ー特別編ー非正規ワーカーズ
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「このコルセットをしないとたっていられないんだ。」
「腰はずっと痛むのか」
非正規雇用のフリーターは顔をしかめた。
「うん、一日中立ち仕事や引っ越しにあたると、ほんとにガッカリするよ」
「でも、おまえは働かないといけない」
サトシの顔が引き締まった。
「そうしなくちゃ、ぼくは明日にでもホームレスになってしまう。それだけは嫌だから。」
住所不定で、ネットカフェを転々として、コインロッカーを押し入れ代わりにつかう。それはもう立派なホームレスなんじゃないかと、おれにはいえなかった。
一回分のコラムのネタとしてはもう十分だろう。
最後におれは聞いた。
「サトシの夢はなんなんだ。」
やつは疲れた顔を上気させた。コーヒーカップの底にどろどろにたまった砂糖をのむ。
「たくさんあってわかんないよ。でも、一番の夢は夜、脚を伸ばして寝ることかな」
おれはあっけにとられて、メモをとるのを忘れてしまった。
クルマをのりまわしたり、かわいい娘とデートしたり、いい仕事をすることじゃない。
おれと変わらない年の腰を痛めたガキの夢は、ネットカフェのリクライニングチェアでなく、脚を伸ばして布団で寝ることなのだ。
「あとは医者にいくのも夢かな。悠さんは健康保険証はもってるよね」
「ああ、あたりまえだろ」
サトシはうらやましそうにいった。
「やっぱりうえの階級の人は違うな」
おれはただの学生にすぎない。池袋の街や新宿でくだらないトラブルに首までつかって、どこがうえの階級なんだろうか。
「ぼくたちみたいな非正規のフリーターでは、健康保険にはいっている人は少数派だよ。みんな冬は風邪を引くのが一番怖いんだ。医者にもいけないし、日雇いの仕事にもでられなくなるから、ほんの三日四日で一文無しのホームレスになる」
そうだったのか。おれはなにも見ていなかった。
おれたちの街にもぎりぎりの生活をしているガキが無数にいたのだ。
やつらはひと言も文句をいわないし、黙って格差のどん底に落ちていくから、気づかなかったのである。
「おい、サトシ、おまえ、ほんとに困ったら、おれに電話するんだぞ。このコラムは二回に分けて書くからな。ちゃんと連絡しろよ」
そこで、おれたちは携帯の番号とアドレスを交換した。ネット時代の大切な自己紹介である。おかしなものだ。
こうして顔をあわせるよりも、情報のほうが優位なんだからな。おれたちはみん逆立ちして歩いている。
バカらしいがしかたない。それが来るべき新世界なのだ。
「腰はずっと痛むのか」
非正規雇用のフリーターは顔をしかめた。
「うん、一日中立ち仕事や引っ越しにあたると、ほんとにガッカリするよ」
「でも、おまえは働かないといけない」
サトシの顔が引き締まった。
「そうしなくちゃ、ぼくは明日にでもホームレスになってしまう。それだけは嫌だから。」
住所不定で、ネットカフェを転々として、コインロッカーを押し入れ代わりにつかう。それはもう立派なホームレスなんじゃないかと、おれにはいえなかった。
一回分のコラムのネタとしてはもう十分だろう。
最後におれは聞いた。
「サトシの夢はなんなんだ。」
やつは疲れた顔を上気させた。コーヒーカップの底にどろどろにたまった砂糖をのむ。
「たくさんあってわかんないよ。でも、一番の夢は夜、脚を伸ばして寝ることかな」
おれはあっけにとられて、メモをとるのを忘れてしまった。
クルマをのりまわしたり、かわいい娘とデートしたり、いい仕事をすることじゃない。
おれと変わらない年の腰を痛めたガキの夢は、ネットカフェのリクライニングチェアでなく、脚を伸ばして布団で寝ることなのだ。
「あとは医者にいくのも夢かな。悠さんは健康保険証はもってるよね」
「ああ、あたりまえだろ」
サトシはうらやましそうにいった。
「やっぱりうえの階級の人は違うな」
おれはただの学生にすぎない。池袋の街や新宿でくだらないトラブルに首までつかって、どこがうえの階級なんだろうか。
「ぼくたちみたいな非正規のフリーターでは、健康保険にはいっている人は少数派だよ。みんな冬は風邪を引くのが一番怖いんだ。医者にもいけないし、日雇いの仕事にもでられなくなるから、ほんの三日四日で一文無しのホームレスになる」
そうだったのか。おれはなにも見ていなかった。
おれたちの街にもぎりぎりの生活をしているガキが無数にいたのだ。
やつらはひと言も文句をいわないし、黙って格差のどん底に落ちていくから、気づかなかったのである。
「おい、サトシ、おまえ、ほんとに困ったら、おれに電話するんだぞ。このコラムは二回に分けて書くからな。ちゃんと連絡しろよ」
そこで、おれたちは携帯の番号とアドレスを交換した。ネット時代の大切な自己紹介である。おかしなものだ。
こうして顔をあわせるよりも、情報のほうが優位なんだからな。おれたちはみん逆立ちして歩いている。
バカらしいがしかたない。それが来るべき新世界なのだ。