ー特別編ー野獣とユニオン
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尾行を終えた春の夜、おれは自分の部屋からチヒロに電話した。
窓は開けっ放してある。
『はい……』
ためらうようなチヒロの声。
「今日もやつを張ったよ。」
『お疲れさま』
窓からはいる風は排気ガスくさいが、確かなやわらかさがあった。
「このままじゃあ、事態がぜんぜん動かなくなっちまう。なあ、おれ、チヒロの兄さんにあって話をしてみてもいいかな」
『どうして』
「そっちの気持ちはわかったけど、兄さんのほうはまだだ。それにもしおれがチヒロの兄貴なら、自分のことを全部はずして動かれたら、きっと嫌な気分になる」
しばらく返事はなかった。夜の街の音が聞こえる。
携帯から流れるのか、窓の外の音か、おれにはよくわからなかった。
『いいよ、わたしの友人ということで、悠さんを今度紹介する。でも、あのケダモノの話は絶対にしちゃダメだよ。』
「どうしてだ」
『お兄ちゃん、知らないんだ。あの音川がこの街に帰ってきてるって。わかったら、なにするかわからないもの。あいつを先に見つけたのがわたしでよかったよ』
「そうか」
言葉がなかった。
チヒロは無理に元気を出していった。
『じゃあさ、今度の土曜日にうちに招待するから、遊びに来てよ。新しいボーイフレンドっていうことにするから』
おれはふざけていった。
「なら、スーツにネクタイでビシッと決めないとな。」
『似合わない格好はしないほうがいいんじゃないの。じゃあ』
ばっさりとスーツ姿のおれを切り捨てて、通話が終わった。
ネクタイを締めたおれがどんなにいけてるか、チヒロにはわからないのだ。
想像力のない女。
土曜日の十二時、おれはミッドナイトブルーのスーツに白いシャツ、髪は自然体に結って、平和通りの先にあるマンションを訪れた。
築二十年を超えた、中古マンションという印象。
真っ青なタイルがバルコニーに張ってあったが、一点豪華主義が妙になつかしかった。
三階でエレベーターをおりて、スチールの扉のまえにたつ。
シャツの襟元を直し、胸に白いバラの花束(といってもやたら高いので五本だけ)をあげて、チャイムを鳴らす。
ばたばたと廊下をかけてくる音がして、ドアが開いた。
チヒロがジーンズにパーカ姿でたっている。
俺のファッションを見て、目を丸くした。
こいつはエルメネジルド・ゼニアのオーダーメイドで超高級スーツなのだ。
もっとも金を払ったのは、おれじゃないけどね。
池袋のというより、ミラノの悠という印象だ。
「お招きにあずかりまして、ありがとうございます。」
チヒロのうしろによく似た顔の男が立った。
こいつが兄のヒロなのだろう。
窓は開けっ放してある。
『はい……』
ためらうようなチヒロの声。
「今日もやつを張ったよ。」
『お疲れさま』
窓からはいる風は排気ガスくさいが、確かなやわらかさがあった。
「このままじゃあ、事態がぜんぜん動かなくなっちまう。なあ、おれ、チヒロの兄さんにあって話をしてみてもいいかな」
『どうして』
「そっちの気持ちはわかったけど、兄さんのほうはまだだ。それにもしおれがチヒロの兄貴なら、自分のことを全部はずして動かれたら、きっと嫌な気分になる」
しばらく返事はなかった。夜の街の音が聞こえる。
携帯から流れるのか、窓の外の音か、おれにはよくわからなかった。
『いいよ、わたしの友人ということで、悠さんを今度紹介する。でも、あのケダモノの話は絶対にしちゃダメだよ。』
「どうしてだ」
『お兄ちゃん、知らないんだ。あの音川がこの街に帰ってきてるって。わかったら、なにするかわからないもの。あいつを先に見つけたのがわたしでよかったよ』
「そうか」
言葉がなかった。
チヒロは無理に元気を出していった。
『じゃあさ、今度の土曜日にうちに招待するから、遊びに来てよ。新しいボーイフレンドっていうことにするから』
おれはふざけていった。
「なら、スーツにネクタイでビシッと決めないとな。」
『似合わない格好はしないほうがいいんじゃないの。じゃあ』
ばっさりとスーツ姿のおれを切り捨てて、通話が終わった。
ネクタイを締めたおれがどんなにいけてるか、チヒロにはわからないのだ。
想像力のない女。
土曜日の十二時、おれはミッドナイトブルーのスーツに白いシャツ、髪は自然体に結って、平和通りの先にあるマンションを訪れた。
築二十年を超えた、中古マンションという印象。
真っ青なタイルがバルコニーに張ってあったが、一点豪華主義が妙になつかしかった。
三階でエレベーターをおりて、スチールの扉のまえにたつ。
シャツの襟元を直し、胸に白いバラの花束(といってもやたら高いので五本だけ)をあげて、チャイムを鳴らす。
ばたばたと廊下をかけてくる音がして、ドアが開いた。
チヒロがジーンズにパーカ姿でたっている。
俺のファッションを見て、目を丸くした。
こいつはエルメネジルド・ゼニアのオーダーメイドで超高級スーツなのだ。
もっとも金を払ったのは、おれじゃないけどね。
池袋のというより、ミラノの悠という印象だ。
「お招きにあずかりまして、ありがとうございます。」
チヒロのうしろによく似た顔の男が立った。
こいつが兄のヒロなのだろう。