ー特別編ー野獣とユニオン
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「でも、もう店をだす夢はなくなったの」
「なぜ」
「調理師って立ち仕事でしょう。うちのお兄ちゃんは、あの事件のせいで三時間以上連続して立っていることはできないんだ。ひざのお皿は粉々に割れて、いまでもチタンのワイヤーでつなげてある、」
おれは焦げ目のついたズッキーニを口に放り込んだ。
絶妙な焼き加減。
口のなかに残る塩味が悲しかった。
チヒロが復讐したくなるのも無理はない。
イタリアンの店を出すのは、兄だけの夢ではなかったのだろう。
チヒロも懸命に貯金をしていたはずだ。
おれの脳裏に、腹を殴られてしゃがみこむ音川の顔が浮かんだ。
なぜ、俺たちの世界では不幸な者同士が、おたがいの夢を壊しあうのだろうか。
ヒロが用意したのはフレシュバジルとササミのパスタだった。
メインディッシュは子羊の骨付きローストだ。
俺はちいさな肋骨についた最後の肉まで歯でせせって、食事を終えた。
すでに満腹感はK点を越えている。
マシンでいれたエスプレッソを飲みながら、食後の会話が始まった。
おれはまっすぐに切り込んだ。
「足のこと、チヒロさんからききました。ひどいことをするやつがいるもんですね」
ヒロの表情が曇った。
それまでは親代わりで妹のボーイフレンドを迎えた理想的な兄の役を演じていたのかもしれない。
「そうだな。おかげで、店を辞めなきゃならなくなった。医者には痛みは一生とれないだろうといわれてる」
チヒロは軽く酔った顔で、兄とおれを交互に見ていた。
「もしその男に会ったら、ヒロさんならどうしますか」
ヒロはデミタスカップの底に残った泥水のようなコーヒーをのぞきこんだ。
しばらく返事がない。
「わからない。最初のころは、刑務所送りになってもいいから、刺し殺してやろうと思っていた。でも、そんなことをしたら、社会的には自殺するのと同じだから」
わからないのはおれも同じだった。
チヒロがいう。
「わたしはやっぱりくやしいよ。人の一生の夢を奪っても、すぐ少年院から帰ってこられるなんて、絶対におかしい」
そのときだった。
ヒロがぽつりといったのだ。
「直接あって、目と目を見て話したら、すこしは気分が変わるかもしれない」
チヒロとおれの返事はほぼ同時。
「どうして」
「ぼくたちはよく犯罪者のことを、あんなのは人間じゃないといういいかたをするね。もちろん、どうしょうもないケダモノがいるのは確かだけど、みんながそいだとは限らない。ぼくを襲った相手が、理解不可能なケダモノでなく人間だとわかれば、憎しみの気持ちが変わるような気がするんだ」
そこでヒロはエスプレッソの最後の一口を流し込んだ。
「なぜ」
「調理師って立ち仕事でしょう。うちのお兄ちゃんは、あの事件のせいで三時間以上連続して立っていることはできないんだ。ひざのお皿は粉々に割れて、いまでもチタンのワイヤーでつなげてある、」
おれは焦げ目のついたズッキーニを口に放り込んだ。
絶妙な焼き加減。
口のなかに残る塩味が悲しかった。
チヒロが復讐したくなるのも無理はない。
イタリアンの店を出すのは、兄だけの夢ではなかったのだろう。
チヒロも懸命に貯金をしていたはずだ。
おれの脳裏に、腹を殴られてしゃがみこむ音川の顔が浮かんだ。
なぜ、俺たちの世界では不幸な者同士が、おたがいの夢を壊しあうのだろうか。
ヒロが用意したのはフレシュバジルとササミのパスタだった。
メインディッシュは子羊の骨付きローストだ。
俺はちいさな肋骨についた最後の肉まで歯でせせって、食事を終えた。
すでに満腹感はK点を越えている。
マシンでいれたエスプレッソを飲みながら、食後の会話が始まった。
おれはまっすぐに切り込んだ。
「足のこと、チヒロさんからききました。ひどいことをするやつがいるもんですね」
ヒロの表情が曇った。
それまでは親代わりで妹のボーイフレンドを迎えた理想的な兄の役を演じていたのかもしれない。
「そうだな。おかげで、店を辞めなきゃならなくなった。医者には痛みは一生とれないだろうといわれてる」
チヒロは軽く酔った顔で、兄とおれを交互に見ていた。
「もしその男に会ったら、ヒロさんならどうしますか」
ヒロはデミタスカップの底に残った泥水のようなコーヒーをのぞきこんだ。
しばらく返事がない。
「わからない。最初のころは、刑務所送りになってもいいから、刺し殺してやろうと思っていた。でも、そんなことをしたら、社会的には自殺するのと同じだから」
わからないのはおれも同じだった。
チヒロがいう。
「わたしはやっぱりくやしいよ。人の一生の夢を奪っても、すぐ少年院から帰ってこられるなんて、絶対におかしい」
そのときだった。
ヒロがぽつりといったのだ。
「直接あって、目と目を見て話したら、すこしは気分が変わるかもしれない」
チヒロとおれの返事はほぼ同時。
「どうして」
「ぼくたちはよく犯罪者のことを、あんなのは人間じゃないといういいかたをするね。もちろん、どうしょうもないケダモノがいるのは確かだけど、みんながそいだとは限らない。ぼくを襲った相手が、理解不可能なケダモノでなく人間だとわかれば、憎しみの気持ちが変わるような気がするんだ」
そこでヒロはエスプレッソの最後の一口を流し込んだ。