ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
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席につくとコモモはすぐに内ポケットから紙切れを取り出した。
新聞の折り込みチラシの裏が白いやつあるよな。
あの透ける紙にびっしりと手書きの文字が並んでいる。
けっこう達筆だった。
「これを読んでおかしなところはないか、直してください。悠さんは日本の雑誌にも連載を持っている文筆家だそうですね」
おれが文筆家というのは、援助交際ものの裏DVDをエロティックな芸術映画というようなものだ。
尻がかゆくてたまらなくなる。
「書いたことはあったけど、連載を持っている訳じゃないし、あんたが思ってるような立派なものじゃない」
コモモはまっすぐにおれの目を見つめてきた。
「謙遜は結構ですから、読んでみてください」
それでおれはコーヒーに口をつけることもなく、コモモの原稿に目を落とした。
マジックで書かれた最初の一行が、黒々と目に飛び込んでくる。
[キッズファームは、人殺しに手を貸している。]
おれはテーブルの向かいに座る女に目をあげた。
キッズファームは急成長中の玩具メーカーだ。
本社はここから歩いて十分ほど。
グリーン大通りの先に建つ全身ハーフミラー張りのインテリジェントビルだ。
主力のおもちゃは、いわずと知れたセクシーな着せ替えディーヴァ人形、ニッキー・Z
「これほんとうの話なのか」
おれは紙切れをテーブルの中央にもどして、きちんと話をきく体勢になった。
コモモは怒った顔でうなずいている。
「もし事実がなくて、こんなものを書いてばらまいたら、日本では犯罪になるんだぞ。あんたは、それがわかっているのか」
おれが見ている間に女のまぶたと目の下のふくらみが赤く染まった。
泣き出すのか、このキャッチ。
コモモの白い頬を涙の粒が転がり落ちていく。
遠くのテーブルのおばさんが、おれを非難してにらみつけてきた。
ため息をついて、おれはいった。
「わかったよ。話をきかせてくれ」
「また残酷な五月がやってきます」
コモモは詞の一節のようなことをいった。
当然、おれにはちんぷんかんぷん。
ただうなずいてみせるだけ。
「毎年五月になると一斉に、中国のおもちゃ工場で求人が始まります。悠さんは知っていますか。世界中のおもちゃの七、八割が中国南西部でつくられていることを」
おれは首を横に振った。
初めて聞く話だった。
おれには世界のおもちゃの八割という数字が想像できなかった。
ものすごい額と量になるのだろうと思うだけだ。
「アメリカや日本のクリスマスにあわせて、工場で臨時雇いの仕事が発生するのです。求人が二千人もあると噂が流れれば、つぎの朝最寄り駅には五万人の若い女性が集まります。」
おれは黄色い砂の舞うなか、突然出現する女だけの街を想像した。
なんだかエキセントリックでいい景色だった。
まぎれこんでみたいものだ。
新聞の折り込みチラシの裏が白いやつあるよな。
あの透ける紙にびっしりと手書きの文字が並んでいる。
けっこう達筆だった。
「これを読んでおかしなところはないか、直してください。悠さんは日本の雑誌にも連載を持っている文筆家だそうですね」
おれが文筆家というのは、援助交際ものの裏DVDをエロティックな芸術映画というようなものだ。
尻がかゆくてたまらなくなる。
「書いたことはあったけど、連載を持っている訳じゃないし、あんたが思ってるような立派なものじゃない」
コモモはまっすぐにおれの目を見つめてきた。
「謙遜は結構ですから、読んでみてください」
それでおれはコーヒーに口をつけることもなく、コモモの原稿に目を落とした。
マジックで書かれた最初の一行が、黒々と目に飛び込んでくる。
[キッズファームは、人殺しに手を貸している。]
おれはテーブルの向かいに座る女に目をあげた。
キッズファームは急成長中の玩具メーカーだ。
本社はここから歩いて十分ほど。
グリーン大通りの先に建つ全身ハーフミラー張りのインテリジェントビルだ。
主力のおもちゃは、いわずと知れたセクシーな着せ替えディーヴァ人形、ニッキー・Z
「これほんとうの話なのか」
おれは紙切れをテーブルの中央にもどして、きちんと話をきく体勢になった。
コモモは怒った顔でうなずいている。
「もし事実がなくて、こんなものを書いてばらまいたら、日本では犯罪になるんだぞ。あんたは、それがわかっているのか」
おれが見ている間に女のまぶたと目の下のふくらみが赤く染まった。
泣き出すのか、このキャッチ。
コモモの白い頬を涙の粒が転がり落ちていく。
遠くのテーブルのおばさんが、おれを非難してにらみつけてきた。
ため息をついて、おれはいった。
「わかったよ。話をきかせてくれ」
「また残酷な五月がやってきます」
コモモは詞の一節のようなことをいった。
当然、おれにはちんぷんかんぷん。
ただうなずいてみせるだけ。
「毎年五月になると一斉に、中国のおもちゃ工場で求人が始まります。悠さんは知っていますか。世界中のおもちゃの七、八割が中国南西部でつくられていることを」
おれは首を横に振った。
初めて聞く話だった。
おれには世界のおもちゃの八割という数字が想像できなかった。
ものすごい額と量になるのだろうと思うだけだ。
「アメリカや日本のクリスマスにあわせて、工場で臨時雇いの仕事が発生するのです。求人が二千人もあると噂が流れれば、つぎの朝最寄り駅には五万人の若い女性が集まります。」
おれは黄色い砂の舞うなか、突然出現する女だけの街を想像した。
なんだかエキセントリックでいい景色だった。
まぎれこんでみたいものだ。