ー特別編ー命ヲ啜ル玩具
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絵のようでないのは、わずかに生意気そうにうわむきにとがった唇くらい。
もち金のすくないおれは、女にいった。
「あんたが相手をしてくれるのか」
細い眉をあげて、女は笑ってみせる。
「残念でした。お店にいけば、ほかにいい娘がたくさん」
「じゃあ、いいや。それにおれ、金ぜんぜんもってないんだよね。」
女はそれでも表情を変えずに人形のように笑っていた。おれにちいさなビラをさしだす。
「滿足……これマンゾクって読むんだよな。」
淡い唇をかすかに開いて女はいった。
「マンチュッ、意味は日本語といっしょです」
おれがぼんやりと見つめている間に、とおりすがりのサラリーマンに声をかけにいってしまう。
四十すぎのパンチパーマの会社員は、まんざらでもない顔で女の話をきき、あとをついて常磐通りのほうに歩いていく。
女は最後におれのほうを振り向くと、なぜかにこりと笑ってみせた。
おれまでふらふらとあとをついていきそうになる。
凄腕キャッチガールを一名発見。
春の池袋は恐ろしい街だ。
それからときどき女と街で顔をあわせるようになった。
むこうもこちらが地元の人間だとわかったらしく、もう声をかけてくることはない。
四月の間延びした一週間がだらだらと流れていくだけ。
なぜ春になると時間の流れがゆるくなるのか、おれは不思議だ。
いくら眠っても、まだまだ眠くてたまらないしな。
春先のおれの睡眠時間は、ときに十四時間を超えることもある。
だからあの女がうちの庭先にやってきたときも、あくびでもしていたんじゃないだろうか。
なにせ女が玄関をくぐって、すぐ目の前に立つまでの記憶がぜんぜんないのだ。
口を開いた白い人形の顔は、緊張したようにこわばっていた。
「このお家に、小鳥遊悠さん、いますか」
おれは椅子代わりの庭石から立ち上がった。
「悠なら、おれだけど」
女はおれに気づいたようで、安心して顔を崩した。
とがった唇が丸くふくらむ。
「あなただったのか。わたし、紅小桃(ホンシヤオタオ)悠さんに頼みたいことがあるんだけど」
中国語の発音がまったくききとれなかった。
「シヤオター…」
女はスプリングコートのポケットからメモ帳を取り出した。
ボールペンで自分の名を書いてみせる。
「発音難しいから、あんたはコモモでいいよな」
コモモはうなずいた。
心配そうな表情でいう。
「悠さんは困った人を助けてくれる。それもお金をぜんぜんとらないってきいたけど、ほんとうのことですか」
最近の女子高生よりこの中国人のほうが、よほどしっかりした話しかただった。
おれはふざけていった。
「そんなデマ、誰に聞いたんだ。おれのギャラは高いよ」
火にかざした人形のようにコモモはしぼんでいった。
「そうか、やっぱり高いか。わたしのお店で働いている日本人の女の子から、池袋には悠というボランティアみたいななんでも屋がいるときいた。あれは嘘か。」
そのままくるりと振り向き、帰ってしまおうとする。
もち金のすくないおれは、女にいった。
「あんたが相手をしてくれるのか」
細い眉をあげて、女は笑ってみせる。
「残念でした。お店にいけば、ほかにいい娘がたくさん」
「じゃあ、いいや。それにおれ、金ぜんぜんもってないんだよね。」
女はそれでも表情を変えずに人形のように笑っていた。おれにちいさなビラをさしだす。
「滿足……これマンゾクって読むんだよな。」
淡い唇をかすかに開いて女はいった。
「マンチュッ、意味は日本語といっしょです」
おれがぼんやりと見つめている間に、とおりすがりのサラリーマンに声をかけにいってしまう。
四十すぎのパンチパーマの会社員は、まんざらでもない顔で女の話をきき、あとをついて常磐通りのほうに歩いていく。
女は最後におれのほうを振り向くと、なぜかにこりと笑ってみせた。
おれまでふらふらとあとをついていきそうになる。
凄腕キャッチガールを一名発見。
春の池袋は恐ろしい街だ。
それからときどき女と街で顔をあわせるようになった。
むこうもこちらが地元の人間だとわかったらしく、もう声をかけてくることはない。
四月の間延びした一週間がだらだらと流れていくだけ。
なぜ春になると時間の流れがゆるくなるのか、おれは不思議だ。
いくら眠っても、まだまだ眠くてたまらないしな。
春先のおれの睡眠時間は、ときに十四時間を超えることもある。
だからあの女がうちの庭先にやってきたときも、あくびでもしていたんじゃないだろうか。
なにせ女が玄関をくぐって、すぐ目の前に立つまでの記憶がぜんぜんないのだ。
口を開いた白い人形の顔は、緊張したようにこわばっていた。
「このお家に、小鳥遊悠さん、いますか」
おれは椅子代わりの庭石から立ち上がった。
「悠なら、おれだけど」
女はおれに気づいたようで、安心して顔を崩した。
とがった唇が丸くふくらむ。
「あなただったのか。わたし、紅小桃(ホンシヤオタオ)悠さんに頼みたいことがあるんだけど」
中国語の発音がまったくききとれなかった。
「シヤオター…」
女はスプリングコートのポケットからメモ帳を取り出した。
ボールペンで自分の名を書いてみせる。
「発音難しいから、あんたはコモモでいいよな」
コモモはうなずいた。
心配そうな表情でいう。
「悠さんは困った人を助けてくれる。それもお金をぜんぜんとらないってきいたけど、ほんとうのことですか」
最近の女子高生よりこの中国人のほうが、よほどしっかりした話しかただった。
おれはふざけていった。
「そんなデマ、誰に聞いたんだ。おれのギャラは高いよ」
火にかざした人形のようにコモモはしぼんでいった。
「そうか、やっぱり高いか。わたしのお店で働いている日本人の女の子から、池袋には悠というボランティアみたいななんでも屋がいるときいた。あれは嘘か。」
そのままくるりと振り向き、帰ってしまおうとする。