ー特別編ー野獣とユニオン
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音川はチヒロがいったことの意味がよくわからないようだった。
おれはなるべく感情の混ざらない声でいった。
「エイジ、おまえがひざを踏んだせいで、ヒロはいまだに杖をつかなきゃ歩けない。長時間立っていることもできない。勤めていたレストランは辞職したんだ。」
おれは目をあげた。
おおきな窓のわきにタカシがもたれて、無関心に外を見ている。
新緑を背にした白い革のブルゾンが妙にきれいだった。
音川はテーブルに立て掛けられた金属の杖に目をやる。
初めて自分が相手にあたえたダメージを理解したようだった。
ただ重傷といわれただけでは、ほんとうの傷はわからないのだ。
なにかを芯から理解するには、おれたちにはストーリーが必要だ。
ふたりだけで生きてきた幼い兄妹の夢。
そいつが一瞬で奪われる。
音川は自分の右ひざに目を落としていた。
その足が一年前になにをしたのか。今度はやつの全身が震えだす。
「知らなかった。ぼくは人に暴力を振るったのは、あるが初めてだったんです。ヒロさんをなぐってから、反撃されるだろうと怖くなって、夢中で踏んでしまった。全治三ヶ月と少年院できいて、怖くなったのを覚えてます。ごめんなさい。いつか、ちゃんと働いたら、すこしずつでも償いはしますから。」
音川の身体は小刻みに震え続けている。
チヒロはそれでも追い詰める手を休めなかった。
「嘘つき。わたしはあんたの生活を知ってる。少年院をでてから、毎日ぶらぶらしてるだけ、働く気なんかないし、ゲーセンにいりびたってるじゃないか。あんたなんか人間のクズだ!」
「違います。そんなのじゃない」
頭をさげ続けていた音川が、初めて反論した。
だが、チヒロにむいた視線はすぐにテーブルに落ちてしまう。
「ぼくの経歴には傷がついてしまった。もうダメだっていう気持ちがあって、ほかの人と話せないんです。少年院のなかよりも、外にでて人と話すほうがずっとむずかしい。こちらの世界に出てきたら、なにもかも高い壁になっていて、それが越えられない。」
今度はヒロが静かにいった。
「だったら、どうする。そのままつぎの犯罪を重ねて、成人用の刑務所にでもいくのか」
音川はぼろぼろと涙を落として泣き出した。
「だからわからないんです。これからどうしたらいいか。どこにいっても、ぼくはいじめられるし、長野の少年院はひどいところだった。あそこは監視が厳しいだけでなくて、お互い同士がみんな敵なんです。ずっと誰もがいじめあっている」
おれは柏の言葉を思い出していた。
悪ガキが放り込まれてぺちゃんこになってでてくる模範的な少年院の話だ。
そのときタカシが氷のような声でいった。
「誰もおまえには同情はしない。おまえの罪は消えない。ヒロの足も二度と元にもどることはない。それがよくわかったか」
さすがにキングのひと言は強力だった。
音川は吠えるように返事をする。
「はいっ…」
おれはなるべく感情の混ざらない声でいった。
「エイジ、おまえがひざを踏んだせいで、ヒロはいまだに杖をつかなきゃ歩けない。長時間立っていることもできない。勤めていたレストランは辞職したんだ。」
おれは目をあげた。
おおきな窓のわきにタカシがもたれて、無関心に外を見ている。
新緑を背にした白い革のブルゾンが妙にきれいだった。
音川はテーブルに立て掛けられた金属の杖に目をやる。
初めて自分が相手にあたえたダメージを理解したようだった。
ただ重傷といわれただけでは、ほんとうの傷はわからないのだ。
なにかを芯から理解するには、おれたちにはストーリーが必要だ。
ふたりだけで生きてきた幼い兄妹の夢。
そいつが一瞬で奪われる。
音川は自分の右ひざに目を落としていた。
その足が一年前になにをしたのか。今度はやつの全身が震えだす。
「知らなかった。ぼくは人に暴力を振るったのは、あるが初めてだったんです。ヒロさんをなぐってから、反撃されるだろうと怖くなって、夢中で踏んでしまった。全治三ヶ月と少年院できいて、怖くなったのを覚えてます。ごめんなさい。いつか、ちゃんと働いたら、すこしずつでも償いはしますから。」
音川の身体は小刻みに震え続けている。
チヒロはそれでも追い詰める手を休めなかった。
「嘘つき。わたしはあんたの生活を知ってる。少年院をでてから、毎日ぶらぶらしてるだけ、働く気なんかないし、ゲーセンにいりびたってるじゃないか。あんたなんか人間のクズだ!」
「違います。そんなのじゃない」
頭をさげ続けていた音川が、初めて反論した。
だが、チヒロにむいた視線はすぐにテーブルに落ちてしまう。
「ぼくの経歴には傷がついてしまった。もうダメだっていう気持ちがあって、ほかの人と話せないんです。少年院のなかよりも、外にでて人と話すほうがずっとむずかしい。こちらの世界に出てきたら、なにもかも高い壁になっていて、それが越えられない。」
今度はヒロが静かにいった。
「だったら、どうする。そのままつぎの犯罪を重ねて、成人用の刑務所にでもいくのか」
音川はぼろぼろと涙を落として泣き出した。
「だからわからないんです。これからどうしたらいいか。どこにいっても、ぼくはいじめられるし、長野の少年院はひどいところだった。あそこは監視が厳しいだけでなくて、お互い同士がみんな敵なんです。ずっと誰もがいじめあっている」
おれは柏の言葉を思い出していた。
悪ガキが放り込まれてぺちゃんこになってでてくる模範的な少年院の話だ。
そのときタカシが氷のような声でいった。
「誰もおまえには同情はしない。おまえの罪は消えない。ヒロの足も二度と元にもどることはない。それがよくわかったか」
さすがにキングのひと言は強力だった。
音川は吠えるように返事をする。
「はいっ…」