ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
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「このチラシは拝読しました。確かに当社では深セン市の高興有限公司に、ニッキー・Zを発注しています。ですが、あの会社はわたしどもの子会社ではありませんし、資本提携の関係にもありません。独立した企業なのです。得意先であるというだけの理由で、他国の独立企業の労働条件や福利厚生まで口をだすことは、残念ながら当社では不可能です。あなたがたのご期待にそうことはできません。」
コモモは席を立ちそうにまえのめりになった。
てのひらで机をたたく。
「でも、わたしの姉はニッキー・Zをつくるために死んだんです。」
おれはコモモの手を押さえた。耳元でいう。
「ここで乱暴なことはしないほうがいい。すべて映像に残されるんだ。ティーカップを割るだけで、器物破損の罪になるぞ」
おれはあらためて、部長に目をすえた。
「中西さん、アンタがいうことは確かに筋がとおっている。でも、あの工場の売り上げの九割近くがキッズファームの仕事ですよね。影響力が全くないなんて信じられません。そちらが正論で来るだけで、この件についてなんの対応もしないなら、おれたちはこれから毎日このビラを本社前で配ります。あそこは公道だから、抗議活動だって自由ですよね。なんなら順番に東京中のおもちゃの量販店のまえで、ビラを配ってまわってもいい」
中年男のメガネの奥で目が鋭くとがっていった。
ようやく本性が出てきたようだ。
それでもひるまずに灰色のスーツの男はいう。
「では、こうしませんか。深センの医者が発行した正式なお姉さまの死亡診断書と、工場での在籍記録を見せてください。わたしどもとしては、このビラだけを根拠にうえにはなしをあげることはむずかしいのです。お待ちしていますから、正規の書類を揃えてください」
頭のいい男だった。
そんな書類を揃えているうちに、4・23の世紀のイベントは終了してしまうだろう。
コモモは困った顔をしていた。
「わかりました。そちらのほうも手配します。ですが、準備のあいだも抗議活動は休みませんよ。このチラシはマスコミ各社にも送付します」
広告部長の顔がいっそう険しくなった。
だが、やつはひるまなかった。タフな交渉人だ。
上着の内ポケットに手をいれて、なにか取り出す。
白いテーブルのうえを滑らせた。
「本日は有益なお話を聞かせていただきました。お礼とここまでの交通費に、ぜひ」
おれはなにも書かれていない白い封筒を取り上げた。なかを確かめる。
薄手の住所録ほどの折り目のない一万円札が、ぴしりと角をそろえていた。
コモモと目を見合わせる。封筒を押し返していった。
「おれたちはこんなもののために動いているわけじゃない。いこう、コモモ」
なかにあるものをなにひとつ傷つけないように、おれたちは慎重に白い部屋を出た。
コモモは席を立ちそうにまえのめりになった。
てのひらで机をたたく。
「でも、わたしの姉はニッキー・Zをつくるために死んだんです。」
おれはコモモの手を押さえた。耳元でいう。
「ここで乱暴なことはしないほうがいい。すべて映像に残されるんだ。ティーカップを割るだけで、器物破損の罪になるぞ」
おれはあらためて、部長に目をすえた。
「中西さん、アンタがいうことは確かに筋がとおっている。でも、あの工場の売り上げの九割近くがキッズファームの仕事ですよね。影響力が全くないなんて信じられません。そちらが正論で来るだけで、この件についてなんの対応もしないなら、おれたちはこれから毎日このビラを本社前で配ります。あそこは公道だから、抗議活動だって自由ですよね。なんなら順番に東京中のおもちゃの量販店のまえで、ビラを配ってまわってもいい」
中年男のメガネの奥で目が鋭くとがっていった。
ようやく本性が出てきたようだ。
それでもひるまずに灰色のスーツの男はいう。
「では、こうしませんか。深センの医者が発行した正式なお姉さまの死亡診断書と、工場での在籍記録を見せてください。わたしどもとしては、このビラだけを根拠にうえにはなしをあげることはむずかしいのです。お待ちしていますから、正規の書類を揃えてください」
頭のいい男だった。
そんな書類を揃えているうちに、4・23の世紀のイベントは終了してしまうだろう。
コモモは困った顔をしていた。
「わかりました。そちらのほうも手配します。ですが、準備のあいだも抗議活動は休みませんよ。このチラシはマスコミ各社にも送付します」
広告部長の顔がいっそう険しくなった。
だが、やつはひるまなかった。タフな交渉人だ。
上着の内ポケットに手をいれて、なにか取り出す。
白いテーブルのうえを滑らせた。
「本日は有益なお話を聞かせていただきました。お礼とここまでの交通費に、ぜひ」
おれはなにも書かれていない白い封筒を取り上げた。なかを確かめる。
薄手の住所録ほどの折り目のない一万円札が、ぴしりと角をそろえていた。
コモモと目を見合わせる。封筒を押し返していった。
「おれたちはこんなもののために動いているわけじゃない。いこう、コモモ」
なかにあるものをなにひとつ傷つけないように、おれたちは慎重に白い部屋を出た。