ー特別編ー野獣とユニオン
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「どうして、ぼくを襲った。あの金はなんのために必要だったんだ。なぐられて倒れているぼくのひざをなぜ踏みつけた。おまえのおかげで、こっちは夢だった調理師の仕事も辞めたんだぞ」
音川は助けを求めるように、おれを見た。
つぎにタカシ、そしてボディガードのふたり。
誰も助けてくれないとわかると、ようやく口を開いた。
「すみません。誰でもよかったです。ぼくは中学時代からずっと同じメンツにいじめられていて、あの次の日が集金日だった。せめて五千円くらいもっていかないと、外からわからないところをなぐられる。怖かったんです。ごめんなさい」
音川はまっすぐにヒロの顔を見ることができないようだった。
おれは窓の外に目をやった。
緑は人間たちのいさかいに関係なく風に揺れている。もうおれが背中を押す必要はないようだった。
ヒロの声がおおきくなった。
「ふざけるな。自分がかわいいから、人を襲ったんだろ。今度は他人のせいにするのか」
音川の目は無垢材のテーブルのうえをさまよった。
木目のなかにこたえでも探すように。
「いじめられていたのは、ほんとうです。うちは母親が十歳のときに死んで、それからずっと父親とふたりきりでした。小学五年生のときに、いじめが始まったんです」
音川の声は消え入りそうだった。おれはそっという。
「どんなふうにいわれたんだ」
初めて音川が目をあげた。おれを見てから、ヒロを見る。
目が血走っているのがわかった。
「いつも同じ格好をしてる。汚れたシャツを着たくさいやつ……そういわれてました」
カフェの二階の個室は静まり返った。
だが、チヒロは勇敢だった。
「それがどうしたの。うちなんか、もっとひどかったよ。両親が事故で死んだのは、わたしが十一歳のとき。それから、あちこち親戚のあいだをたらいまわしだった」
チヒロが泣いている。
「あんたになにがわかるの。わたしはあんたと同じ小学五年生で、転校ばかりしていた。どの学校にいっても、親がいないことなんか、すぐばれちゃうんだ。でも、わたしは負けなかったよ。なんでだか、わかる」
チヒロはテーブルのうえで両方のこぶしを、白くなるほどにぎっていた。
「毎週日曜日には、お兄ちゃんに会えて、それでいつも簡単な料理を作ってくれたからだよ。目玉焼きやソーセージ炒めやインスタントラーメン。それで十分だった。いつかふたりでお金をためて、お店をやろう。どんなに悲しんでいる人がきても、きっと笑顔で帰っていくようなお店をつくろう。それがわたしたち兄妹の夢だったんだ。それをあんたが奪った」
途中で我慢できなくなったようだった。
ヒロが鼻をすすっている。
音川は助けを求めるように、おれを見た。
つぎにタカシ、そしてボディガードのふたり。
誰も助けてくれないとわかると、ようやく口を開いた。
「すみません。誰でもよかったです。ぼくは中学時代からずっと同じメンツにいじめられていて、あの次の日が集金日だった。せめて五千円くらいもっていかないと、外からわからないところをなぐられる。怖かったんです。ごめんなさい」
音川はまっすぐにヒロの顔を見ることができないようだった。
おれは窓の外に目をやった。
緑は人間たちのいさかいに関係なく風に揺れている。もうおれが背中を押す必要はないようだった。
ヒロの声がおおきくなった。
「ふざけるな。自分がかわいいから、人を襲ったんだろ。今度は他人のせいにするのか」
音川の目は無垢材のテーブルのうえをさまよった。
木目のなかにこたえでも探すように。
「いじめられていたのは、ほんとうです。うちは母親が十歳のときに死んで、それからずっと父親とふたりきりでした。小学五年生のときに、いじめが始まったんです」
音川の声は消え入りそうだった。おれはそっという。
「どんなふうにいわれたんだ」
初めて音川が目をあげた。おれを見てから、ヒロを見る。
目が血走っているのがわかった。
「いつも同じ格好をしてる。汚れたシャツを着たくさいやつ……そういわれてました」
カフェの二階の個室は静まり返った。
だが、チヒロは勇敢だった。
「それがどうしたの。うちなんか、もっとひどかったよ。両親が事故で死んだのは、わたしが十一歳のとき。それから、あちこち親戚のあいだをたらいまわしだった」
チヒロが泣いている。
「あんたになにがわかるの。わたしはあんたと同じ小学五年生で、転校ばかりしていた。どの学校にいっても、親がいないことなんか、すぐばれちゃうんだ。でも、わたしは負けなかったよ。なんでだか、わかる」
チヒロはテーブルのうえで両方のこぶしを、白くなるほどにぎっていた。
「毎週日曜日には、お兄ちゃんに会えて、それでいつも簡単な料理を作ってくれたからだよ。目玉焼きやソーセージ炒めやインスタントラーメン。それで十分だった。いつかふたりでお金をためて、お店をやろう。どんなに悲しんでいる人がきても、きっと笑顔で帰っていくようなお店をつくろう。それがわたしたち兄妹の夢だったんだ。それをあんたが奪った」
途中で我慢できなくなったようだった。
ヒロが鼻をすすっている。