ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
タカシはあっさりという。
『それがおれたちの世界の常識でもか』
おれは力をこめていった。
「どんな常識も、どんな会社も、結局は誰かが考えてつくったものだ。間違いが絶対にないとはいえないだろ。」
タカシは低く笑っていった。
『水曜の夜はおまえのタフさを、Sウルフのガキどもに見せてやれ。ミーティングは東池袋中央公園で、夜十時だ。』
通話は突然切れて、春の静かな雨音が部屋を満たした。
濡れた指先で全身を探られるようで、おれは春の雨は嫌いではない、むしろ大好きだ。
窓を開けようとすると背中に春雨音のように静かな声を受けた。
「問題は片付きそうなのかなの」
「ま、なるようになるさ」
「そうか…なの。なんにせよお前が帰る場所はここなの。おやすみなの」
「おやすみ」
おれは真桜が出ていくのを確認してもう一度『マルコ・ポーロ』をききながら、明後日のスピーチの草稿をねった。
こうなったら、池袋の王様のスピーチライターにでもなろうかな。やつなら一本いくらのギャラをくれるのだろうか。
曇り空はなんとかもちこたえて、集会の夜になった。二日間、おれとコモモは昼のあいだ十時間以上も池袋の街で、ビラをまき続けた。
夜の十時十分前の公園に到着したときには、植栽の先にある噴水の前には二百人を超えるSボーイズ&Sガールズ、東口のランカー、が集合していた。
女たちの半分近くはニッキー・Zをもっている。
もともと黒人系のストリートファッションの影響が濃いSガールズには、ソウルディーヴァ人形はどんぴしゃの企画で、流行りに最初に火がついたのもこの街からなのだ。
噴水のへりにタカシと氷室さんが立った。
氷室さんが手を打ち静寂と視線を集めて、タカシが声を張り上げた。
白い軍パンに襟ぐりのたっぷり開いたシルクニットのセーター。首にさげたリングつきのネックレスはきらきらと街灯の光を散らす。
「今日は最初に悠から話があるそうだ」
おれはコモモの背中を押して、ひざほどの高さの石組をあがった。
コモモはペコリと日本人のようにお辞儀をした。
おれは抑えた声でいった。
「深センからきた紅小桃だ。コイツの姉貴は、おまえたちがもっているニッキー・Zをつくっている工場で、去年の夏に殺された。コモモ、話してやれ。」
おれがどれほどの数の言葉をつかうよりも、実の姉をなくしたコモモのひと言のほうが効果がある。
まして、今回口説き落としたいのは、野郎ランカーではなくガールズなだ。
風のない日の水面のように静まり返ったギャングたちに、コモモは社会学的に世界の果てにある奴隷工場の話をした。
見上げるとたっぷりと墨を吸った空に、まだらに光を残したサンシャイン60が四角く刺さっている。
まだ夜は始まったばかりだ。
『それがおれたちの世界の常識でもか』
おれは力をこめていった。
「どんな常識も、どんな会社も、結局は誰かが考えてつくったものだ。間違いが絶対にないとはいえないだろ。」
タカシは低く笑っていった。
『水曜の夜はおまえのタフさを、Sウルフのガキどもに見せてやれ。ミーティングは東池袋中央公園で、夜十時だ。』
通話は突然切れて、春の静かな雨音が部屋を満たした。
濡れた指先で全身を探られるようで、おれは春の雨は嫌いではない、むしろ大好きだ。
窓を開けようとすると背中に春雨音のように静かな声を受けた。
「問題は片付きそうなのかなの」
「ま、なるようになるさ」
「そうか…なの。なんにせよお前が帰る場所はここなの。おやすみなの」
「おやすみ」
おれは真桜が出ていくのを確認してもう一度『マルコ・ポーロ』をききながら、明後日のスピーチの草稿をねった。
こうなったら、池袋の王様のスピーチライターにでもなろうかな。やつなら一本いくらのギャラをくれるのだろうか。
曇り空はなんとかもちこたえて、集会の夜になった。二日間、おれとコモモは昼のあいだ十時間以上も池袋の街で、ビラをまき続けた。
夜の十時十分前の公園に到着したときには、植栽の先にある噴水の前には二百人を超えるSボーイズ&Sガールズ、東口のランカー、が集合していた。
女たちの半分近くはニッキー・Zをもっている。
もともと黒人系のストリートファッションの影響が濃いSガールズには、ソウルディーヴァ人形はどんぴしゃの企画で、流行りに最初に火がついたのもこの街からなのだ。
噴水のへりにタカシと氷室さんが立った。
氷室さんが手を打ち静寂と視線を集めて、タカシが声を張り上げた。
白い軍パンに襟ぐりのたっぷり開いたシルクニットのセーター。首にさげたリングつきのネックレスはきらきらと街灯の光を散らす。
「今日は最初に悠から話があるそうだ」
おれはコモモの背中を押して、ひざほどの高さの石組をあがった。
コモモはペコリと日本人のようにお辞儀をした。
おれは抑えた声でいった。
「深センからきた紅小桃だ。コイツの姉貴は、おまえたちがもっているニッキー・Zをつくっている工場で、去年の夏に殺された。コモモ、話してやれ。」
おれがどれほどの数の言葉をつかうよりも、実の姉をなくしたコモモのひと言のほうが効果がある。
まして、今回口説き落としたいのは、野郎ランカーではなくガールズなだ。
風のない日の水面のように静まり返ったギャングたちに、コモモは社会学的に世界の果てにある奴隷工場の話をした。
見上げるとたっぷりと墨を吸った空に、まだらに光を残したサンシャイン60が四角く刺さっている。
まだ夜は始まったばかりだ。