ー特別編ー非正規ワーカーズ
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「サトシは誰かに恨まれていたってこと、ないのかな」
モエが怒ったような顔をして、おれをにらんだ。そろそろクルマは大塚駅に着く。
「あるわね。でも、その相手はすごくおおきくて、とても手に終えるような相手じゃない。わたしたちのユニオンはまだ二十人くらいのちいさな組織だけど、むこうは年商五千億円の大企業だから。政府も経済界も全部むこうの味方だし」
春日通りにならんだビルのうえにあのスカイブルーの看板が見えた。
見慣れたベターデイズの右肩上がりの英文ロゴが描かれている。おれはあごをしゃくって、屋上看板を示した。
「敵はあいつらなのか」
モエは憎しみの目で、人材派遣最大手の看板をみあげた。
「きっとそうだと思う。今わたしたちのユニオンで、インフォメーション費の返還を求めてきてるから」
またきいたことのない言葉だった。
「なんだ、それ」
モエはうんざりした顔をした。
「わたしたちにもわからない」
「なんか、あんたと話してると、いちいち謎解きみたいになるな」
メイド服の組合代表は、おれをあわれむような目で見た。
「そうね。小鳥遊さんの世界みたいにすべてが単純だったら、こんなふうな話し方をしなくてもいいんだけど。インフォメーション費は、日雇い派遣の給与から毎回二百円ずつ引かれてるの。この費用の意味がわからなくて、うちのユニオンでは質問状を出したんだけど、ベターデイズのこたえは毎回ころころ変わるんだ。緊急時の通信用の予備費だということもあるし、安全用の保安グッズだということもあったし、労働災害にそなえた保険だという支部もあった。でも、実態がまるでわからないお金なの。」
おれは経済にはうとい。つい口を滑らせた。
「だけど、たった二百円だろ」
モエはにやりと皮肉に笑った。
「そうね。たった二百円ね。でも、十万人を派遣したら、一日に二千万円になる」
単純な算数だが、インパクトのある数字だった。
「わたしたちのユニオンでは、用途不明のこの費用を返還するように訴訟を起こしている。柴山さんはその訴訟団のひとりだった。メンバーのなかで襲われたのは、これで三人目なんだ」
だんだんと全体の絵が見えてきた。おれは大塚駅をすぎて、福祉施設のある南大塚に向かった。ハンドルを右にきりながらいった。
「襲ったのが誰か証拠はない。ベターデイズが怪しくても、警察だってお手上げ。お先は真っ暗ってわけか」
なんだか二十世紀初頭のアメリカの労働問題のようだった。おれの好きなフォークソングには、そんな歌詞がたくさん残っている。
モエが怒ったような顔をして、おれをにらんだ。そろそろクルマは大塚駅に着く。
「あるわね。でも、その相手はすごくおおきくて、とても手に終えるような相手じゃない。わたしたちのユニオンはまだ二十人くらいのちいさな組織だけど、むこうは年商五千億円の大企業だから。政府も経済界も全部むこうの味方だし」
春日通りにならんだビルのうえにあのスカイブルーの看板が見えた。
見慣れたベターデイズの右肩上がりの英文ロゴが描かれている。おれはあごをしゃくって、屋上看板を示した。
「敵はあいつらなのか」
モエは憎しみの目で、人材派遣最大手の看板をみあげた。
「きっとそうだと思う。今わたしたちのユニオンで、インフォメーション費の返還を求めてきてるから」
またきいたことのない言葉だった。
「なんだ、それ」
モエはうんざりした顔をした。
「わたしたちにもわからない」
「なんか、あんたと話してると、いちいち謎解きみたいになるな」
メイド服の組合代表は、おれをあわれむような目で見た。
「そうね。小鳥遊さんの世界みたいにすべてが単純だったら、こんなふうな話し方をしなくてもいいんだけど。インフォメーション費は、日雇い派遣の給与から毎回二百円ずつ引かれてるの。この費用の意味がわからなくて、うちのユニオンでは質問状を出したんだけど、ベターデイズのこたえは毎回ころころ変わるんだ。緊急時の通信用の予備費だということもあるし、安全用の保安グッズだということもあったし、労働災害にそなえた保険だという支部もあった。でも、実態がまるでわからないお金なの。」
おれは経済にはうとい。つい口を滑らせた。
「だけど、たった二百円だろ」
モエはにやりと皮肉に笑った。
「そうね。たった二百円ね。でも、十万人を派遣したら、一日に二千万円になる」
単純な算数だが、インパクトのある数字だった。
「わたしたちのユニオンでは、用途不明のこの費用を返還するように訴訟を起こしている。柴山さんはその訴訟団のひとりだった。メンバーのなかで襲われたのは、これで三人目なんだ」
だんだんと全体の絵が見えてきた。おれは大塚駅をすぎて、福祉施設のある南大塚に向かった。ハンドルを右にきりながらいった。
「襲ったのが誰か証拠はない。ベターデイズが怪しくても、警察だってお手上げ。お先は真っ暗ってわけか」
なんだか二十世紀初頭のアメリカの労働問題のようだった。おれの好きなフォークソングには、そんな歌詞がたくさん残っている。