ー特別編ー野獣とユニオン
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十一桁の数字を書き写す。これだから女は怖い。
うかつに女に電話番号を教えるのはやめようと、おれは固く心に誓った。
そのすぐあとに、携帯の番号を交換する。
……いっとくけど、これは仕事だからな。
おれのほうに転送された栄治の顔を確かめた。
短く立ち上がった金色の短髪。顔は浅黒く、ごつごつと岩のような印象。
目は細く、肌が荒れていた。
ひび割れた唇に血をにじませて、やつはぎこちなく笑っている。
野獣は外見ではわからないものだ。
おれはこの男がどんな顔をして、チヒロの兄を襲ったのか想像しようとした。
お手上げ。
人には自分でさえわからない無数の顔があって、他人にはそのうちのいくつかを知ることさえ絶望的に困難なのだ。
そいつは、おれが何年かストリートのトラブルを扱って、ようやくわかったことのひとつ。
まぁ、おれの場合、ぜんぜんスキルアップなんてしないんだけどね。
フレッシュメロンジュースもすっかりぬるくなっていた。
レジの横には入店を待つ客もいる。
最後におれは聞いた。
「なあ、チヒロ、ほんとにまだこのエイジって男の足を壊したいのか。そんなことしたら、そっちまでこのケダモノと同じ位置におりることになるんだぞ。よく考えて答えてくれ。」
チヒロはじっと空になったカクテルグラスをのぞきこんだ。
おれはゆっくりと待つ。
誰かが真剣に考えている時間とともにすごし、たっぷりと待つ。
おれはそんな時間が嫌いではない。
みんな答えを急ぎすぎなのだ。
自分自身にうなずきかけて、チヒロはいった。
「やっぱり、お兄ちゃんの苦しみをあのケダモノにもあたえてやりたい。よくわからないところもあるかな。だけど、ひとつだけは絶対に確か。それはね、悠さん」
チヒロは目に力を集めて、ななめうえにある俺の顔にビームを放出する。
人の思いを託した強力な光線だ。
それは一時間前には見ず知らずだった心を結ぶほどの力があった。
「このままでは、いけないっていうこと。わたしはなにかできることをしなくちゃいけないし、そうしなければ満足できないだろうって思う。これは兄のためでもあるし、わたし自身の問題でもある。それにね、おおげさにいったら、この世界全体の問題なの。このままで終わるなら、わたしは世界を信じられなくなる。だから……」
おれはISPの販売ウーマンの言葉に胸を動かされていた。
ついいらぬ口を挟んでしまう。
「だから、どうしたい?」
チヒロはすべてを受け入れた静かな声でいった。
「必要なら、あのケダモノの足を壊してほしい。」
おれは心のなかでため息をついたが、おしゃれなフルーツパーラーには、少しも漏らさなかった。
うかつに女に電話番号を教えるのはやめようと、おれは固く心に誓った。
そのすぐあとに、携帯の番号を交換する。
……いっとくけど、これは仕事だからな。
おれのほうに転送された栄治の顔を確かめた。
短く立ち上がった金色の短髪。顔は浅黒く、ごつごつと岩のような印象。
目は細く、肌が荒れていた。
ひび割れた唇に血をにじませて、やつはぎこちなく笑っている。
野獣は外見ではわからないものだ。
おれはこの男がどんな顔をして、チヒロの兄を襲ったのか想像しようとした。
お手上げ。
人には自分でさえわからない無数の顔があって、他人にはそのうちのいくつかを知ることさえ絶望的に困難なのだ。
そいつは、おれが何年かストリートのトラブルを扱って、ようやくわかったことのひとつ。
まぁ、おれの場合、ぜんぜんスキルアップなんてしないんだけどね。
フレッシュメロンジュースもすっかりぬるくなっていた。
レジの横には入店を待つ客もいる。
最後におれは聞いた。
「なあ、チヒロ、ほんとにまだこのエイジって男の足を壊したいのか。そんなことしたら、そっちまでこのケダモノと同じ位置におりることになるんだぞ。よく考えて答えてくれ。」
チヒロはじっと空になったカクテルグラスをのぞきこんだ。
おれはゆっくりと待つ。
誰かが真剣に考えている時間とともにすごし、たっぷりと待つ。
おれはそんな時間が嫌いではない。
みんな答えを急ぎすぎなのだ。
自分自身にうなずきかけて、チヒロはいった。
「やっぱり、お兄ちゃんの苦しみをあのケダモノにもあたえてやりたい。よくわからないところもあるかな。だけど、ひとつだけは絶対に確か。それはね、悠さん」
チヒロは目に力を集めて、ななめうえにある俺の顔にビームを放出する。
人の思いを託した強力な光線だ。
それは一時間前には見ず知らずだった心を結ぶほどの力があった。
「このままでは、いけないっていうこと。わたしはなにかできることをしなくちゃいけないし、そうしなければ満足できないだろうって思う。これは兄のためでもあるし、わたし自身の問題でもある。それにね、おおげさにいったら、この世界全体の問題なの。このままで終わるなら、わたしは世界を信じられなくなる。だから……」
おれはISPの販売ウーマンの言葉に胸を動かされていた。
ついいらぬ口を挟んでしまう。
「だから、どうしたい?」
チヒロはすべてを受け入れた静かな声でいった。
「必要なら、あのケダモノの足を壊してほしい。」
おれは心のなかでため息をついたが、おしゃれなフルーツパーラーには、少しも漏らさなかった。