」
男はトレーナーのうえから安物のダウンジャケットを着て、胸についた血の跡を隠した。額の横に貼ってある業務用のでかいバンソウコウには淡く血がにじんでいる。なんの落ち度もない襲撃された側が、こそこそと病院から尻尾を巻いて逃げていく。
それも健康保険に未加入だから。豊かな国というのは、素晴らしいものだ。
サトシのようなワーキングプアとしりあって、おれの街を見る目は変わってしまった。西巣鴨みたいな普通の住宅街でも、ナイトパックの開始を待って時間をつぶしているガキがいるのではないか。そんなことが気になってしかたなかったのだ。
病院の駐車場はいっぱいだったので、近くのコインパーキングにジープをとめた。おれたちの周囲にあるビジネスは、すべて無人のコイン化を完了させていくようだ。
おれはモエに教えられた病室を目指した。廊下には病院の早い晩飯のにおいが流れている。603号室。廊下に張り出されたプレートを読んで、襲撃されたガキが入院している部屋に足を踏み入れた。四つのベッドに患者が三人。おれが病室の全体を目に治めると同時に、手前のベッドをかこむカーテンのなかからモエの声が聞こえた。
「ちょっと待って、永田さん。お医者さんにも、今夜は様子を見るために泊まったほうがいいっていわれたでしょう」
おれは天井のレールからさがったオフホワイトのカーテンをそっと開けた。
「あの、お取り込み中のところ、ちょっといいかな。話をききにきたんだけど」
ベッドのうえではやけに細い男が身体を起こし、病院の寝巻きを脱いでいるところだった。髪は長髪をうしろで束ねている。黒いメイド服のモエが振り向いた。
「悠さん、お願い、永田さんを説得して。肋骨にひびがはいってるし、頭を強打してるのに、病院をでるってきかないの」
やせ細ったガキはおれのほうを見なかった。二十代なかばだろうか。サトシと同じ自分の存在を殺しているような雰囲気がある。男が怒ったようにいった。
「ユニオンなんかとかかわったのが間違いだった。」
そういうと血のついたトレーナーをかぶった。
「アバラにひびがはいってるのに、これからどこいくんだ」
男はベッドからにらみつけてくる。
「ネットカフェ。今夜の寝場所を確保しなくちゃいけない」
「どうして今夜ひと晩だけでも、この病院に泊まらないんだ」
やつは顔を伏せて、はずかしそうにいった。
「金がないんだ。おれは健康保険にもはいってないし、今回の治療代だって払えるかわからない。働かなかったら、ホームレスになっちまうんだぞ。どうせ肋骨のひびなんて、自然に直るんだろ。もう俺のことは放っておいてくれ。東京フリーターズユニオンも今日で抜けることにする。」
男はトレーナーのうえから安物のダウンジャケットを着て、胸についた血の跡を隠した。額の横に貼ってある業務用のでかいバンソウコウには淡く血がにじんでいる。なんの落ち度もない襲撃された側が、こそこそと病院から尻尾を巻いて逃げていく。
それも健康保険に未加入だから。豊かな国というのは、素晴らしいものだ。