ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
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「どのような事情があるかは存じ上げませんが、このような中傷文を配られては、当社としても困ります。来週にはニッキー・Zの結婚式も控えておりますので、今は大切な時期なのです。ここではなんですから、社内でお話をお聞かせ願えますでしょうか」
こんな丁寧語をきいたのは何年ぶりだろうか。
おれが目をやると、コモモはうなずき返してきた。
おれも男に負けないようにいった。
「わかりました。おれたちもあなたがたの主力商品に傷をつけたくて、こんなチラシをまいているわけじゃない。望むところです。」
コモモはおれに寄り添うように金のリボンがかかった自動ドアを通り抜け、おしゃれでセンスのいいおもちゃ会社のなかにはいった。
磨き抜かれた白い大理石の床。ヤシノキは高い天井に届きそうなほどのおおきさで、緑の影を淡く落としていた。
数百種類のニッキー・Z関連商品が、高級ブランド店のようにガラスケースや手の込んだ木製の棚に並んでいた。
なかには頭からすっぽりかぶれるニッキー・Zマスクなんて、パーティグッズまである。
ちらりと横目で鍵のついたケースを見る。
十八金ピンクゴールドの機械式クロノグラフ腕時計。メイド・イン・スイス。
文字盤にはちいさなダイヤモンドが光り、ニッキーの顔が細かなレリーフで虹色に浮き上がっている。
大人用が九十五万円、子供用が七十五万円。
誰が買うんだこんなもの。
おれは週給八百円で走りながら死んでいった小栄を思い出した。ため息をついた。
世界はとことん不平等で、非対称に作られている。
こまかな格子に仕切られた幅十メートルもあるガラスケースのなかには、世界中のあらゆる民族衣装を着せられた人形が標本のように飾られていた。
なかには絹のチャイナドレスや黒いサテンのチャドルで目だけだしたニッキー・Zもいる。これはなにかの皮肉なのだろうか。
おれが口を開けて見ていると、インテリ風の中年男がいった。
「お気に入りのものがあるようでしたら、お帰りの際にさしあげますよ。こちらへ、どうぞ」
おれたちが案内されたのは白い廊下の奥にある窓のない部屋だった。
壁も床も真っ白で、テーブルも椅子も白だった。
おまけに天井の四隅についた監視カメラのカバーも白。
白ずくめの監房である。クレーマーのようなしつこい客を一般の客から隔離して対応するための特別室なのだろう。
おれたちと男はテーブルをはさんで対峙した。
すぐに紅茶がポットに入って出てくる。
キザな男は立ち上がって、両手で名刺を差し出した。おれもあわてて席を立ち、受けとる。
(株)キッズファーム広告部部長、中西高彦。
眼鏡を直すと、微笑と困惑の中間の表情でいう。
こんな丁寧語をきいたのは何年ぶりだろうか。
おれが目をやると、コモモはうなずき返してきた。
おれも男に負けないようにいった。
「わかりました。おれたちもあなたがたの主力商品に傷をつけたくて、こんなチラシをまいているわけじゃない。望むところです。」
コモモはおれに寄り添うように金のリボンがかかった自動ドアを通り抜け、おしゃれでセンスのいいおもちゃ会社のなかにはいった。
磨き抜かれた白い大理石の床。ヤシノキは高い天井に届きそうなほどのおおきさで、緑の影を淡く落としていた。
数百種類のニッキー・Z関連商品が、高級ブランド店のようにガラスケースや手の込んだ木製の棚に並んでいた。
なかには頭からすっぽりかぶれるニッキー・Zマスクなんて、パーティグッズまである。
ちらりと横目で鍵のついたケースを見る。
十八金ピンクゴールドの機械式クロノグラフ腕時計。メイド・イン・スイス。
文字盤にはちいさなダイヤモンドが光り、ニッキーの顔が細かなレリーフで虹色に浮き上がっている。
大人用が九十五万円、子供用が七十五万円。
誰が買うんだこんなもの。
おれは週給八百円で走りながら死んでいった小栄を思い出した。ため息をついた。
世界はとことん不平等で、非対称に作られている。
こまかな格子に仕切られた幅十メートルもあるガラスケースのなかには、世界中のあらゆる民族衣装を着せられた人形が標本のように飾られていた。
なかには絹のチャイナドレスや黒いサテンのチャドルで目だけだしたニッキー・Zもいる。これはなにかの皮肉なのだろうか。
おれが口を開けて見ていると、インテリ風の中年男がいった。
「お気に入りのものがあるようでしたら、お帰りの際にさしあげますよ。こちらへ、どうぞ」
おれたちが案内されたのは白い廊下の奥にある窓のない部屋だった。
壁も床も真っ白で、テーブルも椅子も白だった。
おまけに天井の四隅についた監視カメラのカバーも白。
白ずくめの監房である。クレーマーのようなしつこい客を一般の客から隔離して対応するための特別室なのだろう。
おれたちと男はテーブルをはさんで対峙した。
すぐに紅茶がポットに入って出てくる。
キザな男は立ち上がって、両手で名刺を差し出した。おれもあわてて席を立ち、受けとる。
(株)キッズファーム広告部部長、中西高彦。
眼鏡を直すと、微笑と困惑の中間の表情でいう。