ー特別編ー野獣とユニオン
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「この底にたまった砂糖が案外うまいな。ぼくが甘いのかもしれないけど、相手を人間じゃないものにして、恐れたり憎んだりし続けるのは、きっと自分の心のためによくないと思う。シェフにはなれなくなったけど、きっとぼくにはほかにもできることがあるはずだ。憎しみの場所にいつまでも立っていたくない。まだあいつが憎いけど、それを越えていきたい」
おれは立派な人間というのがどんなものか、そのときに教えられたのだと思う。人間が野獣に対するとき、どんな態度がもっとも人間的なのか。
憎しみを返すために棒でたたくか。
目を見て話をするか。
実はそれが、あんた自身をケダモノと人間に分ける細くかすかな線なのだ。
おれはヒロの目を見ていった。
「わかりました。おれにできることなら、なんでも手伝いますから」
チヒロから電話があったのは、週が変わった火曜日の夜十時すぎだった。
その時間ではまだおれはブラブラしている。
それどころか、もうすぐ最高潮に元気になる時だ。
今だって友人である優希ちゃんを捕まえてキャッチの多い風俗街を連れまわしてからかっている。
『悠さん』
最初から悲鳴のような声だった。
夜風が携帯のむこうで鳴った。
「どこからかけてるんだ」
「うちから。うちのバルコニーから。お兄ちゃんの様子がおかしくなった。」
ピンクのハッピを着た呼びこみが声をかけてきたが、ちょっと待つように言った。
あの日のヒロの様子からは、おかしくなるなんて想像できなかった。
やつは心底立派だったのだ。
「どんなふうに」
『帰ってきてから、ずっと庖丁を研いでるの。うちにあるのを全部並べて、ぶづぶついいながら。わたし、キッチンの外で聞いたんだ。やつがいた、やつがいた、やつがいた』
おれの方まで悲鳴になりそうだった。
「音川にあったのか」
『確かめてないけど、たぶんそうだと思う。』
どんな立派なでも、人の心は揺れるものだ。
ああして憎しみを越えたいといったヒロも音川を見て、気持ちを押えられなくなったのかもしれない。
「じゃあ、もう時間がないな」
『どうするつもり、悠さん』
「このまえ、兄さんがいってたな」
『直接目を見て話し合うっていうの。そんなの不可能だよ』
不可能かどうかはやってみるまでわからない。
それに、諦める方にエネルギーを向けるくらいなら少しはいける方へ向けたらいいのだ。
しないで後悔するより、して後悔する。
「明日、動いてみる。音川に接触する。」
『でも、どうやってお兄ちゃんに会わせるの。向こうは罪を償ってるんだよ。無理に会わせることなんてできないじゃない』
「いいや、おれに考えがある。」
通話を切った。
おれはひどく真剣な顔をしていたのだろう。
呼び込みの兄ちゃんは低姿勢でお辞儀していた。
優希がいった。
「悠、またなにかやってるのか?」
「ああ、被害者とケダモノと真の悪人と被害者の妹とが絡み合っててその糸をきったり繋げたりしようとしながら、正義とやらを裁判してるところだ」
「……なんだそれ?」
お手上げのポーズをとった。
だって、おれにだってまったく分からないんだからな。
おれは立派な人間というのがどんなものか、そのときに教えられたのだと思う。人間が野獣に対するとき、どんな態度がもっとも人間的なのか。
憎しみを返すために棒でたたくか。
目を見て話をするか。
実はそれが、あんた自身をケダモノと人間に分ける細くかすかな線なのだ。
おれはヒロの目を見ていった。
「わかりました。おれにできることなら、なんでも手伝いますから」
チヒロから電話があったのは、週が変わった火曜日の夜十時すぎだった。
その時間ではまだおれはブラブラしている。
それどころか、もうすぐ最高潮に元気になる時だ。
今だって友人である優希ちゃんを捕まえてキャッチの多い風俗街を連れまわしてからかっている。
『悠さん』
最初から悲鳴のような声だった。
夜風が携帯のむこうで鳴った。
「どこからかけてるんだ」
「うちから。うちのバルコニーから。お兄ちゃんの様子がおかしくなった。」
ピンクのハッピを着た呼びこみが声をかけてきたが、ちょっと待つように言った。
あの日のヒロの様子からは、おかしくなるなんて想像できなかった。
やつは心底立派だったのだ。
「どんなふうに」
『帰ってきてから、ずっと庖丁を研いでるの。うちにあるのを全部並べて、ぶづぶついいながら。わたし、キッチンの外で聞いたんだ。やつがいた、やつがいた、やつがいた』
おれの方まで悲鳴になりそうだった。
「音川にあったのか」
『確かめてないけど、たぶんそうだと思う。』
どんな立派なでも、人の心は揺れるものだ。
ああして憎しみを越えたいといったヒロも音川を見て、気持ちを押えられなくなったのかもしれない。
「じゃあ、もう時間がないな」
『どうするつもり、悠さん』
「このまえ、兄さんがいってたな」
『直接目を見て話し合うっていうの。そんなの不可能だよ』
不可能かどうかはやってみるまでわからない。
それに、諦める方にエネルギーを向けるくらいなら少しはいける方へ向けたらいいのだ。
しないで後悔するより、して後悔する。
「明日、動いてみる。音川に接触する。」
『でも、どうやってお兄ちゃんに会わせるの。向こうは罪を償ってるんだよ。無理に会わせることなんてできないじゃない』
「いいや、おれに考えがある。」
通話を切った。
おれはひどく真剣な顔をしていたのだろう。
呼び込みの兄ちゃんは低姿勢でお辞儀していた。
優希がいった。
「悠、またなにかやってるのか?」
「ああ、被害者とケダモノと真の悪人と被害者の妹とが絡み合っててその糸をきったり繋げたりしようとしながら、正義とやらを裁判してるところだ」
「……なんだそれ?」
お手上げのポーズをとった。
だって、おれにだってまったく分からないんだからな。