ー特別編ー非正規ワーカーズ
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けれど、そのガキは特別なのだった。
九十分おきに、必ずリッカの果物屋のまえをとおっていくのである。
そのたびに、やつは店先の売りものに熱い視線を注いでいた。
イチゴにバナナに洋ナシ。さすがにやつの周回が四回目を数えたときには、おれは店のまえで出迎えてやった。
手に歓待のフィリピンバナナをもってね。
なんだか、切羽詰まっているようだったし、一日中池袋をぐるぐる歩きまわるガキはめずらしい。
コラムのいいネタに使えるかもしれない。
ビル街の夕空のした、またあのガキがやってきた。
顔色は控えめにいって、霜のおりた土色。
指でさしたら、そのままの形にへこんでいそうだ。
おれに気づくと、ガキは驚いた顔をして、それからはずかしそうな表情になった。
「なんだかしらないけど、腹が減ってるんだろ。これ、やるよ」
よく見ると、なかなかイケメンのガキだった。
やつは怖がって手をだそうともしない。
「いいから、気にすんな。こいつは明日の朝には、生ゴミの袋のなかだ」
やつの声は身体と同じように細く元気がなかった。
「でも、ぼくにはお金がないから」
茶色の斑点だらけになった熟しきった山盛りでひと皿百円のバナナである。
そこまで、遠慮する理由がわからなかった。
おれは軍パンのポケットから100円玉を抜いて、リッカに投げた。
ノーモーションでキャッチする。
「これで、代金は大丈夫だ。くえよ」
ひとふさ押し付けてやる。ガキは放心したまま、やわらかなバナナを受け取った。にっと歯を見せて笑ってから、おれはいった。
「金はいらない。その代わりといってはなんだけど、アンタの話を聞かせてくれないか。おれは小鳥遊悠。ある雑誌でコラムの不定期掲載をもってるんだ」
やつはその場でたったまま、震える手でバナナの皮をむくと、がつがつと喰いだした。
おれが見ているまえで三本をあっというまに片付けると、 ようやく人なみの表情がもどってきた。
「これ、今日初めて口にいれたくいものなんです。ありがとうございました。ぼくの話なんかでいいなら、協力させてもらいます。でも、ぼくの暮らしなんて最低だから、コラムになんかならないですよ」
やけに礼儀正しい貧乏人。
おれたちが移動したのは、西口公園の奥に建つ東京芸術劇場だった。
このカフェはいつでも席が空いている駅まえの穴場なのだ。
いくらあたたかとはいえ、真冬だからな。日が沈むと、円形広場のベンチはつらい。
なにせ、凍えるように尻に冷たいステンレスパイプのベンチだ。
二階にあるカフェの入り口で、なかなかやつは店に入ろうとしなかった。
九十分おきに、必ずリッカの果物屋のまえをとおっていくのである。
そのたびに、やつは店先の売りものに熱い視線を注いでいた。
イチゴにバナナに洋ナシ。さすがにやつの周回が四回目を数えたときには、おれは店のまえで出迎えてやった。
手に歓待のフィリピンバナナをもってね。
なんだか、切羽詰まっているようだったし、一日中池袋をぐるぐる歩きまわるガキはめずらしい。
コラムのいいネタに使えるかもしれない。
ビル街の夕空のした、またあのガキがやってきた。
顔色は控えめにいって、霜のおりた土色。
指でさしたら、そのままの形にへこんでいそうだ。
おれに気づくと、ガキは驚いた顔をして、それからはずかしそうな表情になった。
「なんだかしらないけど、腹が減ってるんだろ。これ、やるよ」
よく見ると、なかなかイケメンのガキだった。
やつは怖がって手をだそうともしない。
「いいから、気にすんな。こいつは明日の朝には、生ゴミの袋のなかだ」
やつの声は身体と同じように細く元気がなかった。
「でも、ぼくにはお金がないから」
茶色の斑点だらけになった熟しきった山盛りでひと皿百円のバナナである。
そこまで、遠慮する理由がわからなかった。
おれは軍パンのポケットから100円玉を抜いて、リッカに投げた。
ノーモーションでキャッチする。
「これで、代金は大丈夫だ。くえよ」
ひとふさ押し付けてやる。ガキは放心したまま、やわらかなバナナを受け取った。にっと歯を見せて笑ってから、おれはいった。
「金はいらない。その代わりといってはなんだけど、アンタの話を聞かせてくれないか。おれは小鳥遊悠。ある雑誌でコラムの不定期掲載をもってるんだ」
やつはその場でたったまま、震える手でバナナの皮をむくと、がつがつと喰いだした。
おれが見ているまえで三本をあっというまに片付けると、 ようやく人なみの表情がもどってきた。
「これ、今日初めて口にいれたくいものなんです。ありがとうございました。ぼくの話なんかでいいなら、協力させてもらいます。でも、ぼくの暮らしなんて最低だから、コラムになんかならないですよ」
やけに礼儀正しい貧乏人。
おれたちが移動したのは、西口公園の奥に建つ東京芸術劇場だった。
このカフェはいつでも席が空いている駅まえの穴場なのだ。
いくらあたたかとはいえ、真冬だからな。日が沈むと、円形広場のベンチはつらい。
なにせ、凍えるように尻に冷たいステンレスパイプのベンチだ。
二階にあるカフェの入り口で、なかなかやつは店に入ろうとしなかった。