ー特別編グレーゾーンボーイー
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「待った、ともきさん」
はじめて制服姿でないミノルを見た。
ジーンズに灰色のパーカ、そのうえにオレンジ色のダウンベストを重ねている。
ミノルの母親はなかなか服の趣味がいいようだ。
おれたちは中ホールにあがるエスカレーターにのった。ここのカフェはいつきても、必ず空席があるのだ。
どこでも好きなところにとウエイトレスにいわれて、高さ三メートルはあるピクチャーウインドウの近くに席をとった。
ガラスのむこうには、芸術劇場の巨大なガラス屋根が見える。
あちこちに点々と寒そうなハトが羽を休めていた。
巨大な楽譜に打たれた無数の休止符のようだ。
最初にガラスの扉を押して店にはいってきたのは、目のまわりを青く腫らしたショウタだった。
そのあとにシゲユキとコウイチロウが続く。
シゲユキは最後まで直立不動でドアを押さえている。
丸岡は背の高い男だった。百九十センチ近くあるのではないだろうか。
擦りきれて穴の開いたジーンズは、デザイナーズブランドのユーズド加工ではなさそうだった。
裸の胸が見えるシャツは、軍服みたいなオリーブドラブ。ポケットが無数についたデザインだ。
なにより印象的なのは、やつの身体の線だった。
おれならこいつをデッサンするのは簡単だ。
マッチ棒を一本描いて、手足をつけて、それでおしまい。頬も目もあごのしたも、えぐりとったようにくぼんで、生気がない。
ショウタらおれに目で挨拶して、紹介する。
「こちらが丸岡さん、うちの学院の先輩です。」
やつはまったく表情を変えずに、スチールの座面を黒革で包んだ椅子に座った。
三人組もとなりのテーブルを寄せて、席を取った。
丸岡はウエイトレスにホットコーヒーを注文した。
誰もなにもいわない。
全員が丸岡が口を開くのを待っているのだ。
おれはじっとやつを観察していた。
きちんと話をするなら、マッドドッグの情報が少しでも多い方がいい。
コーヒーが届くと、丸岡は砂糖のポットを手元に引き寄せた。
ふたを取り、スプーンでグラニュー糖をいれる。
一杯、二杯。
そこまでは普通だった。
だが、やつの手はとまらない。五杯、六杯。
なにかのデモンストレーションなのだろうか。それにしては、やつは真剣に手元を見て、砂糖をコーヒーカップに移し続ける。
全部で十杯いれたところで、丸岡はかきまわしもせずに、コーヒーをひとくちすすった。
砂糖の入れすぎで、中身が縁からあふれそうだ。
やつは目を閉じて、ゆとくりと味わっているようだった。
しばらく考えて、もう二杯のグラニュー糖を足して。今度は満足そうにのむ。
どろどろに砂糖のとけた、熱いコーヒーを、ひと息で半分くらい喉に流し込んだのだ。
それを見ていたミノルが震えだした。
おれは正直なところ吐き気と闘っていた。
ミノルのような理性的なタイプには、丸岡のいかれた部分が怖くて仕方ないのだろう。
いかれた人間を見た数では、おれのほうが人生経験の分だけ有利だ。
まあ、何度見ても気分のいいものじゃないが、おれは大勢の三原学院の関係者同様、マッドドッグの意味するところを理解した。
はじめて制服姿でないミノルを見た。
ジーンズに灰色のパーカ、そのうえにオレンジ色のダウンベストを重ねている。
ミノルの母親はなかなか服の趣味がいいようだ。
おれたちは中ホールにあがるエスカレーターにのった。ここのカフェはいつきても、必ず空席があるのだ。
どこでも好きなところにとウエイトレスにいわれて、高さ三メートルはあるピクチャーウインドウの近くに席をとった。
ガラスのむこうには、芸術劇場の巨大なガラス屋根が見える。
あちこちに点々と寒そうなハトが羽を休めていた。
巨大な楽譜に打たれた無数の休止符のようだ。
最初にガラスの扉を押して店にはいってきたのは、目のまわりを青く腫らしたショウタだった。
そのあとにシゲユキとコウイチロウが続く。
シゲユキは最後まで直立不動でドアを押さえている。
丸岡は背の高い男だった。百九十センチ近くあるのではないだろうか。
擦りきれて穴の開いたジーンズは、デザイナーズブランドのユーズド加工ではなさそうだった。
裸の胸が見えるシャツは、軍服みたいなオリーブドラブ。ポケットが無数についたデザインだ。
なにより印象的なのは、やつの身体の線だった。
おれならこいつをデッサンするのは簡単だ。
マッチ棒を一本描いて、手足をつけて、それでおしまい。頬も目もあごのしたも、えぐりとったようにくぼんで、生気がない。
ショウタらおれに目で挨拶して、紹介する。
「こちらが丸岡さん、うちの学院の先輩です。」
やつはまったく表情を変えずに、スチールの座面を黒革で包んだ椅子に座った。
三人組もとなりのテーブルを寄せて、席を取った。
丸岡はウエイトレスにホットコーヒーを注文した。
誰もなにもいわない。
全員が丸岡が口を開くのを待っているのだ。
おれはじっとやつを観察していた。
きちんと話をするなら、マッドドッグの情報が少しでも多い方がいい。
コーヒーが届くと、丸岡は砂糖のポットを手元に引き寄せた。
ふたを取り、スプーンでグラニュー糖をいれる。
一杯、二杯。
そこまでは普通だった。
だが、やつの手はとまらない。五杯、六杯。
なにかのデモンストレーションなのだろうか。それにしては、やつは真剣に手元を見て、砂糖をコーヒーカップに移し続ける。
全部で十杯いれたところで、丸岡はかきまわしもせずに、コーヒーをひとくちすすった。
砂糖の入れすぎで、中身が縁からあふれそうだ。
やつは目を閉じて、ゆとくりと味わっているようだった。
しばらく考えて、もう二杯のグラニュー糖を足して。今度は満足そうにのむ。
どろどろに砂糖のとけた、熱いコーヒーを、ひと息で半分くらい喉に流し込んだのだ。
それを見ていたミノルが震えだした。
おれは正直なところ吐き気と闘っていた。
ミノルのような理性的なタイプには、丸岡のいかれた部分が怖くて仕方ないのだろう。
いかれた人間を見た数では、おれのほうが人生経験の分だけ有利だ。
まあ、何度見ても気分のいいものじゃないが、おれは大勢の三原学院の関係者同様、マッドドッグの意味するところを理解した。