ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
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その日の夕方には、中西部長からコモモの携帯に電話がはいった。
目白のフォーシーズンズホテルに部屋をとったという。
発注先の労働条件を審査する委員会を社内に設けたので、コモモに証人として発言を求めたいそうだ。
おれはとっさの機転であの場を救った広告部長を、実は見直していた。
やつは社内の動揺をなだめ、半日のあいだに方針を転換させたのだ。
見事な変わり身だった。
将来の社長候補は間違いないところだろう。
その日の夜には、おれはジープでコモモを高級ホテルまで送ってやった。
数人の男と一緒にキザな中年が暗いロビーで待っていた。
にこやかに笑ってコモモを迎え、握手する。
おれには握手は求めないが、口の端でいった。
「きみには見事にやられたよ。今度わたしのしたで働いてみないか。きみならすぐブロック長くらいになれると思うんだが」
なぜか、おれの実力をわかってくれるのは、この手の男ばかりだった。
おれが笑って首を横に振ると広告部長はいった。
「あのときの封筒がまだ内ポケットにはいっているんだが、やはりいらないのか」
おれはやつにむかって手を差し出した。
受けとるためではなく、握手のための手だ。
つい数時間まえまでは敵同士だったおれたちは、しっかりと握手をした。
これも資本主義の世の習い。
個人の感情よりもビジネスが優先されるのだ。
この男になら中国の会社だって申し開きは難しいことだろう。
「さっきのアンタの台詞、見事だった。でもさ人形はやっぱり誰かが倒れて死ぬような場所じゃなく、ゆとりのある工場でつくったほうがいいよ。そのほうが世界中のファンも納得すると思う。それと…金はおれじゃなく、コモモにやってくれ。なにせ今、失業中だから」
社員の誰かがコモモのバッグをもってやっついた。
昨日までの虫けらのような扱いとは正反対。
ホテルマンがやってきて慇懃に会釈する。
「お部屋にご案内します。こちらへ、どうぞ」
コモモはおれについてきてほしそうな顔をした。
「ここからはアンタがひとりで闘っていくんだ。なにかあったら、うちか店にこいよ。できることなら、また手伝ってやるからさ」
コモモはおれをじっと見つめて、朝日に花が開くようにスローモーションの笑顔を見せた。
「わたし、日本の男大嫌いだった。スケベでケチで、わたしの国のことバカにして。でも、悠さんみたいな人もたまにはいるんだね。この話し合いが終わったら、わたしの部屋に遊びにきてね。いっしょに、おいしいものたべよう」
おれはしっかりとうなずいて、ホテルのロビーを出た。
イタリア製の大理石とか金メッキとかマホガニーのカウンターに、致命的なアレルギーがあるのだ。
高級ホテルなんて落ち着かない。
キーホルダーを振り回しながら、雪駄でジープにむかった。春の風はやわらかいだけでなく、次の季節の焼けつくような熱さも予感させてくる。
ホテルの建物の向こうでは、日本庭園の緑が青く照明に浮き上がり、ドアマンは人形の兵士のように姿勢をただしたまま、おれに笑顔を見せた。
これもきっと労働者階級の連帯というやつなのだろう。
春の終わりまでに、おれがコモモの部屋にいったかどうかは、日中の外交上の機密だ。
だから、一般論として聞いてほしいのだが中国の女性はとてもとてもチャーミングである。
そいつを知らないアンタは不幸だ。
ー命ヲ啜ル玩具・完ー
目白のフォーシーズンズホテルに部屋をとったという。
発注先の労働条件を審査する委員会を社内に設けたので、コモモに証人として発言を求めたいそうだ。
おれはとっさの機転であの場を救った広告部長を、実は見直していた。
やつは社内の動揺をなだめ、半日のあいだに方針を転換させたのだ。
見事な変わり身だった。
将来の社長候補は間違いないところだろう。
その日の夜には、おれはジープでコモモを高級ホテルまで送ってやった。
数人の男と一緒にキザな中年が暗いロビーで待っていた。
にこやかに笑ってコモモを迎え、握手する。
おれには握手は求めないが、口の端でいった。
「きみには見事にやられたよ。今度わたしのしたで働いてみないか。きみならすぐブロック長くらいになれると思うんだが」
なぜか、おれの実力をわかってくれるのは、この手の男ばかりだった。
おれが笑って首を横に振ると広告部長はいった。
「あのときの封筒がまだ内ポケットにはいっているんだが、やはりいらないのか」
おれはやつにむかって手を差し出した。
受けとるためではなく、握手のための手だ。
つい数時間まえまでは敵同士だったおれたちは、しっかりと握手をした。
これも資本主義の世の習い。
個人の感情よりもビジネスが優先されるのだ。
この男になら中国の会社だって申し開きは難しいことだろう。
「さっきのアンタの台詞、見事だった。でもさ人形はやっぱり誰かが倒れて死ぬような場所じゃなく、ゆとりのある工場でつくったほうがいいよ。そのほうが世界中のファンも納得すると思う。それと…金はおれじゃなく、コモモにやってくれ。なにせ今、失業中だから」
社員の誰かがコモモのバッグをもってやっついた。
昨日までの虫けらのような扱いとは正反対。
ホテルマンがやってきて慇懃に会釈する。
「お部屋にご案内します。こちらへ、どうぞ」
コモモはおれについてきてほしそうな顔をした。
「ここからはアンタがひとりで闘っていくんだ。なにかあったら、うちか店にこいよ。できることなら、また手伝ってやるからさ」
コモモはおれをじっと見つめて、朝日に花が開くようにスローモーションの笑顔を見せた。
「わたし、日本の男大嫌いだった。スケベでケチで、わたしの国のことバカにして。でも、悠さんみたいな人もたまにはいるんだね。この話し合いが終わったら、わたしの部屋に遊びにきてね。いっしょに、おいしいものたべよう」
おれはしっかりとうなずいて、ホテルのロビーを出た。
イタリア製の大理石とか金メッキとかマホガニーのカウンターに、致命的なアレルギーがあるのだ。
高級ホテルなんて落ち着かない。
キーホルダーを振り回しながら、雪駄でジープにむかった。春の風はやわらかいだけでなく、次の季節の焼けつくような熱さも予感させてくる。
ホテルの建物の向こうでは、日本庭園の緑が青く照明に浮き上がり、ドアマンは人形の兵士のように姿勢をただしたまま、おれに笑顔を見せた。
これもきっと労働者階級の連帯というやつなのだろう。
春の終わりまでに、おれがコモモの部屋にいったかどうかは、日中の外交上の機密だ。
だから、一般論として聞いてほしいのだが中国の女性はとてもとてもチャーミングである。
そいつを知らないアンタは不幸だ。
ー命ヲ啜ル玩具・完ー