ー特別編ー非正規ワーカーズ
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今年の東京の冬も、またあったかな日々。
年が明けても、まだ小雪さえちらついていなかった。
空気はからからに乾いて、池袋の駅まえでは枯葉と新規開店のマンキツのチラシが生ぬるい風のなか競うように舞っていた。
都心のターミナル駅は、どこもネットカフェが大繁盛だ。おれにはその理由なんてぜんぜんわからなかった。
せいぜいマンガやネットゲーム好きが増えたんだろうなと思っていただけだ。
おれの毎日も季節感のない東京の冬のように変わりばえしなかった。
新宿にあるちいさな茶屋を開いたり、閉じたり。
酔っぱらい相手に売れ残った和菓子(団子とおはぎのお得セット。五百円!)を売り付けたり。
まあ、機械のように同じ作業を繰り返していたのだ。
このごろ池袋の街にトラブルはなかった。
そうなると当然、茶屋か学生の顔しかおれにはなくなるし、バイトの雑誌コラムのネタにも困ることになる。
でも、さすがに何回かストリート誌に掲載していると、気づくこともある。
毎回、抜群におもしろい必要もないんだよな、コラムって。
息を抜いた回が案外評判がいいことがあるのだ。
要は原稿を書きながら、リラックスできるようになったってこと。
えれもなんとか締切のしのぎかたを覚えたってことだろうか。
だが、あたりまえの日々はいつか必ず終わりがやってくる。
世界はあんたを放っておいてくれるほど、やさしくはない。
始業のベルは必ず鳴り響くのだ。
そのガキに気づいたのは、正月休み明けの月曜日だった。
カラータイルの歩道にぽかぽかとあたたかな日ざしが落ちる昼下がり。
おれは宗方六花の店に顔を出していた。
リッカがハタキをもって、店先に並んだ果物から年越しのほこりを払っていると、やつの視線に気づいた。
そいつは物理的な圧力さえ感じさせる必死の視線だ。
おれが顔をあげると、二十代になったばかりのガキが西一番街の歩道の奥から店先をくいいるようにみつめていた。
どこかで、おれが罠にはめたやつだろうか。
復讐という言葉で、背筋が震える。まぁ、おれがやってきたことをしってるあんたなら、よくわかるだろう。
だが、ガキの視線はおれにではなく、店先の特売品のフィリピンバナナに向かっていた。
おれがにらんでいるのに気づいたガキは夢から醒めたように目をそらすと、軽く右足を引きずりながら歩いていった。
やつの背中を見送った。
ジーンズはひどくはきこんでいるようで、天然のダメージ加工済み。
もものうしろに穴が開いて、すそはボロボロにほつれていた。
黒いダウンジャケットはガムテで穴を補強しているようだ。肩には黒いおおきなショルダーバックがななめがけされている。
なによりやつの背中で印象が強かったのは、かすかに全体が右に傾いていることだった。
背骨が曲がってしまっているのだろうか。
あの若さで、おかしなガキ。おれはそう思って、またハタキをかけるリッカの太ももに視線を戻した。
当然、そのガキのことはきれいに忘れてしまう。
なにせ池袋は東京でも有数のターミナル。
いちいち駅前をとおる人間の顔など覚えていられないのだ。
年が明けても、まだ小雪さえちらついていなかった。
空気はからからに乾いて、池袋の駅まえでは枯葉と新規開店のマンキツのチラシが生ぬるい風のなか競うように舞っていた。
都心のターミナル駅は、どこもネットカフェが大繁盛だ。おれにはその理由なんてぜんぜんわからなかった。
せいぜいマンガやネットゲーム好きが増えたんだろうなと思っていただけだ。
おれの毎日も季節感のない東京の冬のように変わりばえしなかった。
新宿にあるちいさな茶屋を開いたり、閉じたり。
酔っぱらい相手に売れ残った和菓子(団子とおはぎのお得セット。五百円!)を売り付けたり。
まあ、機械のように同じ作業を繰り返していたのだ。
このごろ池袋の街にトラブルはなかった。
そうなると当然、茶屋か学生の顔しかおれにはなくなるし、バイトの雑誌コラムのネタにも困ることになる。
でも、さすがに何回かストリート誌に掲載していると、気づくこともある。
毎回、抜群におもしろい必要もないんだよな、コラムって。
息を抜いた回が案外評判がいいことがあるのだ。
要は原稿を書きながら、リラックスできるようになったってこと。
えれもなんとか締切のしのぎかたを覚えたってことだろうか。
だが、あたりまえの日々はいつか必ず終わりがやってくる。
世界はあんたを放っておいてくれるほど、やさしくはない。
始業のベルは必ず鳴り響くのだ。
そのガキに気づいたのは、正月休み明けの月曜日だった。
カラータイルの歩道にぽかぽかとあたたかな日ざしが落ちる昼下がり。
おれは宗方六花の店に顔を出していた。
リッカがハタキをもって、店先に並んだ果物から年越しのほこりを払っていると、やつの視線に気づいた。
そいつは物理的な圧力さえ感じさせる必死の視線だ。
おれが顔をあげると、二十代になったばかりのガキが西一番街の歩道の奥から店先をくいいるようにみつめていた。
どこかで、おれが罠にはめたやつだろうか。
復讐という言葉で、背筋が震える。まぁ、おれがやってきたことをしってるあんたなら、よくわかるだろう。
だが、ガキの視線はおれにではなく、店先の特売品のフィリピンバナナに向かっていた。
おれがにらんでいるのに気づいたガキは夢から醒めたように目をそらすと、軽く右足を引きずりながら歩いていった。
やつの背中を見送った。
ジーンズはひどくはきこんでいるようで、天然のダメージ加工済み。
もものうしろに穴が開いて、すそはボロボロにほつれていた。
黒いダウンジャケットはガムテで穴を補強しているようだ。肩には黒いおおきなショルダーバックがななめがけされている。
なによりやつの背中で印象が強かったのは、かすかに全体が右に傾いていることだった。
背骨が曲がってしまっているのだろうか。
あの若さで、おかしなガキ。おれはそう思って、またハタキをかけるリッカの太ももに視線を戻した。
当然、そのガキのことはきれいに忘れてしまう。
なにせ池袋は東京でも有数のターミナル。
いちいち駅前をとおる人間の顔など覚えていられないのだ。