ー特別編ー野獣とユニオン
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「それをすべて受け入れたうえで、おまえに今からなにができるのか、考えろ。時間はやる。おれたちはいつまででも、おまえのこたえを待つ」
さすがに池袋のガキの王だった。
それからの時間は、不思議と濃密な流れになった。
蜂蜜がしたたり落ちるような二十五分間。
そのあいだエイジは目からは涙を、額と首筋には汗を流しながら、椅子のうえで姿勢をただして考え続けた。
だが、その部屋で最初に口を開いたのはヒロである。これ以上はないほどかすかな声で、被害者はいう。
「いつもきみのことを想像していた。黒い影だったり、野獣のような怒りの顔だったり、ときには映画で観たばかりの悪役だったりした。こんなひどいことをするのは、きっと人間ではないと信じていた。でも、さっききみがこの部屋にはいってきたときにわかった。きみも、ぼくと同じ人間だった。同じように恐れているものがあり、くやしい思いをしている。こうなりたいという夢があって、自分のことを心の底から理解してもらいたいと願っている。きみはケダモノではなく、人間だった。」
途中で音川はたまらなくなったようだった。
吠えるように声をあげて泣き出した。
ヒロがジャケットの内ポケットに手をいれた。
「実はこんなことだろうと思って、今日はこんなものをもってきた」
それは握りが木製のペティナイフだった。
野菜や果物の細工につかうやつだ。
よく研いであるようだ。
花曇りの空のように光っている。
ヒロは穏やかな目をおれに向ける。
「ぼくもこの街にすんでるから、有名なトラブルシューターの名前くらいきいたことはある。料理の腕をほめてもらってうれしかったよ、悠くん」
テーブルの中央にナイフをおいて、ヒロは泣いている音川を見た。
「きみの罪は消えることはないだろう。でも、ぼくはきみという人間を許すことにする」
チヒロがとなりで叫んでいた。
「ほんとうにそれでいいの、お兄ちゃん!」
ヒロは強靭な笑みをみせて、テーブルに手をさしだした。
地上最強なんて格闘技の中継できくと、おれは今でも笑ってしまう。
あんなものはまだまだ底が浅い。
おれは地上最強の笑顔を見たことがあるんだからな。
ヒロは笑みをふくんだ声でいった。
「いいんだ。いつまでも、君を憎んでいたら、ぼくの明日がはじまらない。握手だ」
音川は鼻をすすりながら、手を伸ばした。
涙をこらえるのにぐったり疲れたおれを、ガキの王が笑ってみている。
またいいからかいのネタにされるだろう。
だが、おれは別にそんなことは気にしなかった。
だってつぎの瞬間には、床にひざをつき音川が頭をさげて、ヒロの手をとったのだ。
それはこの春、おれが目撃した一番見事な場面だった。窓の外では新緑とサクラの花が揺れている。
引き裂かれた心だって繋がることもある。
春がまためぐってくるように、おれたちの心には自分自身の傷を修復しようという自然の治癒力があるはずなのだ。
そうでなければ、心なんて不便なものを、誰が一生もって歩くというのだろうか。
さすがに池袋のガキの王だった。
それからの時間は、不思議と濃密な流れになった。
蜂蜜がしたたり落ちるような二十五分間。
そのあいだエイジは目からは涙を、額と首筋には汗を流しながら、椅子のうえで姿勢をただして考え続けた。
だが、その部屋で最初に口を開いたのはヒロである。これ以上はないほどかすかな声で、被害者はいう。
「いつもきみのことを想像していた。黒い影だったり、野獣のような怒りの顔だったり、ときには映画で観たばかりの悪役だったりした。こんなひどいことをするのは、きっと人間ではないと信じていた。でも、さっききみがこの部屋にはいってきたときにわかった。きみも、ぼくと同じ人間だった。同じように恐れているものがあり、くやしい思いをしている。こうなりたいという夢があって、自分のことを心の底から理解してもらいたいと願っている。きみはケダモノではなく、人間だった。」
途中で音川はたまらなくなったようだった。
吠えるように声をあげて泣き出した。
ヒロがジャケットの内ポケットに手をいれた。
「実はこんなことだろうと思って、今日はこんなものをもってきた」
それは握りが木製のペティナイフだった。
野菜や果物の細工につかうやつだ。
よく研いであるようだ。
花曇りの空のように光っている。
ヒロは穏やかな目をおれに向ける。
「ぼくもこの街にすんでるから、有名なトラブルシューターの名前くらいきいたことはある。料理の腕をほめてもらってうれしかったよ、悠くん」
テーブルの中央にナイフをおいて、ヒロは泣いている音川を見た。
「きみの罪は消えることはないだろう。でも、ぼくはきみという人間を許すことにする」
チヒロがとなりで叫んでいた。
「ほんとうにそれでいいの、お兄ちゃん!」
ヒロは強靭な笑みをみせて、テーブルに手をさしだした。
地上最強なんて格闘技の中継できくと、おれは今でも笑ってしまう。
あんなものはまだまだ底が浅い。
おれは地上最強の笑顔を見たことがあるんだからな。
ヒロは笑みをふくんだ声でいった。
「いいんだ。いつまでも、君を憎んでいたら、ぼくの明日がはじまらない。握手だ」
音川は鼻をすすりながら、手を伸ばした。
涙をこらえるのにぐったり疲れたおれを、ガキの王が笑ってみている。
またいいからかいのネタにされるだろう。
だが、おれは別にそんなことは気にしなかった。
だってつぎの瞬間には、床にひざをつき音川が頭をさげて、ヒロの手をとったのだ。
それはこの春、おれが目撃した一番見事な場面だった。窓の外では新緑とサクラの花が揺れている。
引き裂かれた心だって繋がることもある。
春がまためぐってくるように、おれたちの心には自分自身の傷を修復しようという自然の治癒力があるはずなのだ。
そうでなければ、心なんて不便なものを、誰が一生もって歩くというのだろうか。