ー特別編グレーゾーンボーイー
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子供はおれの横にたつと、したから四段目のアクリルケースを見上げた。
「このフィギュア、なあに」
おれが顔をむけると、グレイ霜降りの制帽のひさしがうえをさした。
東池袋にある名門、三原学院の校章が見える。
みっつのペン先が正三角形をつくるおなじみのやつだ。
小学校から高校までエスカレーター式であがれる私立の進学校である。
学費が高いのでも有名。
「知らないのか。ストリートファイターの春麗だ。格闘ゲームのヒロイン」
どこかのプロのモデラーがつくったフィギュアには七万を超える値札がついていた。
子供はふーんといって、ケースのなかを見ている。
半ズボンと金ボタンのジャケットに黒いランドセル。
きっと初等部なのだろう。
「このキャラでよく遊んだの」
小学校の高学年から中学にかけて、ゲーセンの格闘ゲームは熱かった。
いまとは比較にならない。
おれは余裕を見せていう。
「よく遊んだなんてもんじゃない。あちこちの街から腕に覚えのあるやつがゲーセンに集まって、トーナメントを開いたもんだ。」
「ああ、そう」
おれのわき腹くらいしか背のない子供が、細い黒縁の眼鏡を直していう。
カチンときたが、黙っているとやつは店員に声をかけた。
「すみません、このフィギュアください。」
カウンターのなかで新しいフィギュアにラップをかけていた店員がいそいそとやってきた。
「はい、七十二番ボックスでいいですか」
子供がうなずくと、腰にさげた鍵の束からおもちゃのような一本を選んで、アクリルケースを開けた。
ぴんと足を伸ばした春麗を慎重に取り出して、おれにいう。
「お支払は、お客様ですか」
とんでもない。
おれは七万なんて現金はバイトの給料日以外はもち歩いたことがない。
「おれはこの子とは無関係」
子供はおれの方を見上げて、にこりと笑った。
もてる者の余裕の笑顔。
おれはストリートファイターの悪の帝王、ベガのサイコクラッシャーをやつに見舞いたくなったが、無理して貧乏人の笑いを返した。
子供はいう。
「僕が払います。簡単に包んでくれればいいから」
やつはランドセルについた鎖を引っ張った。
同じ黒革の財布を開く。
おれは下品な好奇心に負けて中身をちらりとのぞいた。
一万円の紙幣が使用前の折り紙のようにきれいに整っている。
小太りのおたく店員がいった。
「レジにどうぞ」
グレイ霜降りの半ズボンの制服を着た子供は、おれに会釈するとうやうやしく春麗をかかげる店員のあとを澄ました顔でついていった。
わかるだろうか、おれたちの世界はいまやもてる者ともたざる者に引き裂かれているのだ。
恐るべき格差の時代である。
十八歳の大人のおれが、目の前で小学生に獲物をさらわれていく。
おれもなにかITビジネスを始めたほうがいいのかもしれない。
そうしたらフィギュアどころか、経営難のプロ球団やでかいメイドの描かれたビルを、丸々買えるかもしれない。
おれは宝くじを買うまえに、一億円の使い道を考えるタイプなのだ。
なんだか救われない話。
「このフィギュア、なあに」
おれが顔をむけると、グレイ霜降りの制帽のひさしがうえをさした。
東池袋にある名門、三原学院の校章が見える。
みっつのペン先が正三角形をつくるおなじみのやつだ。
小学校から高校までエスカレーター式であがれる私立の進学校である。
学費が高いのでも有名。
「知らないのか。ストリートファイターの春麗だ。格闘ゲームのヒロイン」
どこかのプロのモデラーがつくったフィギュアには七万を超える値札がついていた。
子供はふーんといって、ケースのなかを見ている。
半ズボンと金ボタンのジャケットに黒いランドセル。
きっと初等部なのだろう。
「このキャラでよく遊んだの」
小学校の高学年から中学にかけて、ゲーセンの格闘ゲームは熱かった。
いまとは比較にならない。
おれは余裕を見せていう。
「よく遊んだなんてもんじゃない。あちこちの街から腕に覚えのあるやつがゲーセンに集まって、トーナメントを開いたもんだ。」
「ああ、そう」
おれのわき腹くらいしか背のない子供が、細い黒縁の眼鏡を直していう。
カチンときたが、黙っているとやつは店員に声をかけた。
「すみません、このフィギュアください。」
カウンターのなかで新しいフィギュアにラップをかけていた店員がいそいそとやってきた。
「はい、七十二番ボックスでいいですか」
子供がうなずくと、腰にさげた鍵の束からおもちゃのような一本を選んで、アクリルケースを開けた。
ぴんと足を伸ばした春麗を慎重に取り出して、おれにいう。
「お支払は、お客様ですか」
とんでもない。
おれは七万なんて現金はバイトの給料日以外はもち歩いたことがない。
「おれはこの子とは無関係」
子供はおれの方を見上げて、にこりと笑った。
もてる者の余裕の笑顔。
おれはストリートファイターの悪の帝王、ベガのサイコクラッシャーをやつに見舞いたくなったが、無理して貧乏人の笑いを返した。
子供はいう。
「僕が払います。簡単に包んでくれればいいから」
やつはランドセルについた鎖を引っ張った。
同じ黒革の財布を開く。
おれは下品な好奇心に負けて中身をちらりとのぞいた。
一万円の紙幣が使用前の折り紙のようにきれいに整っている。
小太りのおたく店員がいった。
「レジにどうぞ」
グレイ霜降りの半ズボンの制服を着た子供は、おれに会釈するとうやうやしく春麗をかかげる店員のあとを澄ました顔でついていった。
わかるだろうか、おれたちの世界はいまやもてる者ともたざる者に引き裂かれているのだ。
恐るべき格差の時代である。
十八歳の大人のおれが、目の前で小学生に獲物をさらわれていく。
おれもなにかITビジネスを始めたほうがいいのかもしれない。
そうしたらフィギュアどころか、経営難のプロ球団やでかいメイドの描かれたビルを、丸々買えるかもしれない。
おれは宝くじを買うまえに、一億円の使い道を考えるタイプなのだ。
なんだか救われない話。