ー特別編ー非正規ワーカーズ
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ショーウインドウにならぶろう細工のサンプルを見ている。コーヒー450円、ホットケーキ500円、パスタのセットは950円。
「どうしたんだ」
やつはききとりにくいほどちいさな声でいたた。
「ここにはいったら、今夜は外で寝なければいけなくなる。お金がないんです」
やつは真顔だった。
今度驚くのはこっちのほうだ。
「わかった。おれがおごるから、いこう。」
カフェにはいり、ガラスの巨大な三角屋根が見おろせる窓際に座った。
やつは柴山慧(しばやまさとし)と自己紹介して、届いたブレンドに山盛り三杯のグラニュー糖をいれた。
よくかき混ぜて、ひと口すする。
「熱くて、うまいです。さっきのバナナとこれで、一食得しました。ちゃんとしたカフェでコーヒーのむなんて、こんな贅沢久しぶりだなあ」
おれより少しうえくらいのガキが喫茶店のコーヒー一杯で、それほどよろこんでいる。おれたちの国はいつからそんなに貧しくなったんだろうか。
「サトシ、さっきから金がないってばかりいってるけど、おまえ、どこに住んでるんだ。家くらいあるんだろ」
「ちいさなブースならあるけど、家も自分の部屋もないよ。夜はネットカフェのナイトパックだから。でも、地方からでてきたフリーターは、みんなぼくと似たような生活してる」
東京に実家がある人間には、想像もできない話。
いよいよ面白くなってきた。おるはガラステーブルのうえにちいさな手帳を広げ、メモをとりはじめた。
「じゃあ、生活用品とかはどうしてるんだ?」
サトシは足元の黒いバッグを指さした。
「最低限のものは、そこにはいってる。でも、どうしても捨てられないやつは、コインロッカーのなかだよ」
コインロッカーがタンス代わりなのだ。びっくり。
「どんなものをいれてるのかな」
サトシは遠い目で、芸術劇場のガラス屋根を見つめた。灰色にくすんで、たくさん冬のハトが身体を丸めている。
「中学の卒業証書とか、女の子にもらったラヴレターとか、写真のアルバムとか、大好きなCDや本とか。あとは着替えなんかかな。悠さんだって、どうしても捨てられないものってあるでしょう」
誰にだって過去はある。過去と繋がっている捨てられないものもある。
そうした思い出を断ち切ったら、おれたちはおれたちでいられなくなるのだ。
うなずくと、やつは厳しい顔でいった。
「そういう思いでの品を手元においておくために、毎日ロッカー代が三百円もかかっちゃうのは、すごく痛いんだけど。でも、ああいう荷物を捨ててしまったら、ぼくはほんとうのホームレスになってしまう気がして」
サトシはうつむいて、べたべたに甘いコーヒーをのんだ。やつにしたら、こいつはただのお茶じゃなく、栄養補給の手段なのだろう。
「どうしたんだ」
やつはききとりにくいほどちいさな声でいたた。
「ここにはいったら、今夜は外で寝なければいけなくなる。お金がないんです」
やつは真顔だった。
今度驚くのはこっちのほうだ。
「わかった。おれがおごるから、いこう。」
カフェにはいり、ガラスの巨大な三角屋根が見おろせる窓際に座った。
やつは柴山慧(しばやまさとし)と自己紹介して、届いたブレンドに山盛り三杯のグラニュー糖をいれた。
よくかき混ぜて、ひと口すする。
「熱くて、うまいです。さっきのバナナとこれで、一食得しました。ちゃんとしたカフェでコーヒーのむなんて、こんな贅沢久しぶりだなあ」
おれより少しうえくらいのガキが喫茶店のコーヒー一杯で、それほどよろこんでいる。おれたちの国はいつからそんなに貧しくなったんだろうか。
「サトシ、さっきから金がないってばかりいってるけど、おまえ、どこに住んでるんだ。家くらいあるんだろ」
「ちいさなブースならあるけど、家も自分の部屋もないよ。夜はネットカフェのナイトパックだから。でも、地方からでてきたフリーターは、みんなぼくと似たような生活してる」
東京に実家がある人間には、想像もできない話。
いよいよ面白くなってきた。おるはガラステーブルのうえにちいさな手帳を広げ、メモをとりはじめた。
「じゃあ、生活用品とかはどうしてるんだ?」
サトシは足元の黒いバッグを指さした。
「最低限のものは、そこにはいってる。でも、どうしても捨てられないやつは、コインロッカーのなかだよ」
コインロッカーがタンス代わりなのだ。びっくり。
「どんなものをいれてるのかな」
サトシは遠い目で、芸術劇場のガラス屋根を見つめた。灰色にくすんで、たくさん冬のハトが身体を丸めている。
「中学の卒業証書とか、女の子にもらったラヴレターとか、写真のアルバムとか、大好きなCDや本とか。あとは着替えなんかかな。悠さんだって、どうしても捨てられないものってあるでしょう」
誰にだって過去はある。過去と繋がっている捨てられないものもある。
そうした思い出を断ち切ったら、おれたちはおれたちでいられなくなるのだ。
うなずくと、やつは厳しい顔でいった。
「そういう思いでの品を手元においておくために、毎日ロッカー代が三百円もかかっちゃうのは、すごく痛いんだけど。でも、ああいう荷物を捨ててしまったら、ぼくはほんとうのホームレスになってしまう気がして」
サトシはうつむいて、べたべたに甘いコーヒーをのんだ。やつにしたら、こいつはただのお茶じゃなく、栄養補給の手段なのだろう。