ー特別編ー非正規ワーカーズ
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おれは生まれて初めて、ほんとうの意味で貧しい人間を目の前にしていた。
「だったら、金はどうやって稼いでんだ」
サトシは瞬時に営業用の笑顔になった。
「力仕事でも、サービス業でも、ちょっと危ない仕事でも、なんでもやるよ。実際には次の日なにをするかは、メールがくるまではぜんぜんわかんないんだけど。だから身なりには気をつけて、いつも清潔にしておかないといけないんだ。バイト先からクレームがつくと、ベターデイズからほらされちゃうから」
ベターデイズはこの五年ほどで急成長した人材派遣会社の最大手だった。
確か年商は五千億を少々超えるくらい。
社長の亀井寿治は六本木ヒルズのレジデンス棟に住み、ロールスロイスとフェラーリをのりまわし、自家用ジェット機をもっている。
なぜ、おれがそんなに詳しいかというと、最近の嫌味な成金紹介番組(ほんとうにああいう下品なプログラムが増えたよな!)っうんざりするほど見せつけられたのだ。
「ベターデイズの社長って、あのヒゲの、やけに額の広いおっさんだよな」
「そうです。もうかってるのは、あたりまえだと思うけど」
サトシの声はあきらかに沈んでいる。
派遣業で働くサトシは自分のアパートもなく、その会社の社長は必要もない自家用ジェットをもっている。
格差というには、あまりにバカらしいコメディだった。なにせベターデイズは日本のドメスティック企業もいいところ。
商談のために社長が海外にいくとは到底思えない。
サトシはくやしそうにいった。
「ぼくのところにはいる日払いのお金は六千五百円から七千円くらいなんだ。でも、ベターデイズはそれを一万千円から二千円で請け負っている。仕事をメールで紹介するだけで、四割近くを天引きするんだから。もうかるのはあたりまえだよね」
今度は心底仰天した。
おれだって一応は商売をやってるから、すこしはそっちの世界には詳しい。
おれは小売業で四割の利益がでる業種を考えてみた。宝石屋とか、高級なブランドショップとか、化粧品とか。その程度しかおもいつかない。
人材派遣業は圧倒的な高収益構造らしい。
「ふーん、そいつはひどい話だな。」
だが、おれは甘かった。
なにせ、サトシの話しは地獄の第一層にすぎなかったんだから。
おれはメモをとりながらいった。
「おまえ、ずっと身体をななめにしてるけど。いったい、どうしたんだ」
サトシは上目使いでいった。
「やっぱり気づいた」
あんなふうに足を軽く引きずり、背中を曲げて歩いていれば、誰にだってわかるだろう。
「昔、事務所の移転のバイトがあったんだ。おおきなコピープリンター複合機を四階まで、ひとりで運ばされた。ものすごくきつかったよ。エレベーターはないし、機械はぼくの体重より重いし。一段ずつあげていくうちに、腰をやっちゃったんだ」
そういうとサトシは安もののトレーナーのわき腹をたたいた。こつこつと音がする。
トレーナーをまくると、白いプラスチックの板が見えた。言葉もない。
「だったら、金はどうやって稼いでんだ」
サトシは瞬時に営業用の笑顔になった。
「力仕事でも、サービス業でも、ちょっと危ない仕事でも、なんでもやるよ。実際には次の日なにをするかは、メールがくるまではぜんぜんわかんないんだけど。だから身なりには気をつけて、いつも清潔にしておかないといけないんだ。バイト先からクレームがつくと、ベターデイズからほらされちゃうから」
ベターデイズはこの五年ほどで急成長した人材派遣会社の最大手だった。
確か年商は五千億を少々超えるくらい。
社長の亀井寿治は六本木ヒルズのレジデンス棟に住み、ロールスロイスとフェラーリをのりまわし、自家用ジェット機をもっている。
なぜ、おれがそんなに詳しいかというと、最近の嫌味な成金紹介番組(ほんとうにああいう下品なプログラムが増えたよな!)っうんざりするほど見せつけられたのだ。
「ベターデイズの社長って、あのヒゲの、やけに額の広いおっさんだよな」
「そうです。もうかってるのは、あたりまえだと思うけど」
サトシの声はあきらかに沈んでいる。
派遣業で働くサトシは自分のアパートもなく、その会社の社長は必要もない自家用ジェットをもっている。
格差というには、あまりにバカらしいコメディだった。なにせベターデイズは日本のドメスティック企業もいいところ。
商談のために社長が海外にいくとは到底思えない。
サトシはくやしそうにいった。
「ぼくのところにはいる日払いのお金は六千五百円から七千円くらいなんだ。でも、ベターデイズはそれを一万千円から二千円で請け負っている。仕事をメールで紹介するだけで、四割近くを天引きするんだから。もうかるのはあたりまえだよね」
今度は心底仰天した。
おれだって一応は商売をやってるから、すこしはそっちの世界には詳しい。
おれは小売業で四割の利益がでる業種を考えてみた。宝石屋とか、高級なブランドショップとか、化粧品とか。その程度しかおもいつかない。
人材派遣業は圧倒的な高収益構造らしい。
「ふーん、そいつはひどい話だな。」
だが、おれは甘かった。
なにせ、サトシの話しは地獄の第一層にすぎなかったんだから。
おれはメモをとりながらいった。
「おまえ、ずっと身体をななめにしてるけど。いったい、どうしたんだ」
サトシは上目使いでいった。
「やっぱり気づいた」
あんなふうに足を軽く引きずり、背中を曲げて歩いていれば、誰にだってわかるだろう。
「昔、事務所の移転のバイトがあったんだ。おおきなコピープリンター複合機を四階まで、ひとりで運ばされた。ものすごくきつかったよ。エレベーターはないし、機械はぼくの体重より重いし。一段ずつあげていくうちに、腰をやっちゃったんだ」
そういうとサトシは安もののトレーナーのわき腹をたたいた。こつこつと音がする。
トレーナーをまくると、白いプラスチックの板が見えた。言葉もない。